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終焉少女と時の魔法使いのマジカルライフ  作者: ラキューム
第一部
13/38

例外は常にあなたのそばに

「それで、クレアさんは何を視たんですか?」

階段を上りながらクレアさんに聞いてみる。まだ手を掴まれたままだが、だいぶん上ったしここなら聞けるだろう。

「そうね、一応見てみたけどあの男がここに上ってくる未来は見えなかったから大丈夫そうだけど、一旦落ち着けるところまで上りましょう。 結構大事な話だからちゃんと聞ける場所で話したいのよ」

「わかりました。じゃあ、駆け上がりますので一旦抱えますね。しっかり捕まっててください」

「わかった。でも私が怪我をしないようにしなさいよ?一国の王女をお姫様抱っこして運ぶからには揺れたりしない様にいいい!?」

 クレアさんがこの状況で何か言おうとしていたので、さっさと肩に担いだ後、階段を段飛ばしで一気に上っていく。 ちょっと申し訳無いような気がしたが、三回くらい繰り返した後で上り終えたみたいだ。クレアさんの反応が無いので降ろしてから様子を見てみると、彼女は気絶していた。

「大丈夫ですかクレアさん!起きてください!」

 頬をぺちぺちと叩きながらクレアさんを起こす。気絶させた本人がこんな事を言うのはおかしな話だが、起こさないと話を聞く事ができない。 うん、我ながら良い性格をしてると思う。いったい誰に似たんだか。

「馬鹿じゃないの? ねえ、何を思ったらあんな運び方をしようと思ったのよ。普通におんぶするとか他にも方法はあったでしょう?私に負担がかからないやり方が」

「すいませんでした」

「はぁ、まあ、今は説教なんてしてる時間は無いわね。本題に入るから正座して聞きなさい」

「はい」

 それでも怒っていることには間違い無いようで、正座するように指示されたので大人しく従う。これに関しては私に非があるからしょうがない。

「あの男、多分ここが何なのかを理解した上で入って来てる。あいつがここに眠る何かを手に入れているのが見えた。そしてあいつに私が殺されるところもね」

「ノアさんがそんなことを!?それに、クレアさんを殺すなんて正気なんですか!?」

 先程までは比較的友好的に接していたのにそんなことが有り得るのだろうか?しかもヴェルディへの亡命すら望んでいた人物なのに、それは無いだろうと言い返そうとしたが、クレアさんが未来を見たと言うなら、まだ知り合ったばかりのノアさんでは無く彼女を信じるべきだろうと、悶々と思考を巡らせていたが、クレアさんに軽く頭をはたかれて思考の波から意識を引き戻した。

「落ち着きなさい。その未来が見えたからこそ、その時とは違う行動を取っているの。さっき見た未来では私はあの男と二人で下に降りて行ったけど、今回は貴女と上を目指している。この時点で私の死はある程度回避されたはずよ」

「確かにクレアさんの死は回避できたかもしれませんけど、それだとノアさんがその『何か』とやらを手にするのを止められないじゃないですか。なんなら私が今から降りて行って彼から目的とかを聞いて来ましょうか?」

 私の力ならノアさんを組み伏して話を聞くことは容易だろう。万一の事を考えて息の根を止めて来てもいいくらいだ。少なくとも優先させるべき命くらい区別はつく。

「・・・それだと余計に酷い事態になるわね。却下、取り敢えず先に進みましょう。ここだと魔術で通信もできないから、屋外に出ましょう」

「グレースさんは・・・多分駄目だから、メリッサさんにでも手を借りるんですか?」

「いいや、違うわよ。まあ、まずはこの扉の先にいる奴を片付けましょうか」

 クレアさんが扉を開き、臨戦態勢を取る。彼女の体には薄っすらと魔力の線が浮かび上がっており、いくつかの魔術をすぐに使えるようにしているようだ。 扉の向こうには巨大な騎士が剣を床に突き立て、こちらを見据えているように感じる。 全高が五メートルを超えているのを見る限り、中に人は入っておらず、無人で動いているように見える。

「私が前に出ますから、足止め等々お願いします」

「オッケー。『バインド』!」

 光の鎖が地面から出現し、敵を縛り付ける。その隙を突き、炎を纏わせた拳で思い切り殴りつけ、胸倉を掴んだまま床に叩きつける。

「クレアさん、そのまま相手の四肢を拘束しておいて下さいねっ!」

「わかった!」

 地面に縫い付けられたそれの上に馬乗りになり、拳を振るう。 

「はっ!」

 一発目で兜をただの鉄板にした。しかし、相手は生きている生物では無いので完璧に潰しておく必要がありそうだ。

「はああああああああああ!」

乱打、乱打乱打乱打乱打打乱打打打と、床に亀裂が走り、破片が宙を舞ってもお構いなしで拳を落ちし続ける。 全体の形が鎧ではなくただの金属板になるまで殴り続け、一通り終わったところで拳を止める。この間約十秒。グレースさんの二分の一くらいのスピードだ。ちなみに身体強化や時間加速など無くてもこの速さらしい。私が言えた話じゃないがあの人がぶっちぎりで化け物だと思う。というのは置いといて。

「終わってないわよ!破片から新しい敵が生成されてる!」

「わかりました!一掃しますから、離れてください!」

 私の周囲をぐるりと囲むように増えた騎士、飛び散った破片の数だけ増えているという事は、間違いなくこの部屋を埋め尽くすくらいには増えているはずだ。

「無理よ こいつら一体一体は弱いけど、滅茶苦茶増えるし、数が多くて先が見えないわ!」

 クレアさんは魔術で応戦しているようだが、長くは持たなさそうだ。一掃する前に、まずはクレアさんを巻き込まない位置まで退避させるために、彼女を助けに行かないと。

「そのまま押しつぶされない程度に応戦を!今そっちに行きます!」

 本当なら範囲攻撃で一気に進みたいところだが、うっかり巻き込んでしまったら普通にクレアさんを殺してしまうのでそれはできないため、炎を太刀に変えてずんばらりと薙ぎ払い、クレアさんの近くに向かっていく。

「サリア、貴女ってどのくらいまでなら耐えれる?」

「何にです?」

 叫ばなくともお互いの声が届く位置まで近寄った時、クレアさんがそんなことを言って来た。耐えれるかどうかを聞いている割には既に魔力は十全に溜めているところを見ると、撃つのは彼女の中では決定事項みたいだ。

「貴女の範囲攻撃なら最悪私も死ぬけど、私が撃つ分には大丈夫でしょ?」

「確かにそうですけど、そんな威力の魔術を今使って大丈夫なんですか?さっきの話だとノアさんと戦うことになりそうですけど」

「大丈夫だから言ってるの。それよりも怪我しないように防ぎなさい!」

「ああもう、クレアさんって割と人の話を聞きませんよね!」

 そういいながらもダッシュで部屋の隅まで移動して攻撃があまり当たらない様にする。 その間にもクレアさんの魔力は高まっていき、空気が揺れ始めた。

「行くわよ、『氷華遡月』!」

  術式名を叫び、その体から魔力を解き放つ。 彼女を中心として氷は周囲の鎧全て飲み込んで部屋全体に氷の花が創られて行く。 咲き誇る氷の花は、その中心に立つクレアさんの持つ可憐さと美しさをさらに引き立てており、宙に舞う氷片がキラキラと舞っており、幻想的な光景が現れていた。

なぜ私がそれを見れているのかというと、部屋の端に行ったは良いが普通に巻き込まれ、首から下が氷漬けになってクレアさんの方を向いたまま固まってしまっているからだ。

「クレアさんクレアさん、ちょっと凍っちゃったんで」

「溶かせばいいの?」

「いや、一回自爆して吹き飛ばしますからできればこの部屋から出てください」

「ちょっと待ちなさいよ!ってなんでもう魔力を高めてるのよ!」

 クレアさんが部屋から出るのを待って、魔力を暴走させ、四肢に行き渡らせる。全開で魔法を使えない以上、心臓と脳が消し飛べば私も再生できるか分からないため、四肢を爆裂させるので精一杯、それでもこの部屋を床ごとぶち抜くぐらいの威力は出るだろう。

「一応身を守っててくださいね!」

「もうやってるわよ!」

 それなら大丈夫そうだ。魔力を臨界までチャージし、それを一気に爆発させる。

「それじゃあ、いち、にの、どーん!」

 かなり陽気なノリで爆発した。粉塵で何も見えないが、思ったより威力が強かったのか、下にどんどん落下していってるのがわかる。 さて、どうしたものかと思っていると、体を抱えられてそのまま空中に固定される。

「なにがどーんよ。貴女を抱えたままだと上昇できないから一旦着地するわね」

 クレアさんは魔術で風の翼を編んでおり、それで浮いていた。 本人が言う通り、今はホバリングしている状態であり、空中に留まるのがやっとといった様子だ。ゆっくりと下降していく間、改めてどこまでぶち抜いているのかを確認してみる。 氷が盾になっていたのか、横方向には爆発の威力は行かなかったようだが、その分上下に威力が収束してしまったようだ。

「これにノアさんも巻き込まれていたら結構楽になりますよね」

「貴女って一回敵って認識したらそこそこ仲いい人物でもあっさり殺せるタイプなの?」

「まあ、身内でもない限りは割と殺せますね」

「命乞いされたらどうするの?」

「そうですね。酷いとは自分でもわかっているんですけど、その相手を生かしておいてメリットがあるのなら聞きますね」

 グレースさんとの修行の時に教えられたことの一つがこれだ。命乞いされたら感情ではなく損得で考えろ。たとえ相手と仲が良かったとしても、命乞いされるような状況になった時点で関係性の修復なんて不可能なのだから生かして危険があるのなら容赦なく殺せ。いつ思い返しても酷い話だと思うが、それで自分や他の人を危機に晒すわけにはいかないのだ。

「私も一応王族だから、その点は同感よ。やっぱりそういうのには非情にならないと、民を危険に晒すことになるかも知れないからね」

 そういったクレアさんの表情は、グレースさんがこの国の事を語る時に見せる、国を作り、治めた一国の王としての表情そのものだった。いつもの快活な少女のような明るい表情では無く、精悍でキリッと引き締まった顔をしていた。

「クレアさんって、初めて会った時はなんかしつこい変な人だと思ってたんですけど、ちゃんと王族だったんですね。最初からそのモードで来てくれれば二つ返事だったのに」

「オフでも王女様モードなんてやってられないわよ。それに、王位継承権は無いけど貴女もグレース様の養子である以上同じ王族で、同い年の女子だもの。貴女の前なら素の私でもいいでしょ?」

「サラッとそんなこと言わないでくださいよ。照れるじゃないですか」

 こういうところは先祖と同じなのか、臆面も無く聞いてるこっちが照れ臭くなるような事を平然と言ってくる。グレースさんは間違いなく自覚があってやってるが、クレアさんは天然でタラシ気質なのかもしれない。

「ほら、もう足も戻ってるみたいだし降ろすわよ」

「はい、そこの瓦礫が平らになってるところにお願いします」

 床は完全に抜けてしまっており、落ちた瓦礫が積もっていた。手足の再生は終わっていたので平らになっている場所に降ろしてもらう。

「さて、私の死の未来を確実に回避するために最後の一手を打ちましょうか」

「あれ? 私と一緒に進んだ時点で変わったんじゃないんですか?」

 確かにクレアさんの口から聞いたはずなのに違ったのか・・・。ちょっとショックだ。

「さっき見てみたけどね、まだ死に向かう運命があるのよ。貴女の全力に巻き込まれて消滅とか」

「確かにその可能性はゼロじゃありませんけど、じゃあどんな手を打つんですか?」

「助けを呼ぶのよ。こういうところに興味がありそうで、気軽に手を貸してくれそうな人をね」

 そう言ってクレアさんはカバンから魔法石を取り出した。国軍でも使われている通信用のものだ。

それに魔力を流し込んで誰かと話しているようだ。

「これで良し。間もなく来るって言ってたから大丈夫よ」

「終わったんですね。ところで誰が」

「さあ、大魔術師アリスちゃんの登場だ!」

「まさかのノータイム!?」

 私がクレアさんに質問している最中に空間が割れ、アリスさんが空から降って来た。いかにも魔術師然としたローブにとんがり帽子をかぶり、長杖を持っている。

「陛下の真似事くらいは魔術でできるからね。伊達に五千年も生きてるわけじゃないよ」

「流石は先生。相変わらずの意味不明っぷりですね」

「そこのサリアちゃんや陛下レベルじゃないよ」

 いや、魔法を魔術の域で再現できるだけで十分意味不明だ。ある意味この人が一番危険人物なのかもしれない。クレアさんがアリスさんの生徒だったことにも驚いた。国内で一番の魔術師は間違いなくこの人だけど、結構性格に難があるし、私もあの時の選択によっては実験台にされてたし、大丈夫なのだろうか。

「そんな怪訝な目で見なくても大丈夫だよ。今は今(・)は(・)実験台にしようだなんて考えていないから。とりあえず目下の問題を解決しよう」

 明らかにその内実験台にすると宣言され、抗議の声を上げそうになったがクレアさんから口を防がれた。 

「まあ、見てなさい。先生はちょっとアレな所もあるけど凄いのよ」

 アリスさんのアレな所もクレアさんは知っているのか。もしかしたらグレースさんの事でも聞いてしまい、それで本性を見ることになったのかもしれない。

「さて、認識拡大、構造把握、生命反応確認、破損修復、支配権強奪、構造変更、経路創造、宝物の検索と確認、発見、当該物の詳細を視認、対象、認識不可能、接近する生命体を確認、通路を封鎖」

 地面に手をあて、魔術を行使し始めたアリスさんはただ機械的に呟いていた。何を行っているのかはわかるが、全てをほぼタイムラグ無しで次々と発動しているというのは正直驚嘆した。あんなの私でもできない。私のできることと言えば、丸ごと消し去ることくらいだ。

「よし、探し人もそいつが狙っているものも見つけたことだし、先回りして手に入れるとしようか」

 いつの間にか私が爆発して開いた穴は完璧に修復していた上に、下に続く階段まで現れていた。

「どう? 先生は凄いでしょ?」

「いや、ちょっと凄すぎやしませんか?」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど全力はこんなもんじゃないよ。ほら、先に行くよ。驚いている暇なんてないよ?」

 驚いている私の背を押し、そのまま先に進んでいくアリスさん。クレアさんも後から続いてきている。ふと、クレアさんの魔術でも認識できなかった宝物について気になった。グレースさん並みに何でもアリっぽいこの人が解らない物。確実にヤバい物なんだろうなと思いつつも、少しだけ期待に胸を躍らせて先を進むのであった。



 

 







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