第14話 欠片を集めた先
──ウィテカーの視点
やべえ。まさかグリフォンがあんなにデカいだなんて。
話に聞いてたのと、だいぶ違う。こいつは特殊な個体なのかもしれない。アニルが言っているように、それこそ伝説級の可能性がある。
いずれにせよ、今、そいつはキレちまった。
目玉をひとつ奪ったんだ。
俺たちのことをそう簡単には見逃してくれないだろうな。
手の震えが止まらない。
剣を握る手が定まらない。
さあ、走り出せ。
行くんだよ、ウィテカー。
打ちあいの術理なら、もうアニルが上だろうが、怪物退治の経験ならまだ負けてねえはずだ。お前が戦わなきゃ、皆、死ぬことになるんだ。
「ハッ!」
アニルに続こうと、木陰を飛び出した。
その時、アニルが大きく力強く空振りしたのが見えた。
何して──。
瞬間、気づいた。
風だ。風が放たれたのだ。
それは木々を傷つけながら目にも留まらぬ速度で飛び、グリフォンに命中した。羽が舞い、甲高い悲鳴があがり、血が噴出する。
「な、んだと……ッ」
どんな馬鹿でもわかる。
グリフォンが使ってきた魔法と同じじゃねえか。
これは一体どういうことなんだ。
まさか、まさかとは思うが、このアニルとかいう14歳のガキは、今しがたグリフォンの魔法を見てマネて、使えるようになっちまったってことか?
よぎるのは、昨日、アニルが俺の剣技を吸収したことだ。
俺が何年もかけて手に入れた術理を、こいつはものの1時間で体得し、使いこなせるようになっちまった。
天才剣士。そんな言葉がぴったりだと思った。
だが、それどころではなかったのか。
「ウィテカーさん、俺が牽制します! 隙を狙って攻撃を!」
「……ああ!」
こいつはすげえ。とんでもねえ奴だ。
肌が粟立つのを感じた。
恐怖や悪寒ではない。
これはなんというか……興奮?
凄いものを見た。
その確信に俺は興奮しているんだ。
このバカでかいグリフォン、アニルがいれば勝てる──。
そんな自信が、勇気が湧いてくる。
「うおぉぉぉおぉおお!!」
グリフォンがアニルに意識を持っていかれている間に、俺は奴の足元へ走り、両手でしっかりホールドした長剣を叩きつけた。
対怪物用の武器ではない。刃は人間を斬るのにほど良い厚さと重さ。それ以上の肉の塊を斬るには不向きの品。だが、力一杯に斬りつければ、傷くらいはつけられる。
「ピャアア!」
止まらない。走り抜ける。
心臓がバクバク鳴っている。
斬った、斬ったぞ!
俺はあの巨大な怪物に攻撃を当てた!
後ろをチラリと伺う。
グリフォンがこちらを向いていた。
と、そこへ横から風の刃が顔まわりを襲った。黄色いくちばしが欠けて、破片が勢いよく飛び散る。
「ピャア、アアアアアッ!」
「っ!」
グリフォンは巨大な翼を羽ばたかせ、飛び上がった。
暴風が爆発的に勢力を拡大し──気づけば俺は浮いていた。
なんて怪力。いや、魔力!
「ぐはあっ!」
木に背中から叩きつけられる。
視界が明滅する。息が、吸えない。
何本か、骨も折れてる気がする。
ああ、やっぱり、人間と戦うのと訳がちげえな。
スケールがでかすぎる。羽虫を潰すみたいに一蹴されちまった。
アニルは、アニルは?
無事なのか。どこに──。
「ドゥラア!」
もたげた視界の中で、アニルは剣を振っていた。
下段から上段へ、斬り上げる一撃。
迫りくる風を打ち払い、相殺している。
そうか。風を放つ魔法で、打ち消しを行って耐えたんだ。
「ピャァアア!」
「はあ、はあ、はぁ……」
アニルはずいぶん疲れているように見えた。
対するグリフォンには疲労が見えない。跳ねるように移動し、木々の枝を折りながら巨大な翼を動かして、風を飛ばし、時には自前の鉤爪で大地を裂く。
あの体格の生物へ剣を届かせるのが、元より至難。なのにあれだけ動かれちゃたまったもんじゃない。走って追いつこうにも、常に風の魔法と、飛び出してくる前足を警戒しなきゃならない。
アニルがもたない。
決定的な一撃を叩き込む前に力尽きる。
そう思った時だった。
アニルは刃を握りこみ、大量の血を流す。
その直後だ。剣に炎が灯った。
魔法だ。アニーが言ってたアニルの魔法。
轟々と燃える炎に、森が赤く照らし出される。
「ピャアァ、ピャァアア!」
「来いよ!」
アニルは叫んだ。
巨大な翼がはためいた。
瞬間、無数の風の刃が迸る。
地を舐め、岩を削り、木々を折る。
「アニル!」
「ドゥラァアア!」
アニルは手首を旋回させ、剣を柔らかく動かすと、風をたぐりよせ、そして、大上段から体いっぱい使って剣を振り下ろした。
「っ、飛んだ!?」
一筋の激しく燃える赤い弧が剣から離れた。
刃に纏わりついていた炎が飛び出したんだ。
炎の弧は、向かってくる風の刃を貫いた。
グリフォンに命中。焦げ茶けた羽毛が燃え上がる。
「ピャアア! ピャアー! ピャアア!」
暴れるグリフォン。
「燃え尽きよ──」
アニルが顔の前で剣を立て、燃える刃を握りこんだ。
きっとさっきみたいに手のひらの血を吸わせているんだ。
瞬間、グリフォンを炎が包み込んだ。
どれだけ巨体が暴れても、炎が消えることはなかった。
やがて、巨大な身体が地に伏した。
丸くなって、動かなくなる。
アニルは剣を横に振り抜き、何かを唱える。
すると、火は幻のように霧散してしまった。
おいおい、アニル、お前なんてやつだよ。
あのバカでかいグリフォンを、やっつけちまうなんて。




