第20話 エロタッチのアニル
なにこれ、また俺、怒られるわけですか?
ベイルボートで散々怒られるのには慣れてるからいいんですけど。
2日ぶりに治癒院の院長ウィーブルに会った。
彼は治癒院の入り口に立つ俺を見つけるなり、飛ぶような速さで駆け寄ってきた。
「来たか、アニル! 待っていたぞ!」
「先日は申し訳ありませんでした。悪意はなかったんです。魔法の発動条件はマッサージでしたので仕方なく──」
「こっちに来たまへ」
言われて、手を引かれる。
2日前、俺がマッサージを施した女の子がベッドに横たわっていた。
しかし、以前と違って意識がはっきりしている。
「彼が君に回復魔法を施した魔法使いだ」
なにこれ公開処刑ですか。
「アニル様、ですね? 私を救ってくださったという」
「……はい」
ん? 流れ変わったな?
「これはどういう……?」
「アニル、私たちは君に謝罪をしなければならない。2日前、君が回復魔法を施したこちらの子は、なんと驚異的な回復を見せたのだ。さあ」
ウィーブル院長が言うと、女の子はゆっくりとベッドから降りた。両足で立っている。
ちょっと胸が熱くなった。
よかったね。立てるようになったんだ。
「恐らくは君の施した魔法『村長の揉みほぐし』が流行病に対して効果を発揮した結果だろう。その証拠に、彼女だけがこの2日で回復を見せた。これは偉業だぞ、アニル。君の魔法だけが、現状、この流行病に対抗することができる唯一の手段なのだ!」
ウィーブル院長はバシッと指差してきた。
まじか。あの村長すごいじゃん。
「ひいてはアニル、君に依頼をしたい。患者たちへの治療を継続的にお願いしたい。我らオーエンス治癒院の5人目の魔法使いになってほしいのだ」
「いいですよ。報酬は?」
「基本給として日に銀貨5枚。患者ひとりの治療につき、追加で銀貨2枚でどうかね?」
なんだと!?
ひとり30分だとして、日に10時間マッサージで、銀貨40枚!?
1日でグリフォン4回分ですよ!? そこに基本給!?
「やります」
「交渉成立だな」
こうして俺はしばらくオーエンス治癒院で働くことになった。
──治癒院勤めから1週間後
思ったより、きつい。しんどい。
指とは手首とか痛いし。自分にもマッサージしないと。
でも、治癒院の女の子に『村長の揉みほぐし』の指導をするのは楽しいです。ウィーブル院長からのお達しで、指導料をもらえることになったので、そちらもありがたく頂戴している。ちなみに1回の指導で銀貨1枚ね。安いけど楽しい。
「アニルさん、こうですか?」
「ちょっと違いますねぇ」
俺は女の子の背中をオイルマッサージする。指導です。
「んっ、あ、アニルさん……」
「どうしましたあ?」
「い、いえ、なんでも……ん」
「アルバドンの住民たちの命がかかっていますからねえ(ニチャア」
指導です。
──治癒院勤めから2週間後
俺はベッドで泥のように眠っていた。
小鳥の鳴き声に目が醒める。
「んあ、もう朝か……仕事にいかないと……」
「アニル、顔色ひどいよ、すこしは休んだほうがいいんじゃない?」
「大丈夫だよ、デイジー。今日も4グリフォン頑張らないと……」
「そう……ううん。アニルは頑張りたいんだもんね。治癒院に必要とされるのなんて名誉なことだもん。アニル、ファイト。今日もたくさんの人を助けてきてね」
治癒院で働き始めて、俺も流行病について詳しくなった。
一つ目、えー、この病の患者は、毎日4~5人増えます。
二つ目、元気になった患者は10日経つと戻ってきます。
つまりどういうことか。
このままだと俺は過労で死ぬということです。
毎日17時間くらいマッサージをしている。老若男女を問わずにな。じじいの時に萎えた気持ちを、若い女の子を触って回復させながら、どうにか繋いでいるんだ。卑劣だなんて思うなよ! 現場は命がかかってるんだ! 俺の!
「アニル、体の方は大丈夫かね?」
「まあ、はい」
「どうか今日もよろしく頼む」
「はい……」
夜まで働き詰めて、俺はようやく解放された。
もう嫌だ。治癒院に行きたくない。
「あ、エロタッチのアニル様!」
治癒院から『灰色の狼亭』への帰り道。
俺が命を救った少女とばったり出会った。
「アニル様のエロタッチのおかげで、また歩けるようになりました! ありがとうございます!」
「うん、それはよかったね。お大事にね」
最近は患者に話しかけられることも増えたな。
しかも、このあたりでよく……。
俺は周囲を見渡す。
霊園のすぐ隣の道だ。
本当にこのあたりでよく話しかけられる。
ん? もしかして患者たち、みんなこのあたりに住んでるのか?
そんなことある?
疲労で重たくなった思考が、何かを閃きそうになっている。
三つ目、魔法使いの免疫から魔法的な原因の可能性がある(仮説)
もしかして、この辺になにか原因があるのでは?
「霊園、か」
俺はこのあたりのことを、頭にとどめつつ──疲れたので『灰色の狼亭』へと帰ることにした。
翌朝、治癒院への出勤前に、俺はベラルダに依頼を確認した。
「なんか霊園まわりの依頼ありません?」
「ん、ちょうどひとつ、入ってきてるよ」
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依頼書
条件:剣を扱える者
内容:霊園の地下墓地にて夜中に聞こえる異音の調査
報酬
前払い:銀貨2枚
仲介人
『灰色の狼亭』ベラルダ
依頼人
墓守りのバサス
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「これ貰いますね」
この夜、俺ははやめに治癒院での医療行為を切り上げて、装備を整え、霊園へと足を向けた。




