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田舎の天才魔法剣士、冒険者になる。  作者: ファンタスティック小説家


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第17話 冒険者ギルド

 フルボルトを旅立って約2週間後。

 村々を渡り歩いて、俺はついに街に辿り着いた。


 この街の名はアルバドン。

 ここいら一帯で1番の都だ。


 長い旅路だった。村から村へ移動する足を見つけるのは大変なことだった。村を歩き回って、聞き込みをして、馬を飼ってる奴を探して、声をかけて、交渉をしなければならない。


 基本的には相手の用事に合わせるのが出費が少なくて済む。でも「次に馬車を出すのは1ヶ月後だね」とか言われると、やっぱり待てない。


 そういう場合は、銀貨が解決してくれた。2枚も渡してやれば、隣村まで往復してくれる。村の生活では、コインを手に入れるのは至難、だからこそ価値を高く見積もってくれるようだった。


 まあ、もっとガチの田舎、それこそ俺の故郷のベイルボートとかだと、コインの価値は低い気がするが。そんなもの手に入れても、使い道がないからね。


 かくして、グリフォン討伐で稼いだ銀貨をすべて路銀として消費し、俺はアルバドンへ漕ぎつけた。


「達者でやるんだぞ〜、冒険者〜」

「ありがとうございました!」


 ここまで送り届けてくれた御者と別れる。


 振り返れば、そこに石の建物たちが並んでいた。


 凄すぎて言葉が出てこないです。

 あの人が言っていた、石造りの家とオレンジの屋根がそこにあるではないですか。


「すんご」


 なんかフワフワしてる。地面を踏んで、一歩ずつ前へ進んでいるのだが、足元が安定しない。浮足立つとはこういうことなのだろうか。


 念願の街の風景は、どれだけ見ても飽きなかった。人間の多さ、そして、着飾った者たちの華やかさ。村のどこか色褪せた景色とはちがう。


 屋台を眺めて歩き、なんか文字と絵が描かれた建物の前を通り過ぎる。たぶん、俺いますっごいバカみたいな顔してるんだろうな。


 あの人が言っていた武器屋さんや、防具屋さんってのは、たぶん、剣だの鎧だのが描かれた看板を掲げてる店のことだろうな。


 俺みたいな文字の読めない田舎者でも、あれならなんの店か察することができる。


 街を歩き回っていると、だんだん日が傾いてきたことに気づいた。


 まずい。

 夢中になってた。


 街に着いたら、まず、そう、宿屋を探さないといけないんだった。


 というわけで、ベッドの描かれた看板の店に入ってみます。たぶん、ここが宿屋ですね。


「こんにちは、どんな子にしますか?」

「はい? どんな子、ですか?」


 店に入ると、大柄の男が待ち構えていた。圧力を感じる。


「胸が大きいか、小さいか。背が高いか、低いか。要望にできる限り答えますよ?」


 なんか、なんか、変だ。


「あ、あの、ここって宿屋ですか?」

「んあ? よく見たら小汚い格好してやがるな、お前。さてはどこぞの田舎からのぼってきた田舎者だな?」


 なんかバレてるし。ちょっとプライドを傷つけられて癪だな。


「帰った帰った」

「え、あ、ちょっと」

「ここはお前みたいな奴がくる場所じゃねえ。シルバー作って出直してきな」


 店を追い出される。

 胸が大きいだのちいさいだの……これは、うーん、なんの店だったんだ。


 宿屋じゃないのは間違いなさそうだったので、ほかを当たることにした。根気よく宿屋っぽい店を探し、ようやく俺はそれらしい店に辿り着けた。


「えっと、一晩、泊めてくれませんか?」

「銀貨1枚、寝床と食事つき。今なら朝食まで出してやるよ」

「えっと、手持ちがなくて」

「だったら、出ていきな」

「あの、馬小屋でもいいんで! 干し草で眠るので! お願いします!」

「ダメだ。この田舎者」

「どうしてですか?」

「馬小屋にいるのは、金を払ってこの宿に泊まってる客の大事な馬たちだ。お前のようなやつを泊めて、馬になにかあったら、うちの信用に響くだろう」


 うう、それはそう、かもだけど。


 金がなければ、街では馬小屋ですら寝られないらしい。

 うう、俺はフルボルトでは英雄だったのに!

 あ、そうだ、言ってみよう。


「こほん。おかみさん、俺、フルボルトでは山のように巨大なグリフォンを倒しましてね。英雄扱いだったんですよ」

「はん。フルボルト? どこの土臭い田舎だい?」


 取りつく島もない。

 なんてみじめなんだ。悔しい。


 渋々、俺は引き下がる。


 シルバーがないとこうも不自由だなんて。

 仕方ない。長旅の疲れを癒すべく、ベッドで眠りたかったが、こうなればあそこに行くしかない。


 かくして、俺は夜の冒険者ギルドへとやってきた。

 御者から街のことをいくらか教えてもらっていたので、冒険者ギルドには迷わずにたどり着くことができた。


 あの人が言っていた。都会のほうでは、シルバーを使って取引するのだと。シルバーを用いた取引の重要性は、心の痛みでもって感じたところ。


「えっと、あの人かな」


 『灰色の狼亭』という酒場の主人が、仲介人をやっているそうです。カウンターのなかにいる腕の太い村娘最終進化形態みたいな見た目の女性がきっとそうだ。


「あの、こんばんは、ちょっといいですか?」


 赤髪の女主人はギロっとこっちを見た、おかしいですね。前腕の太さが俺の腰くらいありますよ。怖い。


「新米冒険者だね」

「えっと、どうして、そう思ったんですか?」

「大方、田舎から出てきて、シルバーもなく、身動きが取れないから、冒険者ギルドで仕事をもらおうってやつの顔してる」

「まじですか」

「ああ」


 そんな顔に出やすいっけ、俺。


「冒険者ギルドについてはどれくらい知ってる」

「あー、あんまり」

「冒険者と依頼人を仲介する。それが私の仕事だ。依頼人は幅広く募集をかけられるし、冒険者は報酬の支払いを担保できる」


 女主人は、丁寧に『ギルド』の仕組みを解説してくれた。


 冒険者ってのは、普通の依頼人と直接、報酬のやりとりをする。だが、その多くは口約束だ。なので、まあ、はやい話、約束が履行される保証がない。


 言われてみればそうだなと思った。俺がグリフォン倒した時も、村長が支払いを拒否する可能性がなかったわけじゃないし。まあ、そうなってたら、俺もなにかしただろうけど。「話がちげえ!」と剣を振り回して暴れたかな。いや、アニーがいたし、さすがにそこまで野蛮にはなれなかったか……。


 この『ギルド』という枠組みは、有用に思えた。


「頭の良いひとがいるんですね、街には」

「そういうことだよ、田舎者の坊や」

「実は俺、今日アルバドンに来たんですけど、シルバーがなくて。なにか仕事をもらえませんか?」

「仕事を紹介してやってもいいが、その前に、お前さんが仕事をしっかりやり遂げる信用がないと困る。お前さんが途中で仕事を放りだしたら、ギルド全体の信用に傷がつくからねえ」

「絶対に逃げません。俺はこれでもけっこう依頼をこなしてるんです。村からここまで出てくるのに、身一つでやってきたんですから」

「へえ、そいつはたくましいことで。何件こなしたんだい」


 えっと、アニーを狼から助けたのを数えて、羊の毛刈り2件、グリフォン退治……。


「4件です」

「話にならないね」

「くっ。大きなグリフォンだって倒したんですよ!」

「口でならどうとでも言える」


 俺は黙った。

 言い負かされるのが怖かった。


「アルバドンではあんたは誰からも信用されてない。ただの剣を持ったガキだ。わかるかい。それをあたしの信用を貸して、仕事をさせてやろうっていうんだよ? あたしはアルバドンでも指折りに信用されているからねえ。わかるかい」


 女主人の言う通りだ。

 彼女の積み上げてきた信用を、タダで使わせてもらうなんて虫の良い話だ。


「それは……えっと、何をすればいいですか?」

「まずは、そうだね。あたしの信用を稼ぎな。あたしの言う通りにここで働きな。客の杯にビールを注いで、厨房から皿を運ぶんだよ。デイジー!」


 俺に話していたかと思ったら、ぐわんっと向こうを見て大声を出した。それを受けてオレンジ色の髪の女の子が振り返った。可愛らしい子だ。


「この田舎者に皿を運ばせる。しでかさないか見ておくんだよ」

「はーい」


 え、俺?


「なに、ボケッと立ってんだい。あんたが信用できて、仕事を任せられる冒険者だって示すんだろ?」

「は、はい!」


 この人……優しいな。道をこんなにもわかりやすく示してくれるなんて。


 信用を稼ぐのって難しいんだよな。リムやフルボルトでは、アニーのおかげでトントン拍子で上手く行ったけど、ホーク以降の村では、結局俺は信用を上手に稼げなくて、銀貨という貨幣を使って物事を解決せざるを得なかった。


 その点、この女主人は信用を稼ぐ方法をそのまま用意してくれてる。俺はそれに全力で応えるだけでいいんだ。


「ああ、まだ名前を聞いてなかった」

「アニルです。ベイルボートのアニル」

「アニルだね。わたしはベラルダ。見てるからね、あんたの働き。荷物はそこの椅子に置いておきな。大丈夫、あたしが目を光らせておくよ」


 女主人ベラルダの有無を言わせない圧に押されるように、俺はカバンと剣を置いて、厨房の入り口で待機する。


「ねえ、ちょっと」


 デイジーと呼ばれたオレンジの髪の女の子が肩をトントンと叩いてきた。


「は、はい」

「ボサっと突っ立ってないで。皿、集めて、そっち置いて」


 心臓がキュウっとなる。いきなり怒られた。

 冷や汗が滝のように流れ出す。

 ここで失敗したら、俺はベラルダに嫌われ、2度と『ギルド』の仕組みを利用させてもらえない。絶対に失敗はできない。


 俺はデイジーの動きを横目に、一生懸命にホールを動き回った。皿を集め、厨房へ運び、空いたテーブルを雑巾で拭く。客が吐いて汚した床をモップで綺麗にし、暴れてる冒険者がいたら「表でやれ!」と怒鳴って追い出す。


 皿を片付ける際の、食器の積み方、客への対応、モップで掃除する要領、すべてデイジーを見てマネをする。あそこに完成形がいるのならそれをお手本にする。こういうのは個人的に得意だ。


「ほう、なかなか……いや、ずいぶん筋が良いね」

「あの子、使えるね、ベラルダ。どこかでウェイターやってたのかな?」

「そういう身なりじゃない。うーん。いいじゃないか。要領が良くて、働き者、それに必死だ。必死ってのは何よりも信用できる。見たところ人も良さそうだ」


 客が減ってきた。

 感触は良いっぽいぞ。


「アニル、良い働きだ。お前さんは物覚えがいいね。すっかりデイジーと同じだけ働けるようになっちまったじゃないか」

「……むう、まぁまぁって感じだね」


 ちょっとバカにされてる気がするが、褒めてもらえていると受け取ることにしよう。


「ほれ、受け取りな」


 ベラルダは指で銀貨を1枚弾いてよこした。


「っ、ありがとうございます!」

「それと今夜はうちの2階の部屋を貸してやるよ。シルバーは大事に使いな」


 一晩の宿と銀貨1枚。

 あれ、これでグリフォン討伐の5分の1も稼げるの?

 うーん、あれかな、フルボルトの村長からもっと貰ってもよかったかも……いや、でも街と村じゃ物価が違うか。


 そんなことを考えながら、俺はカバンと剣を受け取り、2階へあがった。


「これ、残り物だけどよかったら食べて」

「あっ、ありがとうございます」

「気にしないで。じゃあね、おやすみ」


 デイジーが渡してくれた一皿を受け取る。スープに乾燥肉とパンが突っ込んである。見た目は雑だが、豪華な食事だ。


 飯をぺこぺこの腹におさめ、俺は硬いベッドで眠りについた。

 良い縁に繋がれた感触があった。


 ここから始めていこう。

 ベラルダの信用を裏切らず、立派に依頼をこなしてみせるんだ。

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