第12話 森の異変
おはようございます。
アニルです。
これ俺の勘違いだったら叱って欲しいんだけど、もしかしてだけど、アニーって俺のことわりと好意的に見てくれているのではないでしょうか。ちょっとそんな気がするほど、昨晩はすごく積極的で……嬉しかった。
すこし考えてみる必要があるだろう。
昨晩、アニーママに言われたこと。
俺はベイルボートから逃げたかっただけなのか。
それとも冒険者になりたかっただけなのか。
いずれが強いのか。
次第によっては、身の振り方は変わってもいい。そう思うんだ。だって、アニーが俺のこと好きで、その上で俺は別に冒険者をやりたかったわけじゃなかったらさ……ここで幸せに暮らせばよくね?
「冒険……アニー……幸せ……冒険……うーん」
朝、俺は考えごとをしながら、フルボルトを見て回った。
昨日は暗くなるまでウィテカーさんのところにいたので、ちゃんと村を歩けていなかったからだ。訪れた地がどんな場所であったのか、見て、感じ、歩いて、覚えておきたい。
『冒険者の心得その4。旅先ではお散歩をするべし! 思い出が出来るよ』
あの人もそう言っていたしね。
昼下がり。
バターとパンをかじる。
一通り歩いたあと、ウィテカーの家に立ち寄った。
彼は斧で、薪を割っている最中だった。
「おはようございます、ウィテカーさん」
「おう、アニルか。昨晩は楽しかったか?」
「げふんげふん。なんのことですか?」
「いや別に? ただ言ってみただけさ」
「そ、そうだ。傭兵やってたんですよね。」
「そうだが」
「街に出たとか」
「いかにも」
「どうやって行ったんですか?」
「うーん。冒険者だろ。薪割りを手伝ってくれたら報酬として教えてやる」
なるほどね。道理だな。
俺は斧を借りて、3本ほど薪を割って見せる。
「いいね。よし、じゃあ頼んだ」
1時間かけて、俺は庭の一角に積まれていた木を、ほど良い薪に割り終えた。
「ウィテカーさん、終わりましたよ」
「ああ、いいじゃないの。お疲れさん」
木杯で山羊のミルクを渡され、ありがたく喉を潤す。
「馬飼いのジャスパーってやつがいる。四つ向こうの畑にな」
「ああ、馬。ありましたね、厩舎」
「知ってんのか」
「さっき歩いてきたので」
「なるほど。まあ、そのジャスパーってやつに頼んでやるよ。あいつは隣の村まで人や物を運んでるんだ。たしか1週間もしないうちにまた行くとか言ってたかな」
「隣の村ですか」
「ホークっつう村だ。そこから、ミスト、ヴァーラー、ケルンって感じで、のぼっていくと、お望みの街アルバドンに辿り着ける。そこまでいけば、領都までの定期便がつかまるだろうさ。あとはお前の好きな通りに、どこへでもいけるぜ、冒険者」
勉強になるな。マジで。
知らないことばかりだ。
定期便なんてのが出てるのか。
「あの時はジャスパーも若かったし、俺のことを応援してくれてたから、アルバドンまで送ってくれたんだ。その時は、街への行き方なんて知らなかったから、手探りに進んだよ。村から村へ、人づてに聞き込みしてな。懐かしいぜ」
「教えてくれてありがとうございます」
「いいってことよ」
いろいろと見えてきた。旅の全容が。
未来に開かれた明るい道筋に、俺はワクワクしつつあった。
「はぁ、はあ、はあ!」
と、そこへ、肩で息をする男が、大慌てで走ってきた。大声で叫んでいる。
「うぃ、ウィテカー!!」
「ど、どうしたんだよ、そんなに慌てて」
俺とウィテカーは、そそくさと男へ駆け寄る。
「ば、化け物が、化け物がでやがった……!!」
興奮した様子の男は、滝のような汗を流しながらそう言った。
──しばらく後
フルボルトは緊張感に包まれていた。
どこへ行っても、村人は落ち着かない表情をしている。
夕暮れ前、俺はウィテカーとともにフルボルトの村長宅に足を運んでいた。
昼間、事件は起こった。
森に入った狩人衆3人は、怪物に襲われたのだ。
巨大な翼と鉤爪を備えた四足獣に。
生きて帰ってきたのは1人だけ。
2人は行方不明だ。
情報はまたたく間にフルボルトに広がった。
男たちは腕まくりして「仇をとってやる!」と息巻いている。
だが、ウィテカーが皆をいさめた。
そして、村長と協議した結果──俺は村長宅に呼ばれた。
「君が冒険者アニルかね。若いね」
「まあ。でも、実績はあります」
「うむ。アニーを狼たちから助けてくれたと聞いたよ。それに魔法使いということも。ウィテカーは君のことをえらく買っている。天才剣士だってね」
「まあまあまあ! 俺、実際天才剣士ですからね!」
ちょっとちょけてみる。アニルユーモア発動。
「むう」
反応が悪いです。視線が痛い。
言わなきゃよかった。
「げふんげふん。話というのは、俺に件の怪物を倒して欲しい、という旨のものでよろしいですか?」
「いかにも。生き残りから聞いたところ、かなり手強そうな怪物だ。フルボルトが怪物の脅威にさらされるのは、実に10年ぶりじゃて。あの時は7人も犠牲者が出た。たまたま、村を訪れていた冒険者に討伐してもらえなければ、被害はもっと広がっていただろう。頼るのが遅かったのだ。私はまだ冒険者というものをよく知らなかったし、頼るのを怖いと思っていたんだ」
村長は遠い目をして、深くため息をついた。
「今回は同じ過ちを繰り返したくはない。君は若いが、しかし、とても頼りになると皆々から聞いている。どうか頼む。これ以上、犠牲を出さないため、フルボルトがまた怪物に脅かされぬように、森へ入り、怪物を倒してくれるか?」
あの人は何度こういうのを語り聞かせてくれただろうか。あの人は旅のなかで、数多の怪物と対峙し、そのたびに己が語れる冒険譚を増やしたのだという。
俺もかくありたいと、そう願ってきた。
冒険者としての憧れのひとつ。
そう、怪物退治。
「もちろん、引き受けましょう」
俺はできるだけ厳かな口調で依頼を受領した。




