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馬はライナに敵意を向けること無く、颯爽と走り出した。普通の馬とは比べ物にならない位速い。すごい風圧で飛ばされない様に、ライナはナディルに必死にしがみ付いた。
ル=イースランの街はこの大陸の北の端にあるが、この調子で行けば2~3日程で着きそうだ。
日が暮れる頃、途中の小さな町で休むことにした。
「夜走るのは危ないしね。
ライナも慣れない乗馬で疲れたでしょ?」
そう言って町の近くで馬から降りて、札に戻す。流石にあの見た目では町の人が驚く。
宿に着く頃には、ライナは精神的にも肉体的にもクタクタだった。初めての乗馬が魔獣とは。落されない様に、襲われない様に、と神経を尖られて必死にしがみ付いていた。宿の部屋の扉を開けたら張り詰めていた糸が切れてしまい、夕食も食べずに服のままベッドに倒れ込み寝入ってしまった。
朝シャワーを浴び、支度を済ませて部屋を出ると、少し不機嫌そうなナディルに、すぐに近くの軽食堂に連れて行かれた。小さな町の宿は、食事が付いていない所が多い。
「しっかり食べなきゃ身体がもたないから」
少し強い口調で、沢山の皿を押しつけてくる。
スープ、パン、サラダ、卵包み、厚焼き燻製肉……朝が苦手なライナは、見ているだけでお腹が一杯になる。
昨日夕食を食べなかった所為だが、やはり量が多い。
「食べられるだけでいいから、ちゃんと食べて」
青白い顔のライナを気遣って、ナディルは心配そうに言う。
ライナは心配をさせて申し訳ないと思いながら、暖かいスープを口に運ぶ。
ライナがちまちまと食事を進めているうちに、ナディルは会計を済ませ、昼ご飯を調達していた。
「これなら食べられそう?」
にこにこしながら戻ってきたナディルは、ライナの目の前に真っ赤に熟れた果物を置いた。
「……ありがとう」
ライナはお礼を言い、増えた果物を一口齧った。
その日は、何度か休憩をしながら走った。1~2時間おきに大丈夫?とナディルは尋ねてくる。ライナを気遣ってすぐ休憩をしようとするナディルに、昨日より大分慣れたから大丈夫だ、とライナはひたすら繰り返した。
頑張ったかいがあってか、日暮前にはル=イースランに到着した。
「ありがとう、御苦労様」
ナディルはスヴァジルファリの鼻を撫でてから札に戻した。
ル=イースランの街はパラスロットより少し小さいが、華やかな街だった。
亜麻色や灰白色の石造りの家々にパステルカラーのドアや窓枠が目に入る。道は細いが、至る所に緑が溢れている。街は坂になっていて、高台に見える教会は、精密な彫刻で飾られていた。
後でじっくり見たいな、とライナは思いながら、取り敢えず、宿を探して歩いた。
座りっぱなしのお尻が痛かった。暖かいシャワーを浴びて、早くベッドで休みたい。
でも今日は先にちゃんと夕食を食べないとナディルに叱られる、と心の中で溜め息を吐いた。同じ過ちを2度は繰り返せない。また朝食攻めにあってしまう。




