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タフグレンは砂漠に囲まれた街だ。リーベル川の下流河畔に交通の要衝として建設さられ古くから栄えている。昼夜の寒暖の差は激しいが、日照りに恵まれた肥沃な土地だ。
街は全体的に枯色をしていて、土っぽい長方形の建物が建ち並ぶ。街を歩く人々は強い日差しを避ける為に大きな布を頭から覆い被っている。
「何これ、すっごく暑〜い。干涸びちゃうよ」
ハイメが開口一番文句をたれる。
寒い地域で生まれたハイメには刺激的過ぎたのかもしれない。
ライナを見遣ると彼女も暑さに茹だる様に眉を顰め怪訝な顔をしている。
「取り敢えず、どこかお店に入ろか」
ナディルは肌を射す日差しを避ける為に近くの飲食店に入る。
店は風が通り抜ける様に入り口の壁が無く、幾つかの柱で支えられている。柱の付近には沢山の緑が飾ってあり僅かながら木陰を作っていた。入口近くの陰になった席で布を纏った男達が水煙草を燻らせている。ブクブクという水音と言う共に独特なの甘ったるい香りが漂ってくる。店の中は少し冷んやりとしていて、カウンターの端にカラフルな氷菓が売られていた。
「何これ?冷たそうだね!僕これ食べたい!」
店に入るや否やハイメは冷たい菓子に釘付けになる。ライナはぐったりと奥の席に座り、壁に凭れかかった。冷たい石の壁で火照った身体を冷やしている。
「ライナ大丈夫?」
ナディルは心配そうにライナを覗き込む。
ライナは小さく首を縦に振る。
「ナディルー!早く!僕この黄色いのがいい!」
ハイメがカウンターの横でナディルを呼ぶ。
「ライナも食べる?」
「いらない」
うな垂れるライナは完結に答えた。
「でもちゃんと水分は取らないとダメだよ」
そう言い残してナディルはハイメの方に向かった。
「僕、これとこれがいい」
ハイメは目を輝かせながら、ケースの中に並ぶ色鮮やかな氷菓を指差す。
ナディルはハイメの注文の他に白い氷菓とミントの葉が沈められた紅茶を頼んだ。
ハイメは満足そうににこにこしながら店員から受け取った器を持って椅子に座る。ガラスでできた器の中にはキラキラと輝く黄色と紫色の氷菓が並ぶ。ナディルはライナの前にミント茶を置く。
「さっぱりしてて美味しいから飲んでみて」
ライナは勧めらるままに一口お茶を飲む。新鮮な香りと共にスッキリとした飲み口のお茶が喉を潤す。ライナの身体の中の水分が補われて満たされた様にほっと息を吐いた。
ハイメは2つの味の冷たい菓子に夢中になっている。
「こっちも食べてみる?」
ナディルは持っていた白い氷菓を差し出した。少し戸惑うライナに強引に器を渡す。
断り切れず受け取ったライナは、銀色のちいさなスプーンでそれを掬い、そっと口に運ぶ。
甘くて冷たい薄氷の塊は口の中で音も無く溶ける。檸檬の酸味と爽やかな香りが口の中に広がる。
「美味しい」
ライナは初めて味わう氷菓に感動して、言葉を零した。
「もっと食べていいよ」
ナディルは嬉しそうにライナに言う。
ライナはもう一口、スプーンを口に運んだ。
「過保護」
2人の遣り取りを横目で見ていたハイメが白々しく口を挟んだ。
暫く休んでから店を出て、街の中心への続く道を歩いた。大通りは祭りの準備をしていて大きな木材が道を所々塞いでいる。人通りも多く歩きにくい為、1本脇へ入った小道を進む。
小道と言っても、露店が並んでいて賑やかだった。簡素なテントが道の両側に作られていて、カラフルなフルーツマーケットが広がっている。道はどこか浮き足立った人々が集まっていた。
フルーツマーケットの奥には布を売る店が多くて立ち並ぶ。アラベスク模様の敷布が雑多に並べられ、上からは細かな刺繍が施された沢山の布が吊り下げられている。ライナが綺麗な模様に見入っていると、ナディルがそれに気付き声を掛ける。
「ライナは買った方がいいかも。どれがいい?」
「え、いい」
ライナは慌てて首を振る。
「ここでは特に女性は教会や神殿では肌を見せるのが良く無いと言われているんだ。
布を被っている女性が多いでしょ?
ほら、ライナは色が白いから明るい色の方が似合うよ。これとかどう?」
そう言って青藤色と浅葱色の布を手に取り、ライナの首元に持ってくる。どちらの色も彼女の白い肌に映え、アクアマリンの瞳に良く合う。
ライナは青藤色の布を手に取る。白い糸で細かな刺繍が施され、小さな端には房が付いている。
ナディルはその布をライナの頭に被せる。
「うん、似合う」
そう言って満足そうに微笑む。
「僕も欲しい」
細やかな刺繍の技術に惹かれてハイメも布を物色する。その中でも目の引くパステルレモンの布を被ってみせた。
「よくお似合いですよ」
深紅の布を被った店の女主人が鏡を取り出して見せた。
「僕これ〜」
鏡を覗き込んだハイメは明るい色を気に入ってか即決した。
「タフグレンの火祭りは明日からですか?」
ナディルは2人分の布の代金を支払いながら、店の女主人に尋ねた。
「あぁ、そうだよ。美しくて神秘的な祭りだから是非見ておいき。特に炎の巫女の舞いは一見の価値ありだよ」
女主人はにっこりと微笑んでお釣りの硬貨をナディルに手渡す。
ナディルはお礼を言って店を後にした。




