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竜妃とセファの後に付いて入った部屋の中では、ティレットとライナが仲良くお茶を飲んでいた。
白と金を基調にした部屋で、部屋の隅の大きな壺には薄紅色の大きな花が活けられていて部屋中に甘い香りを漂わせていた。中央に置かれた木製の机には白磁に細かな花が咲き乱れるティーポットとティーカップ、砂糖壺が並ぶ。
豪華な部屋で優雅にお茶を飲むティレットの姿は黙っていれば品格溢れるお姫様だ。
竜妃たちが入ってきたのを見つけると、ティレットはすぐさま口を開く。
「遅いっ」
立ち上がろうとするライナをティレットは座ったままでいい、と押し留める。ウォーラにお辞儀とかする必要無いんだから、と。
「すまぬな」
竜妃は窘める事無く、にこやかに長椅子に座るティレットの横に腰を下ろす。
セファはナディルに奥の席を勧め、壁際で待機してる侍女にお茶の用意を頼むと、竜妃の隣の席に座った。
「誰?」
ティレットはナディルを見て怪訝そうな顔をする。先程謁見室に居た事も知らないかの様な口振りだ。
「ライナの兄だ。ライナを王都まで連れて来てくれたそうじゃ」
竜妃はティレットの機嫌を取ろうと優しく答える。
「はじめまして、ティレット様。ナディルです。」
ナディルはティレットに身体を向け、にっこりと微笑み挨拶をした。
部外者を連れて来て、と不機嫌そうだったティレットだったが、ライナの兄と聞いて顔色が少し変わる。ティレットの吸い込まれそうな青い瞳がナディルを値踏みする。
「ライナのお兄様なら様付けなくてもいいよ」
それだけ言うと、でもやっぱり興味無い、とそっぽを向いた。
その様子を見届けてから竜妃は口を開いた。
「それでティレット、彼女がライナと申したな」
「そうだよ、見てわかんないの?」
何でそんなのも分からないのかと呆れた様子のティレット。先程から少し不機嫌だ。竜妃がすぐに取り合ってくれなかったから拗ねているのだろう。
「ライナ、久しいな。覚えておるか?」
竜妃はティレットの横に静かに座るライナに先程とは違い嬉しそうに声を掛ける。
声を掛けられたライナは恐る恐る竜妃を見つめたが、やがて申し訳なさそう目を伏せる。
「……ごめんなさい」
「ライナはアイツに記憶を封じられてるの!だからウォーラのところに連れてきたの」
ティレットがライナを庇う様に2人の間に割り込む。そして、私じゃどうにもできないから……と悲しげに呟く。
「記憶を?」
竜妃は驚いた様に顔を歪め鋭い声を出した。
そして暫く考え込み押し黙ると、静かに口を開く。
「……そうか。しかし彼の仕業であれば余にもどうすることも出来ぬ」
「そんな……ウォーラは1番力を持っているし何でも知っているじゃない!
それにアイツの親とも知り合いでしょ?」
ティレットは悲愴な声を上げて食い下がる。
「“アイツの親”……創世神と呼びなさい」
セファが呆れたように注意をする。
――創世神?
黙って事の成り行きを傍観していたナディルはセファに言葉に反応して考え込む。
――じゃあティレットの言う“アイツ”とは神の子の事なのだろうか。
しかし何故神の子がライナの記憶を?
「残念ながら、余と創世神は知り合いという程親しいわけではない。
何せ相手はこの地を創りたもうた神じゃ」
「でも」
「それに全知全能の神の事だ。自分の創りし子の行動など知らぬ訳がない。
何か考えが有らせられるのであろう」
「そんな……」
ライナの記憶を戻す手立てが無いと分かったティレットは、大きく落胆して下を向いてしまった。彼女の長い睫毛が深い瞳を覆い隠す。
「ティレット……」
落ち込むティレットにライナが心配そうに声を掛ける。
その声に反応して、ティレットは顔を上げライナに問いかける。
「ライナ、ウォーラとセファを見ても何も思い出さない?」
「ごめんなさい……」
ライナは目を伏せ、首を横に振った。
「ううん、ライナを責めている訳じゃないの」
ティレットは慌てて否定をし、握ったまま膝の上に置かれたライナの拳にそっと手を添えた。




