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セブンス エッダ  作者: りん
風に謳う心
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1

 偶に音の無い夢を見る。

 映像だけが淡い色調で流れ、眩しい光の中にいる様な錯覚に陥る。

 自分は金縛りにあったみたいに身動きが取れず、只々流れる映像だけを見せられる。

 近い内に起こり得る未来。

 未来を覗き見て、良かったと思った事など一度も無い。だってそれは変える事が出来ないのだから。まるでタチの悪い白昼夢だ。

 カハクは夢の訪れに目眩を覚える。


 白い光の中でカリュウが蜜色の髪を揺らして振り返る。カリュウは自分と同じだけ年を重ねていて、幸せそうに破顔する。

 真っ白な死者の花が彼女の足元に咲き誇り、懐かしい息の詰まる様な甘い匂いまで漂ってきそうだ。


 ーーカリュウがやってくる


 変わる事の無い未来はカハクにカリュウの訪れを知らせる。



 カハクはカリュウの事が苦手だ。

 何もかもを与えられた姉。自分の得られなかったものを全て無条件に手に入れていた。

 生まれた時から一緒に過ごす自分達を、周りはそっくりだと口を揃えた。

 カリュウはカハクを穏やかで優しい愛しい子と言い、例え側に居なくても心が通っていると信じ込んでいる。

 2人の道が分かれたのは、カハクが遠くの教会に追いやられる事が決まってからではない。

 本当は生まれた時から身体も心も全く別の生き物だった事を、カハクは誰にも悟られない様にそっと自分の胸にしまい込んできた。



 ライナに出会う前に見た夢は、いつもの悪夢とは違い、銀色の眩しい光から声が響いた。


「運命を廻す娘だ」


 その時カハクは、彼女が自分をここから連れ出してくれる人物だと確信した。

 それが嬉しくて、未だ時が満ちていない事を知りながらも、一刻も早く鳥籠の様な街を出ようとした。定めから逃れられる様な気がした。例えその道さえも決められているものだったとしても。

 でも未来は変えられず、また籠の中に戻されてしまう。


 カハクは小さい時に一度だけ同じ銀色の光の声を聞いた事があった。


「お前は姉に殺される」


 心の奥まで入り込む声は長閑に、しかし力強く言った。

 何故だかカハクはちっとも恐ろしくなかった。どんなに足掻いても、この先どんな選択をしても、決して逃れる事はできないのだと強く強く確信した。それでもカハクの心は凪いだままだった。


 ーー私はカリュウに殺される


 初めに沸いた感情は悲しみでも怒りでもなかった。

 その言葉はスルリとカハクの中に入り込み、逆いたいとさえも思えなかった。

 どうして自分の心はこんなにも静かなのだろうか。

 それは彼女に対する多大な愛情と憎悪。そして安寧。

 彼女の事が大切で愛おしくて殺したい程憎かった。そして自分の最期の時カリュウが傍に居る事に酷く安心した。


 カリュウを侮辱の言葉と共に殴りたい。そして溢れるばかりの祝福のキスを与えたい。


 カハクは初めて生まれた感情に戸惑った。

 行き過ぎた愛情と堪えきれない憎しみはとても良く似ている様に思えた。

 この気持ちを飼い馴らそうともがいた。

 自分の感情に思いあぐねながらもカハクが出した答えと確固たる決断。


 ーーだから私は、私の最期の時まで貴女の傍にいます。


 例え太陽が燃え尽き灰になろうとも、星が堕ち世界が乱れようとも、私達を引き離す事は出来ない。

 私を殺すのは貴女しか認めない。


 カハクの狂気じみた想いは深い深い心の奥底で密やかに息衝く。決して陽の光を浴びる事無く。




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