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セブンス エッダ  作者: りん
偽りの祈り
68/118

2

 ナディルがトレパイルを選んだのには訳があった。


 ノルシーとタフグレンは宝珠の使い手が見つかっていた為、先に訪れておいたのだが、他は宝珠の在り処が確認できたのが3ヶ所、だいたいの検討しか付いていないのが2ヶ所だった。後述の2ヶ所は訪れるのさえも苦労する場所だった為、つい足が遠のいてしまっていた。もっと情報が必要だった。旅をしながら集めるしかないのだが、宝珠が解放されたことにより、何か変化や新たな動きが無いかと期待してしまう。


 トレパイルは神の国と言われている。難攻不落の神に護られた国。

 その地形が、風土が、豊かな大地であるトレパイルを長い間独立した国として護ってきた。ナディル達が通って来たノルグの森も然りだが、トレパイルを取り囲む様に流れる大きな川には音の無い雷が雨の様に降り注ぐ。その光景だけでも恐ろしく、畏れ多く近寄り難い。

 神秘的なその光景は遥かな海からも望む事ができ、東の海の灯台と言われている。


 トレパイルでは神鳴りとは神からのお告げとされていて、司教は雷に打たれた様に神の信託を受けると言う。

 様々な神託によりトレパイルは豊かな安定した生活を築いてきた。


 ナディルは宝珠について、今後の動向について、トレパイルの司教の信託を受けようと考えていた。


 目の前にはトレパイルを取り囲む如く、神々しく威圧感に満ちた稲妻が走る。近くで見ると圧巻だ。気の弱い者でなくても、一度はその光に見惚れ、慄き、二の足を踏むだろう。


 木組の門の先に真っ直ぐに伸びた長い大橋を渡る。橋を渡る間も音の無い雷は川に落ち続ける。眩しい閃光に目が眩む。自分に落ちやしないかと冷や冷やしてしまう。

 光が走るたびに思わず目を瞑ってしまうライナを横目にエンコはきれいと目を輝かせながらうっとりとしている。

 ハイメもナディルも普段と何ら変わり無い様子だ。

 自分が気が弱いのか、彼らの肝が据わっているのかはライナには分かりかねた。


 渡り切った橋の横に立つ白い装いの門番に身分証を見せる。門番は不審そうに身分証を何度も見返した。すぐ脇に建てられた簡素な詰め所で確認を取った後、やっと街の中に入る事を許された。


 大きな門を潜ると、灰色と黒の瓦屋根の街並みが目の前に広がる。建物は木造で一様に背が低い。壁は上品な胡粉色をしている。


「わぁ素敵!」


 エンコが高い声を上げた。


「異国だね」


 ハイメも相槌を打つ。

 うきうきした足取りで街を進む2人だが、街の人達は好奇な目でナディル達を見る。


「……何かすごく見られてる」


 ライナが視線に気づき、ナディルに耳打ちする。


「トレパイルは大分排他的な街だからね。訪問者も少ないんだ。俺達が物珍しいんだよ」


 街を歩く人々は暗い髪色や白い肌が多い。明るいブロンドや褐色の肌の一行は目立っていた。


「疲れたし喉乾いたよ。どこかで休もうよ」


 ハイメがうんざりした様子で訴える。


「あ、あそこのお茶屋さんかわいいわ!あそこにしましょ!」


 エンコが緋色の椅子の置かれた茶屋を見つけて指をさす。


「あ、ちょっと待って……」


 ナディルの制止も聞かずに駆け出して行ってしまった。


 エンコが店に入ろうとすると、藍色の前掛けをした店の主人が現れて彼女の前に立ち塞がる。


「すみません、旅のお方、只今満席でして」


 優しそうな顔で手をこまねきながらやんわりと断る。


「でも……」


 エンコがちらりと中を覗くと、空席が目立っている。


「申し訳ございません」


 主人は断固としてその場を譲らない。

 ナディルが追いついて彼に声を掛けた。


「すみません、私の連れです。店の中には入りませんので飲み物だけでも頂けませんか?」


「は、はい!只今!」


 主人はナディルを見るや否や急に態度を変えて、慌てて店の中へと走って行った。

 呆然とするエンコは訳が分からなかった。

 主人は盆の上に紙のコップに入った鮮やかな若葉色の飲み物を並べて持って来た。


「ありがとうございます」


 ナディルは愛想良く微笑んで主人からコップを受け取ると小銭を渡そうとした。


「いえいえ、結構です。

 金色の髪の方は神に選ばれし者です。

 貴方様はどうぞ、またいらして下さい」


 そう言ってお金は受け取らず深々と頭を下げた。




「……今の、どうゆう事?」


 エンコは腑に落ちない表情でコップを片手にナディルに尋ねる。


「エンコ、気を悪くしないで聞いてね」


 ナディルは穏やかな声でエンコに言う。


「最初に言っておけばよかったんだけど、トレパイルはずっと独立した国だったからとても排他的でプライドの高い人々が多い街なんだ。それに独特の価値観を持っている。

 街の人々も殆どが白い肌に暗い髪の色をしているだろ?だから他の肌の色や髪の色の人種を快く思わない人が多いんだ。

 ただ、ここの街の司祭は代々黄金の髪の一族で、神託を受けてこの街を繁栄させてきたと崇められている特別な存在で、だから金髪の人間は特別とされているんだ」


 エンコは黙ったままナディルの話に耳を傾ける。


「エンコは肌の色も髪の色も気持ち悪いって事?」


「……君の肌も髪もとても綺麗だよ。ただ君の国では考えられないだろうが、そうゆう街もあるっていうだけ。

 不快な思いをさせてしまったかな?」


 エンコは暫くコップの中の美しい若葉色を見つめる。


「ううん、大丈夫よ」


 そう言うとコップのお茶を一口飲んだ。エンコの国では取れない新鮮な若葉のお茶だ。すっきりとして香り高く、少し苦いお茶だった。


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