第19話 流行病
「きゅ、9!? バケモノだ……っ」
「何かの間違いでしょ、そんなにたくさんの魔法を覚えるなんて不可能でしょ!」
人を見る目じゃない目を向けられる。
「そ、そんなわけがあるか。こんな土臭い小僧が、僕よりも優れた魔法使いだと君はいいたいのか、錬金術師ルーナ……っ」
隣の高貴な身なりの男は、拳を握り、腕を横に薙ぎ払う。
「そんなに持ってないですよ。俺が使えるのは3つだけなので」
9つはないので、正直に申告する。
「ふむ、そうか……ふむふむ。けほんけほん」
咳き込みながら、ルーナは羊皮紙にペンを走らせる。
その間、俺は隣の高貴な男にやたらと威圧的な視線を向けられた。
「3つだと……こんな土臭い田舎者が……くっ」
「はい、まあ、だいたい良いかな。被験者諸君ご苦労。もう帰ってもいいよ。また協力をお願いするかもしれない。その時はよろしく。けほっ」
ルーナは依頼書に手早くサインをし、皆にそれぞれ渡して解散させる。
「アニル」
「はい」
「君は天才なのかな」
「……まあ、たぶん」
聞いてる限り、そうなんでしょうねえ。
あの人も言ってたしね。俺は本当に優秀だとか。
「ふふ。そうか。いや、失礼。引き留めて悪かった。依頼は完了だ」
ルーナは依頼書にサインをし、返してくれた。
『灰色の狼亭』に戻ってきた。
「もう戻ってきたのかい、アニル」
「はい、なんか速攻で終わったので」
1時間もいなかったんじゃないかな。
「怪しげな薬を飲まされただろう?」
「いいえ? 怪しいレンズで見られただけでした」
「それは運がよかったね。当たりの依頼じゃないか。うん。たしかにルーナのサインもある。これが報酬の銀貨2枚だよ」
これで銀貨3枚。所持金は300シルバーになりました。
嬉しいです。路銀で失われた分が徐々に戻ってきてます。
「そういえば、あんた回復系の魔法が使えるとかいってたね」
「あ、はい、言いました」
「なら、これとかどうだい。治癒院のところの依頼なんだけどね」
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依頼書
条件:回復系魔法の使い手
内容:流行病の治癒
報酬:銀貨2枚
成果次第で要相談
仲介人
『灰色の狼亭』ベラルダ
依頼人
ウィーブル・オーエンス
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さっそく治癒院に足を運んだ。
「こんにちは、ベラルダのところの冒険者です」
「あ、依頼書を見てきてくれたんですね? ウィーブル先生! 新しい治癒魔法の使い手が!」
女性に案内され、治癒院なる立派な建物に足を踏み入れる。
奥の部屋は広々としていて、ベッドがズラリと並んでいた。
床に伏せている大勢の患者を、白色の衣に身を包んだものたちが気遣っている。
治癒院。すごい光景だ。
怪我を、治しているのかな?
「君がベラルダのところのかね」
並ぶベッドの間に威厳のあるヒゲを備えた男がいた。この人が依頼人のウィーブル・オーエンスかな。
「はい、アニルです。よろしくお願いします」
「うむ。見ての通りだ。いまアルバドンでは流行病が猛威を振るっているのだ。衰弱し続け、自分の足で歩けなくなる。やがて寝たきりになり、呼吸すら元気もなくなる。そんな恐ろしい病だ」
やばすぎです。
あれ、俺ここにいたらやばいのでは?
「安心したまへ。恐らくは魔法使いには感染しない」
心の中を読まれました。たまにいるんだよな。この手のひと。
「そうなんですか?」
「ああ、いまのところはな。基礎的な塞傷魔法は効果がない。解毒魔法の基本七種もすでに検証済み。いずれも効果が見られない」
なに言ってるか全然わからないけど、たぶん難航してるってことかな。
「つまるところ、現状、治癒院の魔法使いでは、この流行病に対して抜本的な解決方法を用意できないでいるのだよ。我々にできるのは、治癒院に備えられた術式のうち『疲労回復』と『精力増強』しか効果が見られない」
精力増強が効果あるんだ……。
ウィーブル院長、真面目な顔で言ってるしマジなんだろうな。
「いずれも病の進行を遅らせるのみ。そこでだ。治癒院としては大変に遺憾だが、外様の回復系魔法の使い手を頼ることにしたのだ。治癒院にない回復魔法であれば、効果を期待できるのでね」
なるほどね。これはぜひとも力になりたいところです。だって、良いことだもん。冒険者の心得その1。徳を積むべし。
「アニル、君の持つ回復系魔法とはいかなるものかね? 病にも効果があるのか?」
「えーっと」
初めて訪れた村リムの村長ダニエルの言葉を思い返す。
「あります」
「素晴らしい。これは可能性が出てきたぞ。さあ、まずはこちらの少女に君の魔法を試してみてくれるかね」
「わかりました」
ダニエルいわく患部をマッサージするとのことだった。
確か、自分で歩けなくなるとかいってたな。
ということは、足に悪いところがあるのかな。
「失礼」
意識のない少女への施術を開始する。
自分なりに考えて、布団をめくり、少女の足を撫でる。足首、ふくらはぎ、膝裏、太ももとのぼっていく。悪いところはどこだ。
「こほん。アニル少年、すこしいいかな。君は何をしているのだね」
「え?」
背後を見ると、院長と治癒院勤めの女の子たちが目元に影を落としていた。
「いやいや、待ってください、これは治療行為でして!」
「ほう、治療行為ね。なんという魔法か聞かせてもらってもいいかね」
「それは、その……『村長の揉みほぐし』っていうんですけど……」
ウィーブル院長たちに冷ややかな目で見られる。
仕方ないじゃん! そういう魔法なのだから!
俺は周りの目線に耐えられず、そっとめくったかけ布団を元に戻し「あざした……」と言って、治癒院をあとにした。報酬とかいいや、もう。そんなつもりじゃなかったんだよ……! 俺は本当に良い行いがしたかったのに……!
2日後。
『灰色の狼亭』の2階で居候して過ごす俺が、いつものように酒場に降りると、ベラルダに手招きされた。走って馳せ参じる。
「ウィーブル院長があんたをご指名だ」
言われた俺は、重たい足取りで治癒院へ向かった。




