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気が付くと、ライナは先程と同じような部屋に居た。
ぱっと見では、さっきと何も変わらないのだが、先程までいた聖職者の男性が居ない。それに魔法陣を取り囲む術者達の背丈も少し違う気もする。
ナディルを見上げると、優しく笑顔を返してくれる。
「お帰りなさいませ、ナディル様」
声のした方に振り向くと、右手を胸に当て、頭を下げた女性が居た。
彼女の後ろに垂らされた、布の間仕切りは鮮やかな緑色をしていた。
彼女もまた、白に金糸の刺繍の施された、聖職者の衣装を身に纏っていたが、服の裾は桔梗色では無く、鮮やかなヴィリジアンだった。
「只今戻ったとお伝えください」
ナディルは恭しく頭を下げた。
畏まりました、と女性は足早に部屋を出て行った。
「行こうか」
そう言い、ナディルは繋いだままのライナの手を引っ張り、緑色の布の隙間をすり抜ける。
そこは、来た時と同じ様に広間になっていたが、広間はとても広く、扉の数がル=イースランの3倍はあり、其々の扉の前には1人ずつ、先程の女性と同じ白と緑の服を着た聖職者が立っていた。ナディルは迷うことなく奥の大きな扉へ進んでいく。
もう大丈夫、と繋がれた手を離してほしいライナだが、何の事?と笑顔で惚けるナディルは離す様子はない。
大きな扉を出ると、物凄く豪奢な回廊に出た。
床は象牙色と黄土色を基調にしたタイルが幾何学模様を描きながら敷き詰められていて、太い柱は1本ずつに色取り取りの硝子で宗教画が描かれている。丸みを帯びた天井にも、隙間なくびっしりと古い神話の絵画が描かれている。まるで王族の宝物庫の様だ。
柱の隙間から見える庭園には池と噴水があり、奥は森の様に木々が生えている。
長い回廊を抜けて、辿り着いた広い身廊は、先程驚いた回廊とは比べ物にならない位凄かった。象牙色と輝く黄金色を基調に、様々な彫刻、装飾、絵画が細部まで計算されて建物を飾り、豪華だが煩わしくない、美しい造りになっていた。その美しさを一目見ようと種族も年齢も様々な多くの人が集まっている。
呆気にとられるライナの手を引き、ナディルは聖堂の外へと連れ出す。
聖堂の外に出ると、大きな広場があり、正面を真っ直ぐ太い道路が走っている。広場にも道路にもお祭りの様に沢山の人が溢れかえっている。
そして、その先には背後に大きな森を携えて鎮座する真っ白い王宮があった。
「転移の魔法陣って便利なんだけど、すぐ居場所がばれちゃうのが難点なんだよね」
ナディルはそう言って残念そうな顔をする。
「俺は今から用事を済ませてくるから、ライナはちょっと待っていてくれる?
街を見ても良いし…」
と言いかけて口を噤む。この人混みと街の広さではライナは迷子になるかもしれない。いや、確実に迷子になる。
「王都って凄く広いし人も多いから、この教会を見学していて。
礼拝堂が幾つかあるし、小さい図書館もあるから」
そうだ、と言って繋いでいた手をやっと離し、鞄から小さな薄紫色の紙袋を取り出す。
「ル=イースランで買っておいたんだ。お腹が空いたら食べて。聖堂内は飲食禁止だけど、庭なら大丈夫だから」
そう言ってライナに袋を渡す。中にはクリーム色をした菱型の焼き菓子が幾つか入っていた。
「なるべく早く戻ってくるから」
ナディルは名残惜しそうに人混みの中に消えて行った。




