表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セブンス エッダ  作者: りん
生贄の恋
53/118

4

 夜は風が吹くと肌寒く感じる位の気候だが、祭り前夜の熱気に街の人々は皆酔いしれていた。

 街の要、リーベル川には右岸にも左岸にも黒い人集(ひとだか)りかできている。ナディル達は少し離れた川縁に並んで腰を掛けた。ジグムンドが用意してくれた席だった。


 爆音と共に火の夜の祭典が幕を開けた。

 空には無数の燦めく光が一面に広がる。大きな歓声や拍手が地響きの如く聞こえてくる。

 ライナとハイメは初めて目にする夜空の華に呆気に取られ食い入る様に見上げた。

 エンコから祭りは訪れる実りの時期を祝う為のものだと聞いていた。この時期から覇王樹が花を付け始めると言う。それを合図に雨季が始まり、砂漠を覆う如く美しい花が7日間だけ咲き乱れるらしい。

 花火はその花々を模したものらしいが、夜空に咲く豪華な花はそれ以上ではないかと思ってしまう。


「すごい……ノルシーでは新年に手持ち花火を打ち上げてお祝いしたりはしたけど、こんなに大きくてすごいのは初めての見た」


 ハイメは空を見上げたまま声を上げた。

 ライナは大きな音にビクビクしながらも美しい光の華々に目を輝かせる。


 ナディルは眩く燦めく光を見ながら、曲芸団にいた時の事を思い出した。

 始まりの合図に小さな花火を幾つか打ち上げるると、浮き足立った人々がテントに集まってくる。滑稽で異質、優雅で空恐ろしい独特の空気が満ちていた。

 各地を巡る曲芸団は、子供だったナディルにとって、安全で食うに困らず彼方此方周れる、正に理に適った居場所だった。団長も愛想が良くて飲み込みの早いナディルを可愛がった。

 ナディルの社交術はここで養われたと言っても過言ではない。この時手に入れたカードのイカサマ技術は今でも重宝している。

 彼らの噂は王宮にまで届き、それが竜妃との出会いとなり、ナディルはずっと欲していたものを手に入れる事になる。


 ナディルは煌めく夜空を眺めながら、可愛がってもらった優しい団長の事を思い出す。団員全員に気を掛けてくれて、面倒見の良い頼りになる存在だった。彼らの事を思い出すと胸が痛かった。


 昔の事を思い出していると空がより一層明るくなり、無数の光が帯を引いて垂れる中、祭典は幕を閉じた。


「はぁ〜すごかった」


 ハイメは感動と共に言葉を吐き出した。

 ずっと静かだったライナの横顔を覗き見ると、興奮で頬を紅く染めていた。



 次の日、3人はパレードを見に大通りに足を運んだ。

 楽団の先頭に派手な衣装を身に纏った集団がいる。大きな花の冠を被った白塗りの皐月の女王(マイドゥロンニ)が松明のを掲げる青い装いの男性に先導されて、大通りを優雅に闊歩する。澄み渡る水とと咲き乱れる草花の象徴だ。その後ろには白い服装に月桂冠をした4人の女性が付き従う。

 パレードが広場に着くとアイビーグレーとモスグリーンの布を纏った人々が松明のを取り囲む様に踊っている。彼らを4人の侍女達が踊りながら斬りつけていく。斬りつけられた者達はたちまち鮮やかなエバーグリーンへと衣を替える。皐月の女王(マイドゥロンニ)は松明を手渡され、広場中央の大きな松明に炎を灯す。豊かな実りの季節を告げる合図だ。

 松明の火が燃え上がると、歓声と共に観衆が集まってきて一緒に踊り始めた。まるで演劇を見ているかのような迫力だ。


 その光景を遠巻きに眺めていると、先程パレードの先頭を歩いていた青い装いの背の高い男に話しかけられた。


「やぁ、祭りはどうだい?楽しんでくれている?」


 男がフードの様に被っていた青い布を外すと、褐色の肌に映えるプラチナの髪と瞳の好青年が現れた。


「俺はシアルフィ。ジグムンドの息子なんだ。君達を案内する様に言われていてね」


 くっきりとした顔立ちはあまりジグムンドと似ていないが、好感の持てる印象だ。

 朝、神殿を出る際にジグムンドが案内を寄越すと言っていたのを思い出す。一応断ったのだが、話をつけていたようだ。


「折角だから、案内してもらおうか」


 ナディルはライナとハイメに確認を取る。

 ライナは黙って頷き、ハイメはいいよーとのんびり答えた。


 シアルフィの後に付いて大通りの露店を見て歩く。食べ物を売る店からは、食欲を唆るスパイスの匂いが立ち昇る。

 途中、シアルフィの勧める真っ黒な木の実のジュースを飲んだ。ライナもハイメも見た目の色に驚いて顔を顰めた。ライナは嫌々ながらも断り切れず、恐る恐るジュースを口にする。見た目とは裏腹に味は甘酸っぱくあっさりしている。 驚くライナの顔を見て、ナディルは満足気に微笑む。


 陽気に満ちた通りを歩いていると小さな子供達がシアルフィの足元に駆け寄って来た。


「シアー何してるの?」

「お腹すいたぁ」

「何か買ってー」


 髪の色も瞳の色も様々な子供達はシアルフィの服を引っ張り口々に要求する。


「こらこら、今お客さんをお持て成し中なの」


 シアルフィは慌てて子供達を追い払おうとする。


「え〜」

「お客さん?」

「だぁれ?」


 小さな沢山の瞳がナディル達に向けられる。純粋な瞳が不思議そうに見詰めてくる。


「人気者ですね」


 ナディルはしゃがんで子供達に屋台で買った丸い揚菓子をあげた。

 子供達ははしゃいでお礼を言いながら菓子に夢中になった。


「すみませんね、俺の弟達と妹達なんですよ」


 シアルフィは困った様に笑う。兄弟姉妹にしては年が離れているし数が多いなと思っていると、シアルフィが足にしがみ付く子供の頭を撫でてやりながら話し始める。


「ジグムンドは親のいない子供達を引き取っているんだ。斯く言う俺も彼の本当の子供じゃないしね」


 似てないと思っただろう、と笑う。


「お陰で大きくなるとみんな神殿や祭りの手伝いに駆り出されるんだ」

「そうか、大変だね」


 ナディルはジグムンドの人徳の高さを思う。


 前回の長い冬(フィンブルベルト)から荒れていた世界は、竜妃の時代になって大分落ち着きを取り戻した。争い続けてきた国は同盟を結び、小さな国々は連合国となった。しかし、些細な(いさか)いや国境近くの争いは決して絶える事が無い。豊かなこの土地も然りだろう。そうして生まれてしまった孤児達をジグムンドは引き取り育てているのだ。


「シアルフィの邪魔をしてはいけません」


 凛とした声が響き、カメリア色の布を纏った女性が人の波の隙間から姿を現わした。

 彼女はナディル達にお辞儀をする。そしてシアルフィに目配せをして、子供達を引き連れて行った。


「彼女も?」

「あ、あぁ」


 ナディルの問い掛けにシアルフィは曖昧に頷き、彼等が消えていった方をじっと見ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ