Clothes イズ Burning
「シャギー君。
燃やしちまえばいいんじゃないか?」
「ターキー先生燃やすとは?」
「燃やすんだよ。Burningだよ」
「火で?」
「そう火で」
「販売店を燃やすの?」
「いやいや違う。売った服を燃やすの」
「それは、さすがに。人の服を燃やしたら、なんだろ。なんとか罪になりませんか?」
「いやいや。合法的に燃やさせるの」
「どうやって?」
「悪霊が取り憑いてるとか」
「それはさすがに無理でしょ」
「縁起は?」
「それは良いかもしれませんね。でも少し弱い」
「じゃあ、燃やすと運がよくなる」
「さすがに、それを信じる人はいないでしょ」
「それもそうか。じゃあ伝統は?」
「伝統?
服を燃やすのが……
あぁでも伝統に弱いですもんね」
「だろ。
伝統と言えば、すぐに抵抗が消えるんだよ。
私もそうだけど」
「私もです。
私も、毎朝西の山に向かって遠吠え三回は欠かしたことがありません」
「えっ、シャギー君。何それ?」
「ターキー先生知りませんか?あのシイタケ先生の西に遠吠え」
「知らない。どういう事?」
「なんか。
仕組みはよくわからないのですけど、毎朝西の山に向かって遠吠えを三回すると、福の神から好かれるらしいです」
「そうなの。
でもシャギー君。商売傾いてたわけだから、あんまり信憑性ないね」
「でもほら。
ターキー先生が手助けしてくれたじゃないですか。
福の神のお陰でターキー先生が救ってくれたのかもしれませんよ」
「まぁ、そうなるかも知れないね。えっ、その遠吠え三回は、どんな声でも良いの?
私の場合、ぐうー、がうがうなんだけど」
「別に、遠吠えの細かい作法までは、言ってませんでしたよ」
「あぁそう。じゃあ明日からやってみようかな。福の神。来るといいね」
「そうですね。そうそう伝統で服燃やすって、具体的にどうするのですか?」
「そうだね……、飯食う?」
「お腹空きました?」
「うん」
「何食べましょう」
「親子丼かな?」
「じゃあ出前取ります?」
「出前ならカツ丼がいいかな?」
「どうしたんですか?」
「刑事ドラマ見てね」
「取り調べの?」
「そうそう。なぁポルチニ君」
「はい先生なにか?」
「警察署の署長に電話して、取り調べの時に頼むカツ丼は、どこのレストランから取り寄せているのか聞いてくれ」
「はい。畏まりました。先生。理由を聞かれたら?」
「そうだな。犯罪者更生の為の資料作成の一環とでも、答えておけ」
「畏まりました」
しばらくして、
「先生。確認してまいりました。現在取調室で、提供されるカツ丼は、ワライダケ亭の物だそうです」
「あぁそうか。じゃあ、そこにカツ丼を二つ。いや君の分も含めて三つ注文してくれ」
「はい。それで補足なのですが」
「なんだ?」
「現在カツ丼を提供する場合、容疑者から料金を徴収するそうです」
「なぜだ?」
「先生ご記憶ないですか?」
「何のことだ?」
「五年前に、取調室で提供されるカツ丼が利益誘導にあたるとの最高裁の判決を経て、法が改正されたのを。先生も賛成票を投じられましたよ」
「あぁあったな。そうか。俺らが潰したのか」
「カツ丼。やめられます?」
「やめるわけないだろ。腹がぐぅぐぅ言っている。さっさと注文しろ」
「畏まりました」
三か月後ーーーー
(ぷぷぷぷーぷぷーぷぷぷー)
兵隊ラッパがけたたましく鳴る。
広場に三十人ほどの銀狼族のオス達が集っていた。
隊長は数を数えている。
「ひーふーみーよー。よし揃ったようだな」
「お前ら。交尾は済ませたか!」
隊長が言葉をかける。
「はい」
皆は姿勢を正し、元気に答える。
「子供の顔は見たか!」
「はい」
隊長からオス達に、
軍服と武器が手渡される。
オス達は、
着ていた服を脱ぎ、
軍服を身につける。
「服は回収する。貴重品などはないな」
「ありません」
「身に着けている物に私物はないな。私物があっても遺族には届けられないぞ」
「ありません」
「あの……」
どこかのオスが手をあげる。
「なんだ?」
「俺の着ていた服を子にやる事はできませんか?」
隊長は、
少し考える。
「お前らの着ていた服はな。
全部燃やされる。
これは伝統だ」
「俺は親父から服を貰いました」
そのオスは食い下がる。
「それがどうした。
軍の決定を乱し規律を崩すことより、その服が大事か?」
隊長の目は冷めたものだった。
「申し訳ございません」
オスは頭を下げた。
……
「なぁアーマン。メスとはどこで知り合った?」
デートはふらふらしながら言った。
「幼なじみなんだ」
「そっか。幼なじみって良い響きだ」
「デートは?」
「うん。交尾したのはした。ここにいるからな。
でも顔も姿も思い出せない」
「随分昔なのか?まだ若く見えるが」
「若いといっても、お前と五つも変わらないだろう」
「ここに来て何年だ?」
「三年までは覚えている。他はあんまり」
「最近の事は覚えているのか?」
「最近の事は覚えている。昔の事はあんまり……」
「お前だけか?」
「ここにいる連中、皆そうだ」
「忘れな草の影響じゃないのか?」
「あぁそうだ」
「忘れて寂しくないか?」
「忘れるんだから寂しくない。
あるモノがないと思うから寂しい。
存在を覚えていなければ寂しくなんかない」
「そうか。そうだな」
「そうだ。そうだ。皆忘れちゃえよ」
「それで良いのだろうか?」
「よく考えてみろ。お前も後でかじろうと思って骨を埋めることなんか、何回もあるだろ」
「そりゃもちろん」
「全部覚えているか?」
「忘れているだろうな」
「今死んでるか?」
「生きてるさ」
「そうだろ。骨を埋めたことを忘れても死ぬことはない」
「そうだな。死なないなら別にいいか」
「そうだ。
死なないなら別に良い。
それに死んだって、子犬になって村に戻るんだから、関係ない」
「そっか。しかしお前の子がいるだろう。思い出さないのか?」
「子供って言ったって、記憶がないんだよ。いるだろうという推測の中での想像だ」
「そっか。どんな気分だ」
「ふんわりと、ぼんやりと、空中に浮いた気分だ。たんぽぽの綿毛のように、どこへでも飛んでいけるような自由な感覚」




