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舞姫は舞いを通じて感情を投影できるという。たとえその動きの語彙がシンプルなものであっても。音楽が観衆にもたらすリズムと感情を視覚的に伝える事が、舞姫の骨頂であるとも言える。
エンコの舞いは、炎の神に対する敬意と感謝、祈りと喜びを表したものだった。美しくも妖艶で、見る者を惹きつけ心を奪う。
祭りの日は礼拝堂で舞うエンコの姿を一目見ようと、人々が押しかけていた。人で埋め尽くされた礼拝堂には普段の静寂を湛える姿とは違い、熱気と興奮に満ちている。
エンコが姿を現わすと大きな歓声が上がる。
コーラルの衣装はいつもより煌びやかに装飾されて、華やかで美しい。ふんだんに使われている陶器の様な貝も、海から遠いこの地では高級品だ。彼女が右手を上げて挨拶をすると拍手と喝采が沸き起こる。
彼女は壁の一角に作られた小さな祭壇に祈りを捧げる。観衆も彼女と共に一同に祈る。
彼女が舞い始めると人々は皆その美しい所作や妖艶な動きに目を奪われる。爪弾かれるマンドリンの音と共に薄いヴェールが揺蕩う。胸や腰を揺らすとシャラシャラとコインや貝が音を立てた。柔らかい髪の毛が空を踊り、褐色の長い手がしなやかに神の世界へ導く。
皆が食い入るように彼女の踊りに夢中になる。ライナとハイメも人集りの隙間から背伸びをしてエンコの姿を垣間見る。初めて見る神に捧げる舞いの良し悪しは分からないが、エンコがこの上無く美しく、優雅で、妖艶な事はわかる。神だけでなく人々の心まで虜にしてしまうだろう。
音楽が鳴り止むと感嘆のため息が漏れた。
祭りも最終日を迎える。
民族衣装を着た人々による大規模な炎の行進が行われた後、松明が日の入りと共に静かに鎮火される。
この日の夜は長い祈りを捧げた後、豪華な晩餐を取るのが習わしだ。
豪華な神殿の広間のテーブルには銀色の食器に並べられた料理が幾つも並ぶ。
ブドウの葉で米、挽肉、刻みタマネギなどを包んだドゥルマ。羊肉の串焼き。帽子の様な蓋の鍋で蒸し焼きにした米、野菜、肉、魚。コリアンダーの種が振りかけられたトマトソースが添えられる。豊かな土地である為、食材の種類が豊富だ。肉、魚、穀物、野菜が見目麗しくバランス良く並ぶ。
色鮮やかな果実のジュース、赤や白の葡萄酒の他にナツメヤシから作った酒も置かれている。
晩餐ではエンコの舞いも披露される。
招かれた近隣の要人達は酒に酔いしれながら、エンコの舞いを堪能する。
薄いヴェールが揺れる度、腰布のコインが音を立てる度に彼等は彼女の舞いの世界へのめり込んでゆく。彼女の優美な腕が神の領域へ誘う。まるで甘い毒に侵されていくように。彼女の仕草は魅惑的で麻薬の様だ。
酒の所為か、彼女の魅力の所為か、頬を染めながら呆けて見惚れる者が多い。
彼女が舞台を去った後も余韻に浸る様に、甘ったるい空気が会場を包んでいた。
エンコの舞いの素晴らしさを首長達が口々に褒める中、ジグムンドは上機嫌で酒を片手に顔を赤らめている。
ライナとハイメもうっとりとした瞳のままだ。まるで彼女の舞いの虜になってしまった様だ。
感嘆と甘い溜め息の漏れる中、ナディルだけが疑う様な鋭い眼光で酒を口に運んでいた。




