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アウルヴァングに案内されて隣の部屋に入ると、ふわふわした金色の枕に突っ伏して寝ている人物を見つける。
枕の間からオレンジ色の跳ねた髪の毛が覗く。
肩からずり落ちそうな緩いニットとムートンのショートパンツから伸びる白い手足は長く、人間と変わらない。
「またさぼっておるんか!ハイメ‼︎ 起きろ‼︎」
狭い洞窟の部屋に族長の迫力ある低い声が響き渡る。
ハイメと呼ばれた彼は、はっと顔を上げる。
「ふぁあ〜ぁ、おはよう族長。
僕に何か用?」
彼は全く悪びれる様子もなく、寝ぼけ目で大きな欠伸をした。
「全く、他の者はよく働いているというのに、お主だけ怠けよって」
アウルヴァングは憤る。
「だって僕不器用だし、力加減できないし」
ハイメは小さな欠伸を噛み殺しながら言った。
「ヴィト‼︎ ヴィトはどこだ‼︎」
ハイメの怠けきった態度にアウルヴァングは頭に血が上り、大声で怒鳴る。
「何だい、煩いよ」
隣の穴から短い白髪に浅黒い肌をしたグノームの女性が現れた。彼女は燕脂のチューブトップに裾の窄まったショートパンツを履き、色とりどりの宝飾品を身に付けてる。
「ヴィト様、お久ぶりです」
やって来た彼女にナディルはにこやかに挨拶する。
まるで子供の様な容姿だが、彼女がもう1人の首長であり、グノームの女族長ヴィトだ。
「久しいな、ナディル」
ヴィトは両手を腰に当ててナディルを見上げる。彼女の腕にはめられた宝石を散りめた腕輪がガチャガチャと音を立てて煌めく。
「お主がほったらかしにするからハイメが働かんのだ!」
アウルヴァングが声を荒げる。
「ハイメが働かないのはあたしの所為じゃないよ。元々の性格だ。
文句があるなら自分で面倒見ればいいじゃないか」
怒るアウルヴァングにヴィトが反論する。
当のハイメは全くの知らん顔だ。
「大体ハイメを作ったのはあんたのとこのドヴェルグじゃないか。責任持ちな!
それにあたしは教えられる事は教えたさ!」
捲し立てるヴィトにアウルヴァングは反撃できたない。
「うるさい‼︎ 知るか‼︎ 勝手にしろ‼︎」
そう言い放つと部屋を出て行ってしまった。
「全く呼び出して勝手に出ていって……
ドヴェルグの短気はどうしようもないね」
ヴィトはアウルヴァングが出て言った穴を眺めながら独り言の様に言い捨てる。
「で、ナディル。珠と使い手を取りに来たんだろ?」
「はい」
頷くナディル。ヴィトは全て分かっていた様だ。
「ハイメ、挨拶しな。どうせちゃんと挨拶してないんだろ。
こっち、王都の竜妃の使いのナディルと……」
「ライナです」
言葉に詰まったヴィトにナディルがすかさずフォローする。
ライナは慌てて2人に向かってお辞儀をした。
「こいつがハイメ。あたしらの子どもみたいなもんで宝珠の使い手さ。一応」
「一応って何さぁ」
ヴィトの紹介にハイメは口を尖らせる。
「ほら、頭下げる!」
ハイメはヴィトに頭を押さえつけられる。
「痛い、痛い!わかったよ!」
「全く……竜妃の前ではちゃんとしろよ!」
痛がるハイメにヴィトは畳み掛ける様に注意する。
「竜妃ってこの国の一番エライ人だっけ」
「お前は竜妃様って呼びな!
あたしらは昔世話になったんだからちゃんとするんだよ」
「はぁい」
2人の遣り取りはまるで親子の様だ。
微笑ましく眺めるナディルと呆気に取られるライナ。彼らの視線に気付いたヴィトは軽く咳払いをした。
「すまん、すまん。宝珠の祭壇へ案内しよう。ほら、こっちだよ。
ハイメ、お前も武器持って付いといで」
「えぇ〜」
ハイメは面倒くさそうに渋る。
「えぇじゃない!早くしな!」
そう言うと部屋の奥の小さな扉を開けて、そこから続く細い道を進んで行ってしまった。
ハイメは渋々、部屋の隅に置かれていた大きな黒く太い鞭を持ち出し後を付いていく。ナディルとライナもその後を追い掛けた。
灰瑪はドヴェルグとグノームの技術の粋が詰め込まれた人形だ。宝珠の埋っていた神聖な土から作ったヒトガタだ。名匠と呼ばれるドヴェルグが身体を作り、博識なグノームが真理を与えた。
グノームはドヴェルグと一緒に住む前、土人形を使役していた。しかし屈強なドヴェルグと共存し始めてからは扱いが難しい為に次第に使われなくなった。だが彼らの秘術として脈々と受け継がれて来た土人形はドヴェルグの技と神聖な力を持つ宝珠の土と相俟って思考を持つハイメを生み出した。
宝珠の使い手として、来るべき日の為に作られた彼らの最高傑作だ。
「あたしらはろくに外に出られないからね」
ヴィトはそう言って豪快に笑う。グノームもドヴェルグも日の光に弱い。日の光を恐れ、隠れる様に洞窟に住む。
ハイメの姿が人間に似ているのは、彼らの密やかな憧れからかもしれない。
「ここの土で作られているから力の相性はバッチリなはずさ。使いこなせるかは別だけどね」
ちくりとさぼってばかりいて働かないハイメを責める。
少し人間らしく作り過ぎてしまったのが難点な様だ。
細い道を進み、狭い階段を降りていくと、広い部屋に出た。岩肌は滑らかに削られ、壁には壁画が立体的に彫られている。壁を埋め尽くす壁画は圧巻だ。天井が高く、上からシャンデリアの様に蝋燭が何本も吊り下げられていた。奥には小さな祭壇があり、灯され蝋燭が神秘的に揺らめく。
祭壇の中心の壁には神の子の像が彫り込まれており、その像が抱える様にひっそりと宝珠を守っている。
「宝珠は使役する者の力を試す。ハイメ、覚悟を決めな」
ヴィトは真剣な表情でハイメに言う。
「えぇ〜僕がやるの?」
ハイメは心底面倒くさそうに声をあげた。
「当たり前だ。お前の存在意義を忘れたのか?」
強い口調で言うヴィトにハイメはちぇ、わかったよぉと膨れっ面で答えた。
「殺られても土は拾ってやる」
ヴィトはハイメの背中をつよく叩いた。
大丈夫、あいつの力は問題無い。ヴィトは自分達の最高傑作、ハイメを信頼している。
土の宝珠は赤茶やグレーの断層のような縞模様をしていて半分以上が神の子の腕の中に埋まっている。土から顔を出す珠は艶やかで美しい。
ハイメは恐る恐る撫でる様に、そっと宝珠を触る。
不吉な予感と共に地響きが起きる。




