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「カリュウ、大丈夫?一度落ち着こう」
ナディルは黒い塊りになったガイ=オーラムを横目に、カリュウの側まで近づいていき、荒く呼吸をする彼女の両肩にそっと手を置いた。
カリュウはそこで我に返ると顔を逸らし、小さな声で言った。
「……そうね」
彼女は真っ赤になった顔に手を当てる。
自分の中に仕舞い込んでいた感情が爆発して、それを皆の前で晒してしまった事を恥ずかしく思った。聖職者として有るまじき発言と行動。しかも、よりによってカハクも居る前で。
ーーなんて事……‼︎
カハクをちらりの見る。カハクは目を見開て祭壇を見ていた。
ライナはその光景を少し離れて眺めていた。さっきからなんだか周りがゆっくりと動いているみたいだ。ガイ=オーラムの腕の動きも、ナディルの歩みも、カリュウが雷を祭壇に落とす瞬間も。まるでスローモーションの様に見えた。
心臓はまだバクバクと脈を打っている。
自分の中の何かが沸騰しそうだった。
ーーよかった……
安堵と共に汗がどっと出て、その場に座り込んだ。
ーーもっとしっかりしなきゃ。もっと強くならなきゃ。
ライナは汗ばんだ自分の手をぎゅっと握り締める。
「さて、説明してもらおうか。」
ナディルの足から細い影が生き物の様に動く。黒い塊だったガイ=オーラムの影がスルスルと紐が解ける様に消えていき、蒼白な顔が現れた。
「コレは何だ‼︎気持ち悪イ‼︎外セ‼︎」
ガイ=オーラムはその大きな目を泳がせ叫んだ。
「それはできないな。自分達の状況、考えてみな」
ナディルは笑顔のままだが、言葉は冷やかだ。
「まず、彼は誰?」
ナディルは仲良く床に転がる精霊の少年を指差す。彼のペリドットの瞳がガイ=オーラムを捕らえる。
「……コイツはシロガネだ」
ガイ=オーラムがしぶしぶ答えると、シロガネと言われた少年から氷より冷たい刺す様な視線が向けられる。余計な事を喋るな、とガイ=オーラムは視線で黙らされる。
「君はどうしてこんな獣人だらけの大陸にいるのかな?」
「……」
今度は2人とも黙り込んで答えない。シロガネは目も合わせてくれない。
ナディルは諦め気味に溜め息を吐く。
「まぁ、いいや。取り敢えずオトモダチなんでしょ?珍しい組み合わせだけど、きっと色々あるんだよね。
で、どうして急にカリュウを襲ったの?ガイ=オーラム」
ナディルは今度は容赦なく黒い蔦でガイ=オーラムの顔を固定して、少しきつめに締め上げた。
「コ、コレは、宝珠を手に入れる為には生け贄が必要だから。
オマエにはすまないと思ったガ……」
ガイ=オーラムは苦しそうに横目でカリュウを見て言葉を濁した。
確かに斧を振り下ろす彼には迷いがあった。だからカリュウの魔法の発動までの時間があったのだろう。
ただ、あの時、何か別の力が働いた様に思えた。彼を捕らえる別の何かが。
「生け贄?」
「そうダ。儀式と言えば生け贄が必要ダ」
カリュウは祭壇の赤黒いシミを見てゾッとした。
これはきっと、今まで繰り返し行われてきた“儀式”の跡であろう。
「生け贄は神と我々の繋りを強固にスル」
「か、神はそんなもの欲していないわ!」
生け贄が必要だと繰り返すガイ=オーラムに、生け贄にされかけたカリュウがむっとして言い返す。
「お前の“神”と我らの“神”は違うっ‼︎」
ガイ=オーラムは一緒にするなとカリュウを強く睨む。
カリュウは怯む。
……確かに、そうかもしれない。カリュウがいくら彼女の知る神を語ったところで、彼らの知る神とは違うのかもしれない。カリュウが知っているのはカリュウに都合の良い一面で、彼らの求める神の一面とは違うのだろう。たとえ同じ景色を見て同じ経験をしたとしても、感じる事は皆違うのと同じだ。
彼女の中の絶対的で圧倒的な存在が揺らぐ。
ナディルは怪訝そうな顔をする。
「今まではそんなもの必要なかったけどね」
「イヤ、神には生け贄が必要ダ‼︎」
ガイ=オーラムは断固として譲らない。精霊の少年は目を瞑りずっと口を噤んでいる。
彼がここまで頑なだと、この宝珠に関しては“生け贄”が必要なのかもしれないと思えてくる。
「それ、何か他のものじゃダメなの?」
カリュウが溜め息混じりに尋ねる。いくら生け贄が必要でも自分を差し出す訳にはいかない。
「食べ物や酒はもう捧げタ。後は生きのいい贄だけダ」
平行線のままの遣り取りに埒が明かず、沈黙が訪れる。
その沈黙を破る様に突然、キンキンした可愛らしい女の子の声が響き渡った。
「あ〜ぁ、面倒だなぁ。要らないなら菊ちゃんがもらっちゃうよ♪」




