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張り詰めた空気を無視して、尚も玉座へと続く階段を上ろうとするティレットをセファが前に出て阻止した。
「場をわきまえなさい」
彼の冷たい声が一層冷気を帯びて、彼女に降り注ぐ。しかしティレットはそんな事では全く怯まない。美しい声を荒げて食い下がる。
「ライナが帰ってきたんだよ?」
それより重要な事など一体どこにあるのか、と言わんばかりにセファに訴えかける。
「今は来客中と伝えたはずです。慎みなさい。竜妃に恥をかかせる気ですか?」
「ウォーラの恥何てどうでもいいんだけど。それよりも大変なの!」
「ティレット!!」
この国の最高権力の恥などどうでもいいと言い放ったティレットをセファがきつい声で窘める。
「2人共落ち着け」
言い合う2人に竜妃の冷静な一声が割って入った。
「セファ、そう声を荒げるでない。客人の前じゃ」
「申し訳ございません」
「ティレット、すぐ行くから子午線の間で待て」
「……はぁい」
セファは右手を胸に深々と頭を下げて、ティレットは頬を染めてむくれた。ライナは状況が飲み込めず立ち尽くすばかりだ。
竜妃は小さく溜め息を吐いた後、ティレットの後ろに立ち竦むライナを見た。その視線にライナが気づき、竜妃と目が合う。何にも屈しない黄金の瞳。彼女が何者であるか裁く様に大きく見開かれた捕食者の瞳がじっとライナを捉える。ライナは目を逸らせず身動ぎすらできなくなる。強い瞳が一度瞬きをすると、ふんわりと優しく細まった。ライナは慌てて呪縛から逃げる様にお辞儀をする。
「行こう、ライナ」
顔を上げたライナをティレットが引っ張る。ライナはティレットに引っ張られて転びそうになりながら謁見室を振り返る。その時初めてナディルに気が付く。
「え……ナディル?」
戸惑ったその声だけ残してライナは奥の扉に消えて行った。
2人が消えて静寂を取り戻した謁見室に竜妃とセファの溜め息が零れる。
「すまない、あれでも世界樹の管理者で精霊の長じゃ」
竜妃は2人が消えて行った扉を見詰めながら、彼女の正体を明かした。
「自覚が無さ過ぎです。頭が痛い」
「甘やかし過ぎたかの」
セファは白い手袋をはめた手で頭を抱え、竜妃は肘置きに乗せた腕で頬杖をついた。
それよりも、ナディルは精霊の長なんかと一緒にいたライナが気になっていた。
「恐れながら、彼女と一緒にいた少女の事なのですが、彼女は……」
「ああ、ライナと申しておったの。……本当に彼女が戻ってきたのか?」
竜妃は訝しげに問い掛ける。
「ティレットのあの様子からすると、恐らくそうではないかと思います」
竜妃とセファは真剣な面持ちで顔を見合わせる。
「あの……彼女は私の妹なのですが」
只ならぬ雰囲気に恐る恐るナディルは口を挟む。ライナは何かしでかしたのだろうか。
「あの娘がか?
ナディル、そなたの探し物は見つかったのか」
ウォーラは大きく目を見開いてナディルを見遣る。
「はい。竜妃様のお力添えのお陰です。パラスロットに行く際に出会えました。
本当にありがとうございます」
ナディルは深々と頭を下げて礼を言う。
「そうか、よかったな。
余は何もしておらぬ。そう畏まるな。頭を上げよ」
竜妃はそう言って微笑んだ。
「それにしてもそなたの探していた妹が“ライナ”とはな。
これも何かの因果か」
竜妃の独り事の様な呟きにセファは目を伏せる。
「そろそろ行くか。あまり遅いとティレットに文句を言われる」
そう言って竜妃は立ち上がる。
「待たせておけばいいんです。全く竜妃はティレットに甘い」
セファはぶつくさと文句を言いながら兵士に扉を開けさせる。
「調度良い、ナディルも一緒に参れ」
竜妃はナディルに声を掛ける。
「よろしいのですか?」
思いがけない誘いに戸惑うナディルに竜妃は問題無かろう、とセファに目配せする。
セファは頷いてナディルを促す。
「構いません、付いてきなさい」
ナディルは2人の後に付いて奥の扉へ入っていった。




