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建国記念の日には、王都の夜空を無数の花火が彩る。けたたましい音と共に美しくも儚い光の欠片がキラキラと舞っては消えてゆく。
その様をライナとティレットは王宮の窓から眺めていた。
華麗に花開く光は消えてしまうから美しく心に残るのだとティレットは言った。
花火が終わると彼女は名残惜しそうに、しかし眠たそう目をして森へと帰って行った。
ライナは目が冴えて、ベッドの中で寝れずにいた。 瞳を閉じても、先刻まで見ていた光がキラキラと瞼の裏に現れる。
ーー今日は夜更かししちゃおうかな
王宮で働く人々も、祝日の為か今日は少ない。ドキドキしながらこっそりとベッドを抜け出した。
中庭へ行こうか、それとも森まで遊びに行ってしまおうか。月明かりに照らされた薄暗い廊下を歩いていると、ひっそりと灯りの漏れる部屋を見つけた。
ーー誰かいるのかな?
何気無く部屋を覗くと、ウォーラが暗い部屋に独りきりで座っていた。机の上には真っ赤なキャンドルが一本だけ灯されていて、隣に置かれた赤紫色の葡萄酒を照らしていた。
頼りない灯りが照らし出すその横顔は儚く、泣いている様に見えた。真剣な眼差しと寂しげな表情にライナは不安になり、思わず声を掛けた。
「ウォーラ?」
ウォーラは驚いた様子で振り返り、扉の隙間から覗くライナを見つけた。
「どうした、そんな所で。眠れぬのか?
此方へ参れ」
ウォーラは優しい声でライナを部屋へ招き入れた。
薄暗い小さな部屋が何だか怖くて、ライナはウォーラの傍まで駆け寄った。ウォーラはそっとライナを抱き上げて膝の上に乗せた。
「主を呼んだら御子が来た」
そう言って何だか楽しそうに笑った。彼女の笑う声からはほんのり酒の匂いがする。
「ウォーラ、大丈夫?」
ライナは心配そうにウォーラを見上げて言う。
「何がじゃ?」
「さっき、悲しそうな顔してた」
ウォーラはふふっと笑ってライナの頭を優しく撫でる。
「今年も一年見事に振られてしまっての」
可笑しそうに笑いながらライナの頭を撫で続けるウォーラ。笑っているのに悲しんでいるみたいだ。
そんなウォーラを見て何故だかライナが泣きそうになる。
「ウォーラ」
そう言ってライナは彼女の細く白い首に抱き付いた。ウォーラの柔らかい髪からは梔子の匂いがする。
ウォーラは驚いた様に声を上げる。
「どうしたのじゃ?」
「だってウォーラが泣きそうだから」
抱き付いた首は暖かくて、お日様みたいで、余計に悲しい。胸が刺す様に痛い。
「余は其方を立派に育て上げてみせるよ。
其方は優しい子に育ったの」
そう言って満足そうにライナの背中を優しく撫でた。ウォーラが余りに優しく撫でるので安心してか、悲しくなってか、代わりにライナが泣いてしまった。零れ落ちる小さな涙は温かかった。
「泣くでない、ライナ。
其方が悲しい事など何も無いであろう」
ウォーラは子守唄でも歌う様に言う。
「ほら、これをやろう」
ウォーラは机の上に置かれていた小さな四角い箱から、キラキラした小さな欠片を摘み上げた。
ライナは竜妃の首から顔を上げて、彼女の指先の欠片を見る。
「なぁに、っそれ」
ライナは嗚咽を交えながら、キャンドルの光を透過して光る麗しい欠片を見詰めて言う。
「これは竜の鱗じゃ」
「竜の鱗……」
「そうじゃ。美しいであろう。
竜の鱗は生え替わらぬから貴重な物じゃ。幸運の守りと言われておる」
そう言って大切そうにライナの小さな手に乗せてやる。鱗は硬く、思った以上に軽かった。ライナの手の上で光を湛えて蕩けるように虹色に輝く。
小さなライナでもこの美しい欠片が如何に貴重なものか理解できた。
「……いいの?」
「あぁ」
ウォーラはにっこりと微笑む。
キャンドルの光に鱗をそっと透かして覗いてみると、部屋の中が虹彩と共に甘く歪んで溶けた。
「其方の未来に幸多からん事を」
ウォーラは蜜を含んだ声で呪文の様に唱えた。




