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セブンス エッダ  作者: りん
北の獣と黄金の林檎
44/118

6

 眩しい光と共にケルベルスの額から宝珠が零れ落ちる。

 ケルベルスはボロボロと崩れ落ち、砂の山になり宝珠だけが残った。

 ハイメは(ルフ)から降りて砂の上に立った。(ルフ)はハイメの後ろに降り、2匹の黒い鳥は頭上を旋回する。


「あれ……」


 ハイメは不思議そうに宝珠を持ち上げた。片手に収まる宝珠は艶々していて淡く光を放つ。見た目よりずっしりとした重みがあり、存在を主張している。

 ハイメは宝珠を眺め、辺りを見回す。


 ーーさっきのは何だったんだろう


「ハイメっ!」

 ヴィトが奥から声を掛ける。


 ハイメは振り返ると、すぐ後ろに行儀良く座る(ルフ)の頭を撫でる。


「ありがとう、ルフ」


 そう言うと鳥は砂になって崩れ落ちた。


「フギンとムニンももう大丈夫」


 頭上を旋回する黒い鳥に手を伸ばしながら声を掛けると鳥達は降りて来てハイメの両手に止まり、砂となって散った。

 鳥達を土に戻したハイメは入り口付近のヴィト達に小走りで駆け寄った。


「これ?」

 ハイメは宝珠を差し出す。


「よくやったな」

 ヴィトはハイメの頭をクシャクシャと撫でた。


「普段からさぼっておるから苦戦するんじゃ」

 アウルヴァングはそっぽを向くが、素直に褒めてやりな、とヴィトに叩かれる。

 ハイメは2人の顔を見て顔を綻ばせる。


 ーー僕はこの人達の為に戦うんだ

 改めてそう心に誓った。


「今日は宴だな。お前達も飲んでいけ」

 ヴィトは嬉しそうににかっと笑った。



 日も昇りきらない明け方、宴に呼ばれて大きな広い食堂に案内される。

 食堂は穴を掘っただけの大きな空間で、中央に長い机が繋げて置かれていて、白いテーブルクロスの上に料理や酒瓶が所狭しと並ぶ。

 穀物の入った硬いパンに野菜を煮込んだシチュー、様々な種類の茸を炒めたもの。そして大量よ見た事の無い真っ赤な肉の皿が沢山並ぶ。

 ライナは恐る恐る正面に座るハイメに聞く。


「これ、何の肉?」

「大トカゲに決まってるじゃん」


 ハイメは詰まらなそうに答える。

 聞き慣れない単語にライナは手を付けるのは止めようと誓う。


 酒好きで有名なドヴェルグ達の宴なだけあり、酒の種類も豊富だ。

 アルコール度数の高いじゃがいもの蒸留酒ブレンヴィン、それを薄めてハーブを漬け込んだスナップ、琥珀色の麦の醸造酒スタルコル、葡萄酒にオレンジの皮とシナモンとクローブを加えたグロッグ……どのグラスにもキラキラと美しく注がれている。アウルヴァングの前にはナディルが持参した高そうな装飾された黒い瓶が置かれている。


「お前も飲めよ」


 隣りに座るドヴェルグがライナに酒を勧める。深い赤紫色に輝く液体からは甘くてスパイシーな匂いがする。美味しそうな香りの漂う魅惑的な酒をライナは見入る。グイグイと押し付けてくるのを拒めず、思わず受け取ってしまった。


「ライナにはまだ早いから駄目」


 そう言って反対隣のナディルにグラスを奪われた。好奇心が半分あったが、得体の知れない未知の飲み物を奪われた事に安堵する。


「彼女はまだ幼いから飲ませないでくれる?

 彼女の分は俺が飲むから」


 ナディルはライナの隣に座るドヴェルグに穏やかでない笑顔で言う。


「お、おぅ…わかった。悪かったよ」


 ドヴェルグはナディルの迫力に怖気づきながら答えた。

 ナディルはライナから奪ったグラスの酒を一気に流し込む。そして空になったグラスをライナに戻した。


「いい?飲まされそうになったら俺に渡すんだよ?

 ドヴェルグのお酒は強いからライナにはまだ早い。どうしても飲みたいなら今度俺が教えてあげるから」

 わかったね、とナディルは念を押す。ライナはナディルの勢いに押されて首を2度縦に振った。


 テーブルの正面では今日の主役、ハイメが黄金の羊をテーブルに乗せて突っ伏している。


「ハイメ、行儀が悪いぞ」

 ヴィトが注意する。既に無礼講宴会状態の食堂に行儀も何もあったものではないが。


「だって、僕食べるもの無いし、お酒も飲んじゃいけないんでしょ?つまんないよ」

 ハイメは羊に顎を乗せたまま不満を訴える。


「お前は酒を飲むと暴れるからな……手が付けられん。

 ほら、でも炭酸水でも飲んでろ」


 そう言ってハイメに泡の立つ透明の液体を差し出した。

 ハイメは面倒くさそうにそれをチビチビと飲む。

 しかしそれにもすぐ飽きてしまい、宝珠を取り出しコロコロと机の上で転がし遊びだした。宝珠は光沢のある表面を輝かせながら木製の机の上でくるくると踊る。


「あっ」


 ハイメは宝珠を取り逃がし、そのままライナの方へ転がった。

 ライナは宝珠を受け止める。ツヤツヤした表面は冷んやりとして吸い付く様に手に馴染む。そしてずっしりと重い。

 美しい縞模様を良く見たくてまじまじと眺めた。すると激しい目眩がして目の前が白く濁る。遠退いていく意識の中でナディルの呼ぶ声が聞こえた。


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