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「ライナ、天地創造の話を知っておるか?」
暫くの沈黙の後、竜妃が口を開く。
「はい」
民間伝承の創世譚は吟遊詩人の演目として人気だ。誰しも幼い頃に聞いた事がある。
ライナは村にある書庫で無くした記憶を補おうと本を読み漁った。その中の1冊に創世譚や古い神話を書いたものがあった。
「そうか」
竜妃は頷くとセファに人払いをさせた。
侍女達が出で行った部屋は静まり返った。
大きな窓からは庭の深緑が目に入り、暖かい午後の陽光が降り注ぐ。
竜妃は甘酸っぱい花の香りのする紅茶を一口啜り、静かに語り出した。
「余の一族は他の種族に比べて遥かに寿命が長い。
その為、この星に生命が誕生して間もない頃から創世神や神の子と親交があったと言われておる。
余の先祖は彼らから星の創世の話や神々の時代の話を伝え聞いたとされておる。そして彼らの御言葉や古い神話を記したエッダと呼ばれる書物が昔から伝わる。
エッダは2冊あって、1冊には星の創世と彼らの御言葉、もう1冊には古い神話が綴られておる。
古い神話はこの星の前に創世神が創った星での出来事だと言われておる。神話はその星で生まれた神々の繁栄と栄華、衰退について語られておる。そして最後には“神々の黄昏”として、神々の時代の終焉を巫女が予言するかたちで描かれておる。
――神々の住まう場所が夕焼けで赤く染まる
暁の神が角笛を吹き神々の黄昏の到来を告げる
光の神が死に、終焉の神が拘束される
太陽と月が飲み込まれ、星々が天から落ちる
大地が揺れ、山が崩れ、長い長い冬が訪れ、多くの生命が息絶える
神に仇なす獣が東の海から攻め入り、南からは黒い巨人が炎を携え進む
神々は聖戦士や御使いを従えて立ち向かうが、やがて世界は炎に包まれる
炎が世界を焼き尽くし、煙が吹きあがる中、大地は沈没して神々の住処は失われる
この終焉の神話は、神の消えた星の過去、我らの住まう星の未来であると言われておる。
人々の不安を煽るとして神々の黄昏の章のみ一般には語られてはおらぬ。
もう1冊、この星の創造や神の御言葉が書かれたエッダは予言のエッダとも呼ばれておる。彼らの御言葉は予言に近いものが多い故だ。
創世譚の章も最後が断言されず暈されてかかれておる。それ故、過ぎた過去ではなく未来に起きる事と言われておる。
“全てが破滅に向かう時”という記述があるのだが、この節は我々の星の“神々の黄昏”と言われておる。
つまりこの星の終焉と神々の消滅を示唆しているとされておる。
しかし、古い神話を“予言”として神が残したのであれば、我らには回避する手立てがあるはずなのじゃ。その為の“予言”であると余は信じておる」
竜妃は一息ついて窓から見える遠くの空を仰ぐ。
金色の瞳には強い意志が宿る。この国を担う強い光として。
「間もなく長い冬が起こる。星見の予言じゃ。
月が太陽を飲み込む。
以前にも月が太陽のを覆い隠し、光の無い日々が続いた事が幾度かあった。
長い冬が起こると必ず争いが起こる。
闇は人々の不安を煽り、動物を惑わし、作物を枯らせる。
以前は東の果ての大陸で大きな争いが起きた。
あそこは月の大陸とも呼ばれておる故、闇の力の影響が大きかったのやもしれぬ。
流された沢山の血が大地を穢し、憎しみが憎しみを呼び、争いはなかなか終結しなかった。世界が光を取り戻した頃には、不浄の地と化していた。そして未だに紛争が絶えぬ。それ故、あの大陸を汚らわしい厄災の地として近寄らぬ者が多い。
間も無く起こる長い冬は今までのものより遥かに長く、恐ろしい。しかし今までそれを回避してきた様に、今度も滅びる訳にはいかぬのじゃ。
よく創世神は太陽に例えられ、神の子は月や闇に例えられる。
創世神は世界に光を与え、神の子は宇宙の星と闇から創られたとされる為じゃ。
故に、この予言や現象は暗示ではないかと考える者もおる。
神の子が神に反旗を翻す暗示だと。
いずれにせよ長い冬は近い内に必ず起こる。
争いは避けられぬ。……滅びぬ為の準備をせねばならぬ」




