第27話 騎士クーブッシュ
──クーブッシュの視点
ようやくアルバドンに戻ってきた。と思ったら、なにやら街では、流行り病が猛威を振るっていたそうで、それをエロタッチのアニルなる回復魔法の使い手が癒したらしい。それに、霊園では闇の魔法使いが邪悪な儀式を執り行っていたとか……親父が俺のために用意した領地一周体験の裏側で、いろいろ起きていたらしい。
「クーブッシュ様、アニルってまさか……」
「フルボルトでグリフォンを倒したヤツに違いない」
魔法剣士アニル。フルボルトからホークに行ったという話は聞いていた。都会を目指していることもな。必然、アルバドンを目指し、辿り着いていたわけだ。
「よーし、何人か暇そうな奴つまんで、捜索させるかぁ」
衛士舎に立ち寄って、衛士を数人指名しておいた。
これで数日中には見つかるだろう。
その間に用事を済ませる。
従騎士アッシュを引き連れて、俺は錬金術師ルーナのもとへ向かった。数年前からアルバドンにいるあの美しい女錬金術師は、俺の家庭教師でもある。16歳の頃から4年間ほど、魔法学というやつを教わった。ルーナはかつてかの高名な竜の学院で魔法を学んだ身だという。体系化された魔法知識は、良い教養になった。
ちなみに俺が何年もかけて口説いている女でもある。人間離れした蒼い肌は、北の魔族に見られる特徴で、不気味がる奴もいるが、俺はあれがセクシーで好きなんだ。聡明で、変わっていて、俺のナイスガイな容姿にも簡単になびかない美女。あんまり相手にされていないが、必ずいつかものにすると決めている。
もちろん、会いに行くのは、逢瀬のためだけじゃない。
彼女は腕の良い錬金術師だ。その霊薬は、衛士舎に納品されている。騎士たちも霊薬を常備する。傷の治りを速めるやつや、身体能力を高める霊薬をな。そうした在庫を受け取りにいくんだ。
「アッシュ、しー」
「何してるんですか、クーブッシュ様」
「話し声が聞こえる」
ルーナの家の前、扉に耳を当てる。誰かと話している。もしかして男か? 俺はドキドキしながら聞き耳を立てる。
「『欠片の集積』、だと?」
中にいるのは、例の冒険者アニルだ。
しかもそいつが伝説に聞く恩寵『欠片の集積』を持ってるらしい。
や、やばいことを聞いている気がする。心臓がバクバクと鳴っている。
このまま盗み聞きしていても仕方がない。
俺は突入することにした。
「錬金術師ルーナ、久しぶりだな」
「もう徴税からお帰りになっていたのか」
「ああ、退屈な遠征だった。だが、実りもあった」
魔法剣士アニル。フルボルトでは口を揃えて英雄と呼ばれていた少年だ。そして、アルバドンでも、流行病を癒し、闇の魔法使いを倒し、今や英雄扱いだ。
すごいねえ……正直、羨ましいぜ。
「魔法剣士アニル、外に出るんだ」
「はい、いいですけど」
「気を付けろよ、アニル。クーブッシュは手強いよ」
「はい? え?」
訳わからなそうにアホ面を晒すアニル。ルーナは何が起こるかわかってるかのような口ぶりだ。さすがだ。その冷たさと聡明さが痺れる。
アニルを連れて、衛士舎に向かう。
ルーナとアッシュも後ろをついてくる。
ほかにも暇そうな町人たちが、ちょこちょこ。
ギャラリーは多いほど良い。
「グリフォンを倒したんだってな、少年」
「よ、よくご存じで、騎士様」
「勇壮な英雄譚には目がなくてね。俺もそういうのに憧れているんだ。なかなか手柄には恵まれないんだが。だってそうだろ。エルドランド家は、こんなに栄えた町の中にあって、戦争でも起きなきゃ、俺が鍛えている剣が活躍することはない」
「はあ、なるほど」
貴族という生まれ。恵まれているのは、重々承知している。それでも……時折、羨ましくなるんだ。酒場でバカ騒ぎしている汚い男どもがな。どこぞに行った。なんたらって怪物を倒した。この傷はいつぞやの怪物退治でついたもんだ、とかとかとか。
伝説の恩寵を宿した少年。
選ばれし者か。面白いじゃないか。
魔法剣士アニルの実力とやらを見てやろう。
その上で、俺が凌駕してみせよう。
このクーブッシュ・エルドランドが喰らうんだ。
山のように大きなグリフォンを倒した功績も、流行病を食い止めた偉業も。冒険者アニルという名前を食って、俺の武功となそう。
それに、こいつを倒したら、ルーナにカッコいいところ見せられる。ふふふ。
衛士舎に辿り着いた。
訓練用の藁人形が置いてある。中に木の芯が入ってる奴だ。打った時に手が痺れる程度には固い。
人形の近く、訓練用の木の剣がある。
俺はそれをつまんで、アニルへ投げ渡す。
「魔法剣士アニル。すごく強いんだろう? 俺と手合わせしてくれよ」
衛士舎まで来てから、申し込む。逃げられないように。
アニルは驚いた顔をして「いや……っ」と否定の言葉から入った。
「手合わせって、俺じゃあ、騎士様にはとてもとても」
「魔法の力を使ったっていいんだぜ。お前は魔法剣士なんだから」
「その、危ないですよ、魔法は」
「このクーブッシュ・エルドランドの心配をするのか。ずいぶん舐めてくれるじゃないか」
「いや、あの、そういうわけではないのですが……」
かなり緊張している。これなら軽く叩けそうだ。
「構えろ、魔法剣士アニル」
「……わかりました」
貴族の圧で、上から押し付ける。
お前の積み上げたもの、全部いただくとしようか。




