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声の方を振り返ると、ふさふさした大きな栗色の尻尾が柱の陰から見え隠れしている。それは素早く動いたかと思うと、宝珠の祀られている祭壇へと移動した。高い位置にある祭壇に難無く辿り着き、絶妙なバランスで壁に張り付いている。
彼女が宝珠に触れると、地響きと共に鋭い鉱物が四方から迫り出して来た。女の子はくるりと身を翻してそれを避け、さらに高い天井付近へと逃げる。それは彼女の足跡を追うの様に暫く彼女を追い掛けたが、一定の距離を取ると中へと消えていった。
「なるほど〜」
器用に天井に張り付く女の子は感嘆の声を上げる。
小さな丸い耳を生やした金糸雀色の巻き毛の、まだあどけなさの残る少女だった。彼女の幼い 黒目がちの大きな目と桃色の唇が嬉しそうに笑う。
余りにも急な出来事に、ナディルは呆気に取られ、ガイ=オーラムに尋ねた。
「あれも君の知り合い?」
「違ウ!あんなヤツ知らない!」
だとしたら、彼女は一体、何者なのだろうか。
ナディルの思いを他所に、ライナは血の気の引いた顔で彼女を見つめていた。
ーー何で……
心臓のバクバク鳴る音を全身で感じながらライナは動けない。
「菊ちゃん、わかっちゃった♪」
そう言って何かのジェスチャーでもする様に手を動かしたかと思うと、ガイ=オーラムがスルスルと宙に浮いていった。ナディルは慌ててガイ=オーラムを解放するが、ガイ=オーラムはバタバタと捥がくだけだ。彼はそのまま宝珠の前まで行き動きを止めた。吊るされた様に浮かんでいる彼の上に少女が飛び移る。
「びっくりしちゃった?大丈夫、大丈夫♪怖がらなくていいよ〜」
「誰が怖がってるっテ⁉︎」
目を丸くしていたガイ=オーラムは少女の挑発した様な口調に、グルルっと喉を鳴らして威嚇する。
「やだ〜菊ちゃん、こわぁ〜い。狼って、野蛮で、ガサツで、好きくなぁ〜いっ」
少女は身体をくねらせてガイ=オーラムの右肩から左肩へと移動する。
「なんちゃって♡ふふっ♡折角だから男前にしてあげる〜♪♪」
彼女はガイ=オーラムの顔を覗き込み、楽しそうに言ってにっこり笑う。そして彼の胸を躊躇なく切り裂いた。
誰もが予想していなかった彼女の行動に驚いて息を呑む。
「心臓に近い血は新鮮で美味しいんだよ〜♡“カミサマ”も喜ぶね♪」
「っ‼︎」
彼の血は飛び散り、宝珠に真っ赤な斑点が幾つもできる。
黄金に光る宝珠は彼の新鮮な血液を浴びてキラキラと輝きを増す。
「ん〜♪いい色♡」
彼女は目を輝かせ、ぺろりと真っ赤な小さな舌を出す。そして再び宝珠に手を伸ばした。宝珠は難無く彼女の小さな手の平に収まった。
彼女は小さな身体をくるりと反転させて、柱の縁から縁へと器用に飛び移り、入り口の方へと逃げて行った。ガイ=オーラムを宙に浮かしていた力が急に無くなり、彼はどさっと音と共に地面に落ちた。その衝撃と共に地面から幾つもの鋭い鉱物が突き出してきた。
「ガイ‼︎」
妖精の少年は器用に其れ等を避けて、ガイ=オーラムに駆け寄った。カリュウとカハクも彼に続く。
ライナとナディルは逃げた少女の後を追う。
「……待って‼︎」
ライナは躊躇しつつ、彼女に向かって叫んだ。
少女は振り返りライナを見つける。
「あれ、キミ、何でこんなトコロに居るの??」
少女は丸い目を見開いて、心底驚いた顔をした。
ライナは少女を知っている。
ーー栗鼠の獣人、菊月。何故彼女が此処に?
自分を連れ戻しに来たのだろうか。それともずっと監視されていた?
しかし、彼女の様子からするとどちらとも思えない。
ライナは眉間に皺を寄せて菊月を睨む。
そんなライナを見て菊月は楽しそうに笑う。
「ダディがキミの事探してたよ〜?
菊ちゃん、何も言われてないからぁ、今回は見逃してあげる!だからそんな怖い顔しないで♡」
菊月はライナにふわりと近付き耳元でそっと囁くと、楽しそうにうふふと笑いながら入り口へと逃げて行った。
ライナは慌ててその後を追い掛ける。
ナディルも後を追おうとすると、突然壁や床に描かれた幾何学模様が黄金に光り出し鉱物が突き出して行く先を邪魔する。ナディルは剣を取り出し応戦するがライナとの距離は開いていく。ナディルは焦りながら必死に彼女を追った。




