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様子のおかしいライナに、ティレットはふと思い当る。
「あ、もしかして……アイツの仕業……?」
そう呟くと、ちっと舌打ちして凶悪な表情になる。美しいその顔からは似つかわしくないその仕草と表情にライナは驚く。
憤るティレットだが、ライナは何の事だか分からない。
「ごめんね、ライナ……
アイツは私たちの“上”の存在だから、私では何も出来ないの……」
ティレットはこの世の終わりが来たかの様に落胆する。
「そうだ、ライナ、ウォーラには会った?」
良い事を思い付いた、とティレットはぱっと表情を明るくする。
ウォーラという名の知り合いに心当たりが無いライナは首を横に振る。そういえば竜妃と同じ名前だな、とぼんやりと思う。
「ウォーラやセファに会えば何か思い出すかもしれない。あの人達見た目たいして変わって無いから。
それにウォーラはアイツの親と知り合いだって言っていたから、何とかできるかも」
そう言うや否やティレットはライナの手に指をしっかり絡めて握り、軽やかに森を走り出した。
ライナはティレットに引っ張られて、森の中を走った。不規則に生える木の根や草に足を取られない様に気を取られていると、いつの間にか森を抜け小さな庭に出ていた。
ティレットはその庭から続く大きな白い建物の廊下へ迷わず入って行く。彼女は裸足だったが、全く気にする様子もなくどんどん奥へと突き進む。
庭に面した廊下は光に満ちて白く輝いている。象牙色の大理石が格子柄を描いた床に、アーチ状の天井。石柱は重厚でシンプルな縦筋の彫刻が施されている。途中、黒茶色の木製の扉が幾つもあった。
――教会ではないみたいだけど……ここはどこだろう
辺りをきょろきょろ見回していたら、ティレットは一段と大きく、豪華な飾りの施された白い扉の前で立ち止まり、それを躊躇無く開けた。
白地に金色の模様が描かれた壁、緑の意匠の凝らされた絨毯。贅沢な調度品が部屋のあちこちに飾られていて、部屋の中央には星を思わせる細かな細工で飾られた丸い机と椅子が3組置いてある。しかし誰もいない。
「あれ……」
小首を傾げるティレットだが、すぐに部屋に背を向け、立派な部屋に呆けるライナを再び引っ張る。
「今日お客様が来るって言ってたから、あっちかも」
そう言うと再び廊下を走りだす。
途中で黒い簡素な服に真っ白い膝下まであるエプロンを身に纏った女性と擦れ違う。
「ティレット様、またそんな……」
慌てる彼女の横をすり抜けて、片手でスカートを捲り走って行く。
女性は何か言っているが、ティレットは完全に無視をして歩みを止めない。
廊下は角を曲がる度に豪華になっていく。いつの間にか、廊下には萌黄色の絨毯が敷かれ、壁はマーブル模様の石で彩られ、天井からは美しいシャンデリアが幾つも吊り下がる。
――本当にここどこ?
辺りを見回すライナが辿り着いたのは、一段と豪華な扉の前だった。
扉の前には、先程擦れ違った女性と似たような服を着た若い女性だった。ボリュームを持たせた長いスカートにすっきりとした長袖。エプロンのデザインだけが少し違う。先程より華やかにレースがあしらわれている。
彼女はティレットとライナを見つけるとぎょっとした様子で目を見張る。ティレットは当然の様に扉を開ける。彼女はティレットを止めようとするが、突然の事に言葉が出ない。扉の奥に進むと、小さく細長い部屋があり、その奥にもう一つ重厚な扉がある。その扉の左右には金色のボタンが並ぶ白いジャケットを着た男性が2人立っている。彼らは腰には金色の鞘に入った剣が吊り下げられている。
「ティレット様、謁見中です」
男性は片手を広げてティレットの前に進み出る。制止しようとする彼にティレットはうるさい、と冷たい眼差しで一瞥する。すると彼は金縛りにあった様に片手を広げたまま動かなくなった。その様子を見たもう1人も青くなって固まる。
ティレットは彼らを押しのけて、重々しい扉を体当たりするように開けた。




