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セブンス エッダ  作者: りん
風に謳う心
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4

 エンコは大通りの店を目移りしながら楽しそうに歩く。店の前に陳列された土産物をしゃがみ込んで吟味したり、風に揺れて音を出す飾りに触れてみたり、忙しそうに店と店を行き交う。

 ハイメは面倒くさそうにその後をゆっくりと付いて歩く。

 何がそんなに楽しいのだろうと思いながら通りを眺めると、通りの角に作られた小さな公園を見つける。ハイメは木陰に設置された白いベンチに腰を下ろすと黄金の羊を取り出した。そしてそれを枕代わりにだらしなくしな垂れると、エンコに声を掛ける。


「僕、ここで休んでるから見ておいでよ」


 ハイメはエンコの返事も待たず目を閉じた。

 エンコはハイメの様子に頬を膨らましむくれたが、仕方無く1人で散策を続ける。


 暫くして、眠るハイメの頬に冷たい何かが触れる。

 ハイメは驚いて身体を大きく震わせて飛び起きた。


「わっ‼︎何⁉︎」


 目を開けるとエンコが呆れた顔で冷えたジュースを差し出す。


「あれ、エンコ?もういいの?」


 エンコはハイメの隣に勢いよく座る。


「買い物ってね、1人でしたい時もあるけど、誰かと一緒の方が楽しいの」

「えぇ〜?そうゆうもの?」


 ハイメは面倒くさそうにジュースを飲む。


「感動や喜び、驚き。感情を共有する事で楽しさが増すものなのよ」

「感情を共有……」


 ハイメは今まで考えた事も無かった言葉を噛みしめる様に言った。


「そうよ。楽しい事を分け合う事でもっともっと楽しくなるの。

 同じ時間を共有する事は思い出にもなるし、とても素敵な事よ」


 エンコはにっこりと美しい顔で微笑む。

 エンコの思考はハイメには考えも及ばないものばかりでいつも驚かされる。彼女といると自分がより人間に近付ける気がした。




 パラスロットの司教は、司教とは名ばかりの腰の低いだけの人物だ。竜妃の遣いであるナディルに何度も頭を下げ、教会として地位の高いトレパイルの司教であるカリュウの機嫌を取る様に分かりやすくゴマをする。

 カハクがこんな男の下で働いていたのかと思うと、不憫で仕方無く思え、だんだん腹さえ立ってきた。

 憤りながら足早に回廊を歩いていると、裏庭にライナとカハクの姿を見つけた。

 カハクは眩い光の下で優しそうに談笑している。彼の笑顔を見ていると、乱れた心が落ち着き醜い気持ちが浄化されていく様だった。彼の側にいれば自分はいつまでも清いままでいられる、そんな気がした。


「カハク……」


 ーーやっぱり私達、離れてはいけなかったんだね。

 知らぬ間に口に出したカリュウの声にカハクは反応して振り返った。


「カリュウ、もうお話しは済んだのですか?」


 カハクは昔と変わらない優しい声と笑顔で言う。


「えぇ。ご挨拶しただけだから」


 司教の顔を思い出して、悪口が喉元まで出かけたが、慌てて口を閉ざした。仮にもカハクの上司である訳だし、汚い言葉でカハクを汚したくなかった。


「そう……それなら良かったです」


 カハクはカリュウの表情から些細な感情まで読み取る様に含みを持たせた物言いをした。


「ライナ!」


 後ろからナディルの声がした。怒りながら早足で歩いてきた為、いつの間にか置いてきてしまったナディルが背後にいた。ナディルは笑顔でライナに手を振る。彼の妹を見る嬉しそうな笑顔は見ているこっちにまで幸せな気持ちが伝わって来る。愛おしそうな表情に親近感を覚える。自分もカハクを呼ぶ時こんな顔をしているのだろうか。


 呼ばれたライナは鳥を肩に乗せたままナディルに近付いて来る。


「あ、この鳥、ライナが助けてあげた子?」


 ナディルはライナの肩に留まる鳥をまじまじと眺める。


「うん……」


 微笑むナディルにライナは気恥ずかしそうに答える。

 ナディルが鳥に手を伸ばすと、鳥は立ち上がり威嚇する様に羽をばたつかせた。


「わっ……!ごめんごめん」


 ナディルは慌てて手を引っ込めた。

 ライナも驚いて目を丸くしながら鳥を見て、落ち着かせようとそっと声を掛ける。


「どうしたの?

 びっくりしたのかな……」

「俺、嫌われちゃったかな?」


 ナディルは眉を下げて苦笑いする。


「ところでライナ、少し買い物に付き合って欲しいんだけど……いい?」


 ナディルはライナの様子を伺う様に尋ねる。


「いいけど……」


 ライナは訝しげにナディルを仰ぎ見る。

 ナディルはライナの怪訝な視線を機にする様子もなく嬉しそうに微笑む。

 ライナはカハクを振り返る。カハクは行ってらっしゃい、と手を振った。


 ライナとナディルが連れ立って出て行き、カリュウはカハクと2人きりになった。

 きっと気を回したナディルの計らいだろう。


「カハク……」


 ライナの後を目で追うカハクに、カリュウは声を掛けた。


「何でしょうか?」


 カハクはカリュウに向き直り、あの優しい笑顔を向けた。

 カリュウはその顔を見て心が安らぐ。


「カハク、あの、久しぶりだね。元気だった?」


 カリュウは長く離れていた弟に何と声を掛ければいいのか分からず、ありきたりな質問をしてしまう。


「はい。カリュウもお元気そうで何よりです」


 カハクはにっこりと笑顔で言う。


「パラスロット、良い所みたいだね」

「そうですね。落ち着いた気候で住みやすい街です」

「司教様とは上手くやってる?」

「はい、問題無く」

「そう、良かった。

 困った事とか嫌な事とかはない?」

「大丈夫です」

「お母様も相変わらずだけど元気よ」

「そうですか、それはよかったですね」

「……」


 カハクは終始笑顔で答える。

 言いたい事や聞きたい事が沢山あるのに上手く続かない会話に言葉が詰まる。


 ーーあれ、何だろう……?

 カリュウは言い知れぬ違和感を感じた。

 カハクの笑顔、穏やかな口調、そっくりな私達。何も可笑しな事など無いはずなのに。カリュウにはその違和感のその正体はわからなかった。



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