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ゴゴゴゴゴ……と鈍い音が部屋中に響いて天井からパラパラと土が落ちて来る。
異変に気付いたアウルヴァングが走ってきて、慌てて入り口から顔を出す。そのまま祭壇に近づこうとする彼をヴィトが止める。
「あたしらは見守ることしかできないよ」
祭壇の壁が割れて、土が変形をして3つ首を持ち蛇の鬣をした巨大な獅子、ケルベルスが現れた。古い神話でしか聞いたことのない生き物だ。中央のの頭の額に宝珠が埋め込まれている。興奮した様子のケルベルスは竜の様な尾を振り地面に叩きつける。地面が砕け散り、破れた土の欠片が飛んで来る。
ケルベルスの凶悪な様子に、アウルヴァングは心配になってハイメを見るが、彼は今までとは違う生き生きした顔で腰に括り付けていた鞭を手にした。
彼が腕を軽く振ると鞭はしなやかに空を切る。
「この子、手懐けたら僕が貰ってもいいよね?」
そう言ってにやりと笑う。
ケルベルスは唸りながら、真ん中の頭でハイメを睨みつける。右の頭はグルグルと涎を垂らし、左の頭は青銅を擦った様な声で高々と鳴いた。垂れた涎はしゅうしゅうと音を立てて大地を溶かした。
ハイメは太く長い鞭をしならせてバチンと大きな音を立てた。
鞭はハイメの身長より遥かに長く、子どもの腕程太い。本体にはしなやかな金属が編み込まれていて、その先端には鋭く研がれたナイフの様な刃が光る。ドヴェルグ達の技術とグノーム達の知識が詰まった武器だ。重そうな鞭をハイメは軽々と扱う。
「いい子だね~ほら、おいで」
キラキラと瞳を輝かせてハイメはケルベルスを誘う。
ケルベルスはガルルルゥと唸り、ハイメに躙り寄る。間合いを詰めたハイメは鞭を大きく振り下ろす。鞭は不規則に動き、右と真ん中のケルベルスの顔を打ち付けた。
バシィィィンと鋭い音が洞窟内に響き渡る。
怒ったケルベルスは再び嘶き、ハイメに向かって突進してきた。
ハイメは素早く鞭を捌き、ケルベルスの前脚を強く打つ。ケルベルスさ一瞬怯み立ち止まったが、すぐに姿勢を低くしてハイメに向かって右脚を振り下ろした。
ズドォォンという音と共に地面が削れ、石が飛び散り土埃が舞う。ハイメは横に軽やかに飛び、石を躱しながら左の頭の目を打ち付けた。
ケルベルスはキャィィンと高い声を上げて顔を大きく振る。ハイメは休み無く鞭を振り、ケルベルスの顔や脚、胴を何度も打ち付ける。鞭の先に付けられた刃物で切り付けられ、ケルベルスの身体から赤い血が滲む。ケルベルスは鞭の不規則な動きを読み切れず、身動きが取れない様子だ。
「どうしたの?もう降参?」
不敵に笑うハイメ。普段のだらけた様子からは考えられない程俊敏だ。
「なかなかいい動きだな。普段もきっちり働けばいい良いものを」
ヴィトは満足そうに彼の戦い振りを見る。
「……」
アウルヴァングは言葉無くハイメを食い入る様に見ていた。
ナディルとライナも大きく悍ましいケルベルスとそれを諸共しないハイメに見入る。
防戦一方のケルベルスは突然怒り狂った様に3頭同時に鳴き出した。
ギャオォォォンと耳障りな声が響き、その場にいた全員が耳を塞ぎ、顔を顰める。
すると大地が震え隆起し、無数の土の柱が立ち上る。
ハイメはバランスを崩し、上手く立っていられない。
ケルベルスは鋭い爪で土の柱を引き裂き倒す。ハイメは飛んでくる鋭い土の破片を避けるので精一杯だ。
大きな土の破片がハイメの頬を打つ。
「くそっ」
ハイメは忌々しい顔をしながら左手を地面に押し当てる。すると手を当てた地面が光り、赤と紫の羽を持つ巨大な鳥が現れた。
「おいで、ルフ」
その鳥に飛び乗り土の柱の間をすり抜けながら、更に目の前に立ちはだかる土の柱に触れる。今度は両の手から禍々しい黒い鳥を2羽作り出した。
2羽の鳥は旋回する様に飛び立つと其々ケルベルの左右の頭を突いた。鋭く太い嘴がケルベルスの目を狙う。ハイメは鳥に乗ったままケルベルスの周りを飛び、打ち付ける尾を避けながら中心の頭に後ろから近づく。
「はぁっっ‼︎」
長い鞭がしなり、ケルベルスの首に巻きつく。ハイメは鞭を勢いよく引っ張りケルベルの首を絞める。ケルベルスは苦しそうにもがきながら仰け反る様に頭を上げる。額の宝珠が手に届きそうな距離にまでくる。
あと少し……ハイメは尚も鞭を引っ張りながら手を伸ばす。
そして宝珠に指が触れた。




