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カリュウはシグドリファとシグルーンの部屋に足を運ぶ。
「シグドリファ、シグルーン」
名前を呼び小さくノックする。
「「はい」」
中から弱々しい小さな声が返ってくる。
カリュウは扉をそっと開けると、小さな部屋の片隅に2人は身を寄せ合う様にして膝を立てて座っている。
「中に入ってもいいかしら?」
「勿論です」
「お入りください」
2人は耳をぴょこんと立ててカリュウに駆け寄る。仮面を取った2人の顔はあどけなく、大きな黒い眼がカリュウを見詰める。
「怪我はしてない?大丈夫?」
中に誘われたカリュウは2人に優しく声を掛ける。
「はい、大丈夫です」
「ご心配おかけしてすみません」
2人は嬉しそうに頬を赤らめにっこりする。
カリュウは2人の様子に安堵する。
「よかった」
「今日は本当にすみませんでした」
「司教様を連れて行かれたくなくて」
「ここを出て行かれるのは寂しいです」
「とっても悲しいです」
2人は耳を垂れて悲しげな表情をする。
彼女達の様に従順なだけでなく、誰かを想い、運命に抗ってでも行動していれば宝珠にも認められたのだろうかとふと思う。あの時、カハクを引き留めていればなにかが変わっていたのだろうか。
2人共思い遣りのあるとても良い子だ。
彼女達のうな垂れた様子にカリュウも悲しくなり、決意が鈍りそうになる。
シグドリファとシグルーンはカリュウが司教になってからずっと側で仕えてくれている。
古くから神殿に支える役目の一族だが、獣人の珍しいトレパイルでは彼女達を快く思わない者も多い。
彼らの住まう神殿奥の森を守り、不可侵を約束する代わりに側仕えとして何人かを神殿に置いていた。つまりは人質の様なものだ。
カリュウが出ていく事で彼女達の味方がより少なくなってしまうのが心許ない。
「私達は大丈夫です」
「カリュウ様の御武運をお祈りいたします」
「必ずご無事で戻っていらして下さい」
「ずっとお待ち致しております」
2人はカリュウの不安に気付いたのか、口々に言いカリュウを見上げる。
「ありがとう」
カリュウは2人の頭を撫でてやる。
2人は嬉しそうに膨らんだ尻尾を振った。
部屋に戻る前に前司教を訪ねる。
1日の報告をして仕事を終えるのがカリュウの日課だ。
「今日はお務めご苦労様です」
部屋に入ると思いがけない言葉を掛けられてカリュウは驚く。
「いえ、助言者様からそんなお言葉勿体無いです」
深々と礼儀正しく頭を下げる。
前司教は姿勢正しく座ったまま、硬い表情は変えずにカリュウを見る。
カリュウがそっと頭を上げると、その視線を逸らして静かに言葉を紡ぐ。
「身体に気をつけて、励むのですよ」
「はい、精一杯頑張らせて頂きます」
彼女からの言葉に胸が一杯になる。
久し振りに掛けられた賛辞と奨励の言葉。嬉しくて、やっと認められたみたいで、心の重りが取れていく様だった。
カハクに胸を張って会える。
そう思うと嬉しくて居ても立っても居られない。踊る胸を落ち着かせようと腰に下がるロザリオの瑠璃色の球を数えながら部屋に戻った。
心の中で御使の祝詞を唱えるこの時間がカリュウの心を落ち着けてくれる。何も考えず真っ新になるこの時間が好きだった。
先の事は分からない。道標の無い真っ白な未来図の上に自分で描いていけばいい。新たな門出と喜びにカリュウは初めて自分で歩き出した。




