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「服は向こうに着いてから買えばいいから、他に何か見たいものある?」
道端に停まる移動式の露店で飲み物を買いながらナディルはライナに尋ねる。
既に色々な店を見て多すぎる情報に圧巻したライナは、すぐに思い付かず考え込む。
ふと王宮から出られないと言っていたティレットの事が頭をよぎった。何か買って行ってあげたいが何が良いだろう。王宮には何でもあるし、装飾品は身に付けていないし、森と同調している為食事は殆ど取らなくてもいいと言っていた。でもお茶の時間、菓子は少しだけ摘まんでいた。ちょっとだけなら食べてくれるかもしれない。
「王都の美味しいお菓子って何?」
「色々あるけど、マルツィパンとかヌーガとかヤーンドゥヤかな?見に行ってみる?」
そう言ってナディルは紅桃のネクタルをライナに渡した。自分は白檸檬のミント水を買い求める。
ライナはそれを受け取りながら大きく頷く。ナディルは了解、と微笑んだ。
街には小さな公園が幾つもあり、大抵その周りには軽食堂や菓子屋が並ぶ。硝子張りの店先には美味しそうな菓子が可愛らしく飾られている。
その中の1軒のピンクの屋根の店に入る。
店内は甘い匂いが充満していて、カラフルなドレスを纏った菓子が美しさを誇る様に並んでいる。
「これがマルツィパン。杏桃の実を粉にして砂糖と練り合わせたお菓子だよ」
そう教えてくれた菓子は小鳥の卵程の大きさで、様々な果物を模して鮮やかに色付けされている。まるでミニチュアの玩具みたいで可愛い。
「こっちがヌーガ。蜂蜜と水飴を煮詰めて木の実や果物を混ぜて固めたもの」
乳白色やキャラメル色、檸檬色、桑の実色等の四角い一口大に切られた菓子が並ぶ。甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「あれがヤーンドゥヤ。炒ったハシバミの実をペースト状にしてカカオと混ぜたものだよ」
指差された方にはピラミッド型をした茶色い塊が行儀良く並べられている。滑らかな表面が上品で美しい。
ライナは迷った挙句、見た目のかわいらしいマルツィパンと幾つか買った。庶民の嗜好品の様でどれも手軽に買える値段だった。
店の屋根と同じ鮮やかなピンクの服にフリルの沢山付いたエプロンを着た店員さんが、ハートの絵柄の紙袋に入れて渡してくれる。
「喜んでもらえるといいね」
ティレットへのお土産だという事はナディルにはお見通しだったようだ。
王宮には無い、庶民的で値段も高くなく、持ち運びしやすい物を選んでくれた様だ。
「ありがとう」
ライナは素直にお礼を言った。
ライナは王宮に戻ると真っ先に世界樹の森へ行った。
「これ、お土産」
と先程買ったばかりの菓子を渡すと、ティレットは大げさに喜んだ。
「かわいい!ありがとうライナ!」
そう言って橙や薄桃の果物をかたどったマルツィパンを手に乗せてはしゃぐ。
食べちゃうの勿体ないね、となかなか食べようとしない。
「腐っちゃうから、ちゃんと食べてね」
放っておいたらずっと取っておきそうなティレットの様子に不安になる。
「じゃあ1個ずつ一緒に食べよ」
そう言ってライナに薄桃色のマルツィパンを差し出す。
マルツィパンはシャリシャリとした触感に甘い杏桃の味がして美味しかった。
こんなに喜んでもらえるなんて。今まで誰かにこんな風に喜んでもらった事なんてあっただろうか。後でナディルにもう一度お礼を言わなければ。
ナディルにもここに連れて来れば良かったと思った。ここは全てが澄み渡っていてとても気持ちいいからきっとナディルも気に入るだろう。
「ティレット、今度ナディルも連れて来ていい?」
「ナディルはここには入れないよ」
ティレットは少し申し訳なさそうにはっきりと言い放つ。
「この森は私と光の洗礼を受けた精霊と妖精しか入れないの。だから人間は入れないよ」
お菓子を齧りながらティレットは続ける。
「ウォーラは特別。竜の一族は神に最も近いから。セファも水の恩恵を受けた妖精だし。」
「じゃあ、私は?」
ライナもナディルと同じ人間と精霊の子のはずなのに。
「ライナは特別。強くて濃い精霊の力を感じるの」
そう言ってティレットは顔をにっこりとライナを見る。
ナディルは自分には魔力しか無いと言っていたから、その所為なのだろうか。ライナは精霊の力が使えるが、でもどうして。父親が特別だから、とナディルは言ったが、どうして自分だけ。そもそも父親とは一体どの様な人なのだろうか。
ライナは初めて両親の事を知りたいと思った。自分の事を知る為にも。




