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セブンス エッダ  作者: りん
偽りの祈り
70/118

4

「宝珠を手にするには神託を受けなければなりません。

 神託の儀式は神聖なものなので上位聖職者以外の立会いは禁じられております。

 奥で少しお待ち頂いても宜しいですか」


 カリュウは白い花を脇の花瓶に活けると申し訳なさそうに言った。


「シグドリファ、シグルーン」


 カリュウのよく通る声が拝殿に響く。


「「はい」」


 愛らしい返事と共に狐の半面を被った似た様な背丈の2人の子供が現れる。2人には大きな三角の耳と豊かな膨らんだ尻尾が生えている。狐の獣人の子供だ。彼女達もここまで案内してくれた女性と同じ様な聖職者の服装だ。


「お客様を奥へご案内して」

「「畏まりました」」


 2人は寸分違わず声を揃えて返事をする。



 シグドリファとシグルーンに導かれてナディル達は神殿の奥へと進む。彼女達が歩くと、着物からはみ出したフサフサとした毛艶の良い白銀色の尻尾が揺れる。

 獣人は独自のコミュニティを築き、人間が多く集まる街に住まう事は珍しい。今まで触れ合う事の少なかった彼らをライナは興味深く見入ってしまう。その愛らしい尻尾を触りたい衝動に駆られるが、懸命に抑えた。

 2人は真っ直ぐに伸びる木の廊下を奥へ奥へと進んで行く。

 そして突き当たりの何も置かれていない広い御堂へと案内された。磨かれた赤茶の床だけが艶艶と光っている。


 シグドリファとシグルーンは部屋の中央まで行くと、ナディル達に向き直った。


「司教様を連れて行かれるのであれば」

「その力がある事をお示し下さい」


 2人は同じトーンの声で交互に言う。


「司教様は私達の恩人です」

「中途半端な方にはお預けできません」

「それが例え竜妃殿の命であってもです」


「「御覚悟」」


 彼女達は突然ナディル達に襲い掛かる。

 小さな身体が高く跳ねたかと思うと、空中で踵を返しハイメとライナに向かってもの凄いスピードで向かってくる。

 立ち尽くすライナの目の前にナディルの剣の鞘が現れてシグドリファを妨害する。

 ハイメは突然の事に対応しきれず腕を頭の前に持って来るのが精一杯だ。


「痛っ!もう、何だよ〜」


 シグルーンの蹴りを喰らったハイメは面倒くさそうに言う。


 シグドリファとシグルーンは直ぐに間合いを取り、何度か跳ねたかと思うと2人で手の平を合わせる。乾いた空気が満ちて、2人の手の間にバチバチと音を立てて雷が現れる。

 2人が合わせた手を高く上げると不規則な雷がナディル達を襲う。


 エンコは素早くステップを踏み、手を打ち鳴らすと炎が表れて雷を飲み込み搔き消した。

 分散して消え切らない雷がハイメに向かう。

 しかしハイメは雷に打たれも平然としている。


「何これ、ピリピリするね」


 ナディルは魔力を帯びた剣で迫る雷を両断する。雷は消えずそのままうねり、背後のライナへと迫る。

 ライナは避けきれず、両側から迫る雷に捉えられてしまう。身を守る様に水の膜がライナを覆うが、雷は威力を弱めながらも容易に通り抜けてくる。

 眩しい光と衝撃にビリリと身体を震わせてその場に膝をつき倒れ込んだ。


「ライナ!」


 ナディルはライナを呼ぶが倒れたままで返事は無い。彼の瞳に静かな怒りが宿る。


「おイタは程々にね」


 ナディルの黒い笑顔と共に、放たれた漆黒の蔓は部屋中を覆う勢いで増殖し、逃げ惑うシグドリファとシグルーンをあっさりと捉えた。


「やっぱりあの闇、気持ち悪い」


 エンコはポツリと呟き、身を捩った。

 足を掴まれて、宙吊りにされた2人は、蔦から逃れようと身体を捻る。


 その時ナディルは背後に大きな精霊の力(エレメンタル)を感じ、背筋に寒気が走った。


 眩しい光と共に操られる様に身を起こすライナ。見開かれた瞳は明らかに焦点が合っていない。

 ライナは宙吊りにされた2人の方を見遣ると、静かに右手を上げた。

 神々しい光がナディルの闇の蔓を全て消し去り、シグドリファとシグルーンを叩きのめす。

 2人は壁に打ち付けられて、そのまま床に落ちた。落ちた衝撃でキャゥンと小さな鳴き声が漏れて部屋に響く。


 呆気に取られるナディルだが、ライナに振り向くと彼女は意識無く崩れ落ちた。


「……っライナ!」


 ナディルは戸惑いながらもライナに駆け寄った。





 雷に打たれた時、ライナは短い夢を見た。


 暗闇の中、彼がいた。ライナは必死にその名前を呼び引き留めようとするが、彼はどんどん深い闇へと進んで行ってしまう。追いかけて袖を掴むと、白い部屋が広がり真っ赤な血の池に掴んだはずの彼の上着だけが横たわっている。

 ライナの身体から血の気が一気に引き、頭が真っ白になる。


 ーーだめだ、また間に合わなかった


 絶望に打ちひしがれて赤々とした血の池に佇むと、茶褐色の長い髪が視界に揺れた。エメラルドの瞳が怒りを宿して、彼の名前を呼んでいる。


 ーーだめだよ、私達間に合わなかったんだ


 ライナは心の中で言う。

 何度も何度も繰り返す。後悔と言う名の元に、私達は何度でも彼を失う。何度繰り返しても助けられやしないのに。冷たくなっていく彼を看取るだけなのに。

 エメラルドの瞳は復讐を誓い、ライナは呆然と立ち尽くし、迷う。


 ーー私は逃げてしまったのだろうか


 彼の様に強く誓えない自分を情けなく思う。

 でも、決めたんだ。復讐を誓うにはまだ足りない。世界が。自分が。

 打ちひしがれた私に銀髪の人がくれた言葉は復讐の二文字ではなかったから。

 もう少し、もう少しだけ生きてみたいの。全てを捨ててしまう前に、もう少しだけ世界が欲しい。


 ーーだから、目を開けて……




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