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朝の陽が昇ると、大気の温度は一気に上昇する。照り付ける日差しの中、ナディルは軋む身体を無理矢理起こした。
支度を済ませるとジグムンドの部屋へと向かう。
素晴らしい金細工の扉を叩くと、中に入る様にと声が返ってきた。
朝の早い彼は既に清潔な白い布に身を包み、書類の積まれた机に向かっていた。
「お早いですね、ナディル様。何か御用ですか?」
ジグムンドは書類から顔を上げてナディルに話し掛けた。
「お早うございます。早朝からすみません。実はお話があって」
ナディルは昨日の疲れも左手の違和感も全く感じさせない笑顔で言った。
ナディルは、エンコがスルーズと言う侍女だった男性に会いたがっている事、その為に夜中にこっそりと抜け出そうとした事を伝えた。事をスムーズに運びたかったので、彼女が皆に眠らせる暗示をかけた事や炎の神を喚び出してナディルと交戦した事は伏せておいた。
「思い詰めている様ですし、暫くは会えなくなってしまうので、心残りの無い様に会わせてあげたいのですが……」
ナディルは彼女の味方をする様に補足した。
ジグムンドは暫く黙って考え込んでいたが、しわがれた声で弱々しく言う。
「そうですか……最後にきちんと会わせてやった方が良いのやもしれません。きちんと気持ちの整理をさせてやらなければいけませんな」
ジグムンドは大きく息を吐いた。
「まだまだ子供だと思っていたんですが、知らない間に成長してしまうものですね」
ジグムンドの部屋を後にして神殿の食堂に行くと、まだ半分夢の中にいる様子のライナとハイメが座っていた。
「おはよう、ナディル」
ハイメがナディルに気付き、大きな欠伸と一緒に挨拶をした。ナディルも爽やかな笑顔で2人におはようと声を掛ける。
「僕、何だか今日とっても眠いよ」
そう言うと冷たい大理石の机に突っ伏した。
ライナはまだぼぅっと夢を見ている様で、何処とは無く空を見詰めている。
ナディルはライナの隣に座ると心配そうに顔を覗き込む。
「ライナ、大丈夫?」
ライナは寝惚け眼でナディルを見るとゆっくりと頷いた。
ーーこれはまた、分かりやすく掛かり易いな
ナディルは心配になって、できるだけ目を離さない様にしなければと思う。
朝食を食べ終え、3人はミントティーを飲む。
カップに口を付ける前でお茶を溢すライナを見張っていると、食堂の入り口からチラチラと中を伺う影に気が付いた。ガーネットの瞳と目が合うと手招きをされる。
「ハイメ、ライナの事ちょっと見てて」
そう言うとナディルは席を立った。
入り口に向かうと、侍女がしているのと同じ布を頭から被ったエンコに手を引っ張られ、柱の影に連れ込まれた。エンコは辺りを見渡した後、小声で早口に言った。
「ジグムンドは何て?」
布の隙間から見える目は赤く充血していて、キメの細かい美しい肌には薄っすらとクマが見て取れる。多分昨日は興奮と緊張でよく眠れなかったのだろう。
「会わせてくれるって」
ナディルは昨晩とは違い、穏やかな声で言った。
エンコの顔がぱぁっと輝き、頬が薔薇色に染まる。
「ほら、早く戻って準備をしておいで。こんな所まで忍び込んでるのがバレたら怒られるんだろ?」
ナディルはエンコの肩を軽く叩いて促した。
「そうね!ありがとう!」
エンコは嬉しそうに極上の笑顔を湛えると、思わずナディルの首に抱き付いた。焚きしめた香の甘い匂いが鼻をくすぐる。豊かな女性らしい膨らみが伝わってくる。
「じゃあ、後でね!」
ナディルから離れるとそう言って足早に立ち去って行った。
彼女の後ろ姿を見送った後、ナディルは疲れた様に溜め息を吐くと食堂へと戻っていった。




