5
目を覚ましたら、そこは明るく照らされた土の穴の中だった。
髭の逞しい厳つい顔の黒い目と子供みたいな褐色の肌の赤い目が僕を見ている。
僕は宝珠の為に作られた土人形。世界の終末を待つ為に此処に生まれた。
血気盛んな若いドヴェルグから武器の扱いを教わり、白い髭の老いたグノームから世界の理を学んだ。力の加減が出来ない僕は斧や槍を何本も壊し、僕が世界に1人しかいない事を知った。
赤毛で厳つい顔をした大きなドヴェルグ、アウルヴァングは、僕の為にと壊れにくい丈夫な鞭をくれた。細い手足でも扱いやすい様にと考えて作ってくれた。これはどんなに振り回しても簡単には壊れないし、読み取りにくい動きに夢中になった。
白髪に褐色の肌をしたグノーム、ヴィトは土人形の作り方を教えてくれた。僕は何体も土から人形を作り出し、それと遊んだ。洞窟の外には殆ど出して貰えなかったから、本で見た動物を沢山作った。
最初はふわふわの黄金の毛の羊を作ってみた。これは本当に気持ち良くて昼寝をするのに最適だった。今度は逞しいの鬣に触りたくてキマエラを、艶々とした嘴が見たくてコカトリスを、可愛らしい頭を撫でたくてヘルハンドを……幾つも幾つも作った。彼らは時に反抗的に襲ってくる事もあった。その度に鞭を振るい、他の者を襲わない様にと教え込んだ。
暫くは土遊びに夢中になったが、その内作る物が無くなり、日がな一日羊を枕に寝て過ごす様になった。
ドヴェルグやグノーム達は一生懸命働くが、僕にはできなかった。守る物も生きる目的も全てが決められているから。ただただ、いつ来るかわからない終末を待つだけ。永遠とも思える時間を過ごすだけ。だから僕には一生懸命働く理由、生き生きと生きる理由が分からなかった。見つけられなかった。その日が来るのを待つだけの日々。
今から僕はやっと生きられる。この世界が終わるまで。
ーーでも神々の黄昏が来たら君は消えてしまうんでしょ?
いつの間にか足元に羊がいて僕に問い掛けてくる。
ーー君は何の価値も無くなり、誰からも必要とされず、きっと消されてしまう
それでもその為に進むと言うの?
そう、僕は神々の黄昏の為に作られたのだから……
僕はいつも独りだった。アウルヴァングやヴィトは不器用ながら僕に優しくしてくれる。だけど僕は決して彼らと同じでは無い。僕と彼らを隔てる大きく深い溝がある。
だから僕は僕と同じ土人形を幾つも作った。仲間になりたくて。友達になりたくて。
でもやがて気づいた。彼らと僕も違う事を。僕が彼らを使役するにしか過ぎない事を。彼らと僕の間にも決して埋まらない溝があった。
僕はやがて考える事が億劫になって、考える事を止めたんだ。眠りに逃げたんだ。
でも……
「それでも構わない。僕は君達に会えて嬉しかったから。楽しかったから。
優しくしてくれた彼らの為に戦いたい」
逃げる様に眠る僕に、それでも彼らは優しくしてくれた。アウルヴァングは時に僕を叱り、体が鈍ると稽古を付けてくれた。ヴィトは暖かい毛布を掛けてくれて昔話を聞かせてくれた。
彼らを失望させたくない。彼らの役に立ちたい。神々の黄昏から守ってあげたい。
ーーそれが君の覚悟だね
羊は土になり、膨れ上がったかと思うとケルベルスに形を変えた。
ーー初めて歩く大地は辛く険しいが今の想い、忘れるな
ケルベルスはそう言うと3つの頭を垂れて傅いた。
その頭にそっと触れる……




