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ライナが意識を取り戻すと目の前にナディルがいて、その奥でエンコとハイメが心配そうな顔をしていた。部屋の更に奥で小さな2人が床に倒れている。
ーー誰かに呼ばれた気がして目を覚ましたのだけれど……
上手く思い出せない。短い夢を見ていた。忘れられない夢。何度も何度も繰り返してしまう。
ナディルを守れたら、この夢から解放されるのだろうか。それとも彼の傍にいるから苦しむのだろうか。
違う、これはライナの受ける罰なのだ。忘れてはいけない。忘れたくはない。
ぼんやりした頭で考えこんでいると、入り口から悲鳴にも似た甲高い声が聞こえてきた。
「シグドリファ!シグルーン!」
真っ白な衣装のカリュウが倒れ込む2人を見つけて、小走りに駆け寄る。
「これはどうゆう事ですか?」
カリュウはシグドリファとシグルーンの頬にそっと触れた後、眉間にシワを寄せてナディルを睨む。
「違うのです、司教様」
「私達が出過ぎた真似を致しました」
「お許し下さい」
「申し訳ございません」
倒れていたシグドリファとシグルーンは身を起こして交互に口を開く。
「どうゆう事なの?」
カリュウは怪訝な顔をして2人に問い掛ける。
「大事なカリュウ様が連れて行かれるのが悲しくて」
「認めたくなくて、彼らを試したのです」
彼女達は申し訳なさそうに愛らしい耳を垂れる。
「しかし彼らの御力は素晴らしいものでした」
「私達の力は遠く及びません」
「「大変失礼致しました」」
シグドリファとシグルーンは両の手をついてナディル達に深々と頭を下げた。
事情を察したカリュウも彼女達の前で頭を下げる。
「私の教育が行き届かぬばかりに申し訳ございません」
「「カリュウ様……」」
カリュウの姿に2人は申し訳無い気持ちで胸が一杯になる。大袈裟に落ち込む2人と頑なに頭を下げるカリュウにナディルは落ち着いた声で言う。
「ライナも無事だし、大丈夫ですよ。顔を上げて下さい」
「私、カハクに会いに行きます」
移動した小ぢんまりした部屋でカリュウは決意した様に言った。
カリュウは真っ白な儀式用の衣装から、最初に会った時の露草色の服に着替えていた。
「ですから、皆さんと行動を共にするのはその後で宜しいでしょうか」
カリュウは申し訳無さそうに言う。
「そっか……それじゃあみんなでパラスロットに行こうか」
ナディルは出された温かいお茶を一口飲んで笑顔で言った。
「そんな、皆様にご迷惑をお掛けする訳にはいきません」
カリュウは必死に首を振り断る。
「でも君、聖職者って事はあまり外に出た事ないでしょう?箱入り娘の一人旅は危ないよ。
それに丁度パラスロットに用事があるんだ」
ナディルはにっこりと答える。
「ライナもカハクに会いたいでしょ?」
急に話を振られたライナは小さな丸いコップを両手にしたまま頷いた。
「エンコもカリュウの弟見てみたいな」
エンコも楽しそうに話しに参加する。
「僕は帰りた……」
隣で面倒くさそうに開けたハイメの口をエンコは途中で塞いだ。
「それじゃあ、決まりだね」
「はい、ありがとうございます」
有無を言わさないナディルの笑顔にカリュウは深く頭を下げた。
色々と支度もありますので、今日はゆっくり休んで行ってください、と言うカリュウの言葉に甘えて離れた場所にある宿泊棟に泊まる事にした。
部屋は質素で簡素なものだが、清潔で落ち着いた作りだ。部屋の隅には白い花が生けられていて甘い匂いが漂う。
風呂は共同で部屋から離れた場所にある。
檜でできた広い風呂にライナとエンコは一緒に浸かった。
「気持ちい〜」
湯船に入るとエンコは声を上げる。
「ちょっと暑いけど、広いお風呂はいいねぇ」
手足を伸ばしてエンコは満足そうに言う。
ライナは頷きながら、彼女をちらりと見る。女のライナでもエンコの豊満な胸に視線がいってしまう。
ライナの視線に気付き、エンコが悪戯そうに胸を寄せる。
「なぁに、ライナ」
「な、何でもない……」
赤い顔で恥ずかしそうに膝を立てて自分の小さな胸を隠す。
「ライナもこれから大きくなるよ」
エンコは人差し指でライナの胸をちょっとだけ突く。
「なっ!ならないよ……!
……なるかな?」
ライナは小さな声で呟いてエンコを上目に見る。
「ま、エンコ程はならないかもだけど。
きっとこれからね」
豊かな胸に引き締まったウエスト。エンコの身体はしなやかで美しい。まるで見られる為に作られた芸術品だ。
何処もかしこも細いだけのライナは、女性らしいエンコの身体に憧れた。
「でもライナの肌は白磁みたいね。とっても綺麗」
「エンコの肌も綺麗な色だよ。スベスベしてる」
「ありがとう。……でも、ここではあんまりいい色じゃないみたい」
エンコは少し悲しそうに言った。今朝の事をやはり気にしている様だ。
「そんな……!エンコはとっても綺麗だし、優しくて明るくて……羨ましい」
エンコは素敵で、ここの人達はエンコの事を何も知らなくて、でもそれは彼らが悪い訳ではなくて……エンコを励ましたいのに上手く言いたい事が言えない。
「そうかな?
ライナは誰かを傷付けない様にきちんと言葉を選んでる優しい子だね」
「そんな事……ないよ」
「ライナ、何かあったらエンコに相談してね。
女の子同士、何でも聞くよ」
女友達がいなかったライナは何だかくすぐったくて、でも嬉しかった。




