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シャヒは世界樹の天辺に巣食い、輝く身体でいつでも世界樹を明るく照らす役目を負っていた。美しく身体はシャヒの自慢だったが、誰も彼を讃えたりはしない。シャヒの存在自体、知る者は少ない。
大きな世界樹の下からは彼の姿は見る事はできず、彼はいつだって独りで世界を眺めていた。
シャヒは神の子に作られた存在の一つ。世界の灯台の様な存在だった。
木の上から見る世界は幸福と絶望に満ちていた。シャヒの居場所は安寧と平穏が約束されていたが、長い時間をたった独りで過ごす彼は退屈していた。
眺めるだけの世界では、生命は苦心しながらも番い、営み、幸せそうに見えた。
フレースヴェルグは世界に風を起こし、ヴェズルフェルニルは嵐を消し去る。
変わらぬ彼らもシャヒと同じ様な存在だが、世界に変化をもたらし、生命に影響を及ぼす。彼らは世界の一端で、それに彼らは番いだった。
そんな2匹を羨ましく思いながら、シャヒはただ独りで木の上から眺める。
退屈な日々の続いたある日、世界樹を登ってくる好奇心旺盛な少女を見つける。
彼女からは人間の匂いと精霊の匂いがした。相いれない2つの混ざった不思議な匂いはシャヒの関心を惹いた。
彼女はフレースヴェルグとヴェズルフェルニルの居る場所から上を仰ぎ見て、シャヒの存在に気付く。
そしてシャヒに向かって言った。
「きれい……」
自分の存在を見つけてもらった事と、自分の姿を初めて褒めてもらった事でシャヒの心は高鳴った。嬉しかった。世界に生きる誰かに認めてもらう事で、自分も世界の一端に加わる事が出来た様な気がした。
「もっと高いところから街を見たいの。
高い空の上から遠くを眺めてみたいの」
彼女の些細な願いを叶えてあげたくなった。
自分がいつも見ている光景を共有したいと思った。彼女と世界を分け合えばシャヒの孤独や退屈が消えて無くなる様な気がした。
シャヒは彼女を掴み上げると、世界樹の上へと羽ばたいた。
世界は驚きに満ちていて、美しく儚いんだよ。
彼女に世界を見せてあげたかった。
世界樹の上へと飛び出した瞬間、神の子に捕らえられた。
「こんな処に隠れていたのか」
神の子は煌々と輝きながら彼女を抱き上げる。
シャヒは久し振りに目にする彼の姿に驚いた。
「お前のお陰で見つけられた。
お前の望みを1つ叶えよう」
神の子は意識の無い少女を抱きかかえてシャヒに言った。
「世界の一端になりたい」
シャヒは安寧で平穏な役目と輝く身体を捨てて、世界で生きる事を願った。
自分も世界に関わり、その一端を担いたかった。
「良かろう」
神の子はその口元に笑みを浮かべてそう言うと少女を連れて消えてしまった。
そうしてシャヒは少女と引き換えに自由を手に入れた。
少女はシャヒの恩人だ。
神の子は宝珠を通してシャヒに問う。
「世界はどうだ」
シャヒは自由になって、森を渡り歩いた。
人の形を模したが、6枚羽は隠せなかった。
自分の姿に似た2枚羽の獣人の集落を訪れたりもしたが、警戒心の強い彼らは誰も自分と番いになってくれなかった。
普段鳥の姿でいると獣に襲われたりもした。
世界には想像していた以上に危険や悲しみが満ち溢れていた。
「世界は残酷で嘆きと痛みに溢れている」
シャヒは清閑な声で言う。
「それではお前は後悔しているのか」
それでも地面は柔らかく生命に満ち満ちている。花の匂いは芳しく、大地を覆う草は逞しい。命の鼓動を感じ、温もりに触れる事が出来た。生きる実感がした。
「それでも世界は美しい」
神の子は少しの沈黙の後、そっと言った。
「そうか」
その瞳には満足げな喜色が見えた。
「私は私が創ったお前だけではなく、この星が生んだ者の答えも聞きたい」
神の子はそう言うと静かに遠ざかって行く。
「お前は灯台として導いてやれ」
彼は言葉と共に光になって消えていった。




