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次の日、ライナとナディルは遅めの朝食をとっていた。
昨晩、夕食を済ませたライナにナディルは、明日の朝はゆっくりでいいよ、と言ってくれた。疲れているだろうからゆっくり休みな、と。
しっかり休んだライナは、少し元気を取り戻して、ブランチを楽しむ。
ル=イースラン伝統だという、オリーブや木の実が入った平たい円形のパンを食べる。塩味が調度良く、木の実のザクザクとした触感を楽しむ。
他にも、豆と野菜を煮込んだバジルの効いたスープや、肉と野菜を詰めてオーブンで焼いた赤トマトがテーブルに並ぶ。
「今日はちょっとゆっくりしよう。
ここの街並みは色鮮やかでかわいらしいから、ライナも気に入ると思うよ。
少し散策してから教会へ向かおう。
教会も古いけど、手が込んでいて華やかだから、ゆっくり見たらいい」
ナディルの言葉にライナは嬉しくなった。早く散策に出かけたくて、急いで食事を進める。
街の中心の通りにはカラフルな絵皿や布、花の匂いの石鹸、乾燥させた香草の室内香を売る店が立ち並ぶ。どの店も店先に品物を美しく並べて客を誘う。甘い花やスパイシーな香草の匂いがどこにいても香ってくる。
もの珍しそうに店先の商品を覗きこむライナにナディルは後ろから付いて行き、好きなように歩かせた。
通りを曲がり石畳の細い小道に入ると、両側から建ち並ぶ家々に囲まれる。灰白色の壁とサックスやアップルグリーンのドアとのコントラストが美しい。どの家にも緑が植えられていて、窓際には赤やピンクの鮮やかな鉢植えの花が目を引く。路地の隙間からは、切り取った様に青い空が覗く。
目の前を白と黒の斑模様の猫が通り過ぎる。
――猫!!
ライナはそれを追いかけるが、すぐに見失ってしまった。
家の間を縫うようにして坂を登って行くと、高台の開けた場所に辿り着く。
眼下には白と緑の街、深い森、そして冴え冴えとした真っ青な空と海が広がる。
気持ちのいい風が通り抜けて、足元に咲く小さな紫色の花を揺らした。風に乗って、爽やかな花の香りが運ばれてゆく。
――きれいな街……
ライナの村では見た事の無い景色が広がっている。
世界を見つめる事は、自分を広げる事。もっと沢山のものを見て、触れて、感じて、全てを受け入れられるようになりたい。強くなりたい。世界を回った後に見つめ直す過去は、変わるだろうか。同じ様に見る景色は色を変えるだろうか。いつかは受け入れ、赦せるだろうか。家族を、裏切られた恩人を、そして自分を。
ライナは隣に立つナディルを見つめる。
彼は優しくて強い人だ。きっと沢山の悲しみや苦しみを乗り越えてきたのだろう。いつか対等になりたい。隣に立って恥じない様になりたい。今度こそ守れる様になりたい。そう心に強く刻んだ。
晴れ渡る空と澄みきった海のその先を眺めるライナの横顔を、ナディルは密かにそっと見る。
彼女の世界は変わるだろうか。音を立てて崩れ落ちる殻から抜け出して、その先に見るものは何だろう。広がる世界は美しいだろうか。
彼女の目に映るものが何であっても、選択する未来がどんなものであっても、隣に居てあげたい。気丈な彼女が倒れてしまわない様に、そっと手を添えてあげたい。
海の、その先を見つめるライナをナディルはそっと見守る。




