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坂を登り切って辿り着いた教会は、街並みと同じ灰白色と亜麻色の石を積んで造られている。正面の入口は、繊細な飾りが施されたアーチが何段にも重なり、精密な聖戦士達の像が両脇に並んでいる。
中に入ると、意匠の施された柱が立ち並び、壁には創世神が行ったとされる天地創造の様子を描いた絵画が、場面毎に飾られていた。神の子はパラスロットにあった像の様に描かれていたが、創世神の姿は目映い光として描かれていた。創世の話は昔、本で読んだ事があるが、こうやって絵で見るととても分かり易かった。
奥の祭壇には天地創造の一場面を描いた絵画が、豪華な彫刻に囲まれて飾られている。
確かにパラスロットの教会より遥かに華やかだ。
祈りを捧げる人たちの邪魔にならないよう、そっと一周してから聖堂を後にした。
移転の魔法陣は、聖堂の脇の回廊を進んだ奥にある。回廊の柱もまた、神の御使いや彼らと戦う魔獣などの様々な美しい彫刻に彩られている。
突き当たりの重々しい木と鉄で出来た扉の前には、聖職者の恰好をした男性が2人立っていた。彼らの服はパラスロットの聖職者より少し赤みを帯びた桔梗色だった。
「転移の魔法陣を使いたいのですが」
ナディルは男性に話し掛ける。
「どこまでですか?」
「王都までお願いします」
「畏まりました。それでは身分が分かるものと、御志をお願いします」
聖職者の男性は丁寧に頭を下げる。
「ライナ、身分証明になる様なもの、持ってる?」
うっかりしていた、とナディルはライナに振り返る。
ライナは首を横に振る。
そっか、とナディルは焦る様子も無く男性に向き直り、以前教会でカハクに見せた緑色の手帳の様なものを取り出した。
「もう1人は私の身内なんですが、いいですか?」
そう言って聖職者の男性に見せる。それを見た男性は再度深く頭を下げる。
「どうぞお通り下さい」
そう言って、もう一人の男性に扉を開けるよう促す。扉を開けた男性はナディルとライナを奥へと案内する。
「あ、これ志」
ナディルは最初に話し掛けた男性に、愛想の良い笑顔で金貨を数枚渡す。男性はそれを恭しく受け取り祈りの言葉を口にした。
「神の御加護が有らん事を」
扉の奥は小さめの広間の様なスペースになっていて、赤茶色の木の扉が幾つも並んでいる。
幾分か質素な造りだが、床の大理石で造られた幾何学模様は素晴らしかった。
「どうぞ、こちらへお進みください。」
そう言って、真ん中の扉を案内される。
入るとすぐに、桔梗色の重い布の間仕切りが目に入る。その布の隙間を押し広げて更に奥へ進む。
そこは壁も床も真っ白で、中央に絶えず色を変えながら虹色に輝く大きな円形の魔法陣があった。魔法陣はとても細かく、複雑なもので、見た事も無い図形、記号、文字がびっしりと並んでいる。
魔法陣の回りを取り囲むように、同じ格好をした、7人の術者と思しき人々が中心を向いて立っていた。
彼らは、自分たちの背丈よりも長い、金色の細い杖を持っていて、全身を覆い隠す白いローブを身に纏っている。真っ白なローブの襟元と袖口には、上質な金糸の刺繍が施されている。頭には分厚いヴェールが深く被せられ、顔の殆どを隠している。少しだけ覗く口元と手からだけでは、年齢も性別も判別し難い。
ナディル達を案内した聖職者の男性は、一番奥に立っている術者に何かを耳打ちした。
術者は何も言わずゆっくりと頷いた。
「どうぞ、真ん中へお進みください。」
男性が2人を魔法陣の中心へと促した。
2人は魔法陣の真ん中へと進む。
2人が中央に来ると、術者たちが一斉に杖を高く上げた。魔法陣が一段と強く光を放つ。
「逸れるといけないから、手を繋いでおこう」
ナディルは不思議そうに足元を見つめるライナに、優しく微笑みかけて、手を差し出す。
ライナは漠然とした恐怖と期待を拭い去る様に、ナディルの手を強く握りしめた。
生まれようと欲する事は本能だが、自分の世界を壊す事はとても困難で勇気のいる事だ。でも、目を瞑らずに真っ直ぐ見ていたい。
光は一層強くなり、真っ白で何も見えなくなった。




