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ドヴェルグやグノームは日の光を恐れて、夕暮れからしか活動しない。
2人はもう少し日が昇ってから街を出て、山の洞窟を目指す事にした。
それまでは店に併設された小さな食堂スペースで休む。木目の落ち着いた店内だ。大きな窓からは雪に反射した光が薄っすらと入ってくる。昇りそうで昇り切らない細長い日をぼんやりと眺めた。
ナディルはローズヒップのスープ、ライナはビルベリーのスープを飲んだ。夏に採れた物を乾燥させて保存しておくのだと背の高い店の主人が話してくれた。色鮮やかで甘酸っぱいスープはどこかほっとする優しい味で、身体を内側から温めてくれる。
「こんなに寒いと花も咲かないのかな」
ライナは独り言の様に呟いた。
「いいえ、今は雪に閉ざされておりますが、雪が溶けると美しい花々が咲き乱れてそれはきれいですよ」
店の主人がうっとりとした口調で教えてくれた。
「それに今でも雪の間にひっそりと咲く花があります。森を歩かれるのであれば見る事ができるかもしれませんね」
ライナは寒さに耐えて健気に咲く花の事を思い浮かべた。
外に出るとやはり寒い。暖かい服に身を包んでも身体の芯が冷えてしまうみたいだ。
森の中の道無き道を縫う様に歩く。先刻まで昇っていた日は低い位置を推移するとあっと言う間に沈んでしまった。日が沈むと寒さが一段と増す。太陽の光の有り難さが身に沁みた。
日が沈んだ後の漆黒の夜空には煌々と星が輝き、時々美しい光のヴェールが踊った。空がぼんやりと明るくなり、白い雪をほんこり照らしす。深い雪に足を取られながら慎重に歩みを進めた。白い衣を纏った木々は重たそうに腕をもたげている。
獣道の様な険しい道を進み、やっとの思いで洞窟まで辿り着く頃には、ライナの手足はとおに冷たくなっていた。
洞窟の中に入ると、荒く削られた土の壁に松明が幾つも置かれており、思っていたよりも明るくて、寒さも和らいでいた。
しばらく道なりに歩くと、ナディルの半分位の背丈のガッシリとした体型の男が2人、鈍色の甲冑を着て立っていた。ドヴェルグだ。2人共長い髭を蓄えて、大きな斧と槍を持っている。
初めて見るドヴェルグにライナはどぎまぎする。
「こんにちは」
ナディルは臆する事無く2人に笑顔で近く。
2人はじろじろとナディルの顔を眺めて大きな鼻をヒクつかせる。
「あぁ、お前、この前の」
斧を持った男の顔が明るくなり、ナディルの足をバシバシと叩く。
「覚えていてくれたんだ。ありがとう」
「ったり前だ。あの酒旨かったしな」
ナディルが笑顔を作ると、男も豪快に笑った。
「あの酒のヤツか」
もう1人も皺を寄せていた眉を持ち上げて高らかに言う。
「まぁ中に入れ」
そう言って並んで塞いでいた道を開けてくれる。
「行こうか」
ナディルはライナに振り返る。
「何だ、アイツ、お前のオンナか?」
斧を持った男がライナを見上げて言う。
「違うよ、俺の妹だよ」
「妹?似てねぇなぁ。……いけ好かねぇ顔してやがんな」
槍を持ったドヴェルグが顔を顰める。ドヴェルグは美しい容姿の光の妖精を嫌う。
ーー光の妖精とは関係ないんだけど
ライナは何となく居心地が悪い。
「俺の大事な妹なんだからあんまりいじめないでよ」
ナディルが笑顔でドヴェルグに見えない圧力をかける。
「すまねぇ、すまねぇ」
「すまねぇな、嬢ちゃん。ついて来な」
彼らはそう言って洞窟の奥へと進んで行った。
奥に進むと、道の両側に沢山の穴があいていて、中から煌々と光が漏れている。四方から溢れ出る光が岩肌を照らし出し何とも幻想的で美しい。
穴の中からはカンカンと鉄を打つ音が音楽の様に聞こえてくる。
入り組んだ道はまるで迷路の様だ。途中通り過ぎる穴の中を覗くと、赤茶や栗色の髭を蓄えた逞しいドヴェルグ達が、炎の燃えたぎりる炉に火を焚べ、真っ赤に熱した鉄を打っていたり、火花を散らし研磨したりしている。白い髭に色黒の肌をしたグノーム達はそれに細かな細工を加えてたり、職人達と話し込んだりしている。汗を流し懸命に働くドヴェルグ達は皆背が低くがっしりとしていて、中には体格の良い女性もいた。グノーム達も筋肉質でははないが同じ様な背丈だ。
更に奥に進むと水晶や宝石の原石が詰まった部屋や、金細工を集めた部屋があった。キラキラ輝く部屋の中で子供の様な体型の白髪に浅黒い肌をしたグノームの女性達が石を仕分けしたり、磨いたりしていた。
道を更に奥へと進む。すると一段と大きな穴に辿り着いた。
中には斧、剣、槍、様々な武器が雑然と置かれている。その中央にライナより少し背丈の小さい、体格の良い赤毛のドヴェルグが見事な細工の施された鎧を着て座っていた。彼の背後には彼の背丈より大きい鋭い両刃のバルトアクスが置かれている。
「族長、客だぜ」
案内してくれた2人のドヴェルグは男に声を掛けると部屋を出て行った。
「お久しぶりです」
ナディルは彼に頭を下げた。ライナも後ろから慌てて頭を下げた。
ナディルは王家の印の押された書状と木で出来た箱を渡した。
眉を顰めて受け取ったのはこの洞窟の首長の一人、ドヴェルグの族長アウルヴァングだ。
「 お主か。もうそんな時期か」
アウルヴァングは低い声を出し怒った様な顔でナディルを見る。
「はい、残念ながら」
ナディルも真っ直ぐ彼を見返した。
「やむ終えんな。竜妃からの頼みは断れん。
お主にも約束しておったしな」
彼は怒った顔のままそっと目を閉じた。
「宝珠と使い手の所に案内しよう」
アウルヴァングは静かに言い立ち上がった。




