↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/12

ひいひいお爺ちゃんの消滅

「しかし、アーマンは戻ってこないな」

お義父さん(おとうさん)が言った。


「同時期に行った方々は皆、戻ってるって聞きました」


「あいつ、どこかで迷子にでもなっているのか?」

お義父さんは自分のしっぽを追いかけて、

くるくると回っている。


「そんな事あるのですか?お義父さんはどうでした」


「いや……、俺は気が付いたら、家にいたからな。この恰好で」


「そうですか。まさか生き延びたとか」


「まぁそれだったら英雄だろうな。戦争を終わらせたのだから」


「そうですね。でも戦争が終わったら、兵士はどうなるのですか?」


「兵士がどうなるかって?うん……、考えたこともなかったな」


「そうですよね。戦争が終わる事なんてあるのですか」


「どうなんだろう。俺は死んでるからあれだけど、皆は食い扶持がなくなるな」


「まぁ食い扶持がなくなったら、私もお義父さんみたいになるだけですけど」


「まぁそうだな。下らんことを考えた」


「本当に下らないですね」


「下らないとかいうな。わんわん」


「もうお義父さんったら、そんな時だけ、吠えるんですから」


「ははははは。そういえば、帰ってこなければ、遺族年金が増えるそうだぞ」


「えっ、そうなんですか」


「あぁ、たしかな。配給の肉が一切れ。それぞれの家族分増えたと思う」


「それはありがたいですね」


「まぁあいつが戻ってくる方が、いいだろうけどな」


「そうですね。やはり少し寂しいですものね」


「まぁな。しかし俺もいずれ消えるからな」


「たしか百年でしたっけ」


「そう。だいたい百年くらいで消える」


「あれどういう計算なのですか?死んでから百年?」


「いや違うと思うぞ。その人が生まれてから百年だと思う」


そんな話をしていると、

なんだか薄ぼんやりとした子犬が一匹入ってきた。


「どちらさんですか」


「あぁワシじゃ。アーマンのひい爺ちゃんだ」


「あら、ごぶさたしてます」


「ごぶさたです。お爺ちゃん」


「あぁお前も来ておったか。アーマンは戻ったか?」


「まだですね。ちょっと遅れているみたいです」


「あぁそうか。たまにあるな。あのな。ワシ、もうすぐ迎えが来そうなんじゃ」


「迎えって、身体が薄ぼんやりしていますものね」


「そうそう。これが完全に消えると、あっちの世界に行く」


「お爺ちゃん。まだ百年経たないんじゃないの?」


「百年?なんの話だ」


「消えるまでの期間だよ。百年じゃないの?」


「そんな話は初耳じゃ。

ワシはひい爺ちゃんくらいになると消えると聞いたぞ」


「うん。結構曖昧なのですか?」


「そうかもしれないな。

ちょっと待てよ。

じゃあアーマンは、すぐにあっちの世界に行ったのか?」


「そんな事ありえるんですか?」


「いや……、わからんが、そうかもしれないな」


「あの……、あっちの世界って、どんな所なんですか?

毎年死者の日に行ってるでしょ」


「あぁあれな。俺らはこの犬の姿で、人族というのかな。それに飼われるんだ。そうですよね。お爺ちゃん」


「あぁそうだな。とは言っても、ワシらはそれを外から見学するだけだけどな」


「誰かに飼われるって、どんな感じなのですか?」


「行先がどこかですごい違うんだ。あれは驚いた。ねぇお爺ちゃん」


「あぁ。

去年ワシが見たのは、大きな豪邸に住む飼い主に飼われる犬。

メイドというお世話係が、一日中ついて世話をしてくれる。高い肉だ」


「俺が去年見たのは、貧しい街の野良犬。

ゴミを漁っていると、子供に横取りされ、怒って吠えると、石を投げつけられた。

やせ細り、ふらふらだったよ」


「あら随分違うのですね。なぜそんな差が?何か試験でもあるのですか」


「どうだろうな。一緒に見学に行った者たちとも話したが、誰も知らない。お爺ちゃんは何か聞きました?」


「ワシも聞いてないな。しかしそんな事いうなよ。ワシ消える前だぞ。なんか怖いじゃないか」


「あらすみません。無神経でした」


「まぁ、お前らも同じ運命だろうからな」


「そうですね。そういえば、毎朝西の山に向かって遠吠えを三回すると、福の神から好かれるという話ありますね。あれしてたら、もしかして高い肉をくれる家にいけるのでは?」


「なに?福の神。それ詳しく」


「私も知りたいです」


「西の山に向かって遠吠えを三回するのですよ」


「西の山ってどこにある?」


「地名じゃないんですか?」


「お爺ちゃんも知らないのですか?」


「知らんよ」


「俺も吠えてみたいのですが、西の山というのが、どこにあるのか知らなくって」


「まずは西の山を探さないとですね」


「そうだな」


「あれ。お爺ちゃんかなり薄くなりましたよ」


「おっ。そ………」


「あれお爺ちゃん」


「あれ……、消えちゃいましたね」


「そうだな。西の山を知る前に……」


(ぐー)


「お義父さん。お腹空きました?」


「あぁ空いた」


「ネズミ肉ありますけど」


「珍しいな」


「彼がいた頃は毎日食べられたのですけどね」


「どうしたの?」


「ネズミ捕りの罠というのを買って」


「そんなの売ってるの?」


「はい。それが結構優秀で」


「それで獲ったの?」


「食べます?」


「うんうん。食べる」


「じゃあ用意しますね」


「うん待ってるよ」


しばらくして。


「あのお義父さん。

普通に食べますって聞きましたけど、お義父さん食べられないですよね」


「そうだね。でも食べていいよって言われたら、食べる事もできるのよ。

最近知った」


「なんですか。それ。はじめて聞きました」


「じゃあ、そのネズミを食べていいよって言ってみて」


「はい。お義父さん、ネズミをどうぞ」


「おぉありがとう」

お義父さんはネズミ肉に触れる……、

すると何も変わらない。

ただすり抜けるだけだ。


「何も変わらないですね」


「そうなんだよ。でも俺は満足感がある。あとな、味が変わってるぞ。食べてみ」


「そうなのですか?見た目は同じですけど、じゃあ食べてみますね」


(むぐむぐむぐ)


「たしかに、ネズミ肉の苦みが少しマシになって、味が薄くなってるんですね」


「そうなのよ。面白いだろ」


「私、この味のほうが好みかも。苦みも悪くはないんですけど、こっちのほうが洗練されているというか」


「あぁそう、それは良かった」


「これからも、食べる前に食べてもらって良いですか?」


「もちろん、満足感あるしね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。