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交配装置

「なぁ。

この刻みタクアン。

俺が金を払って食う分には腹がたつが、人に食わせる分には問題がないな」

ナメコ次長は笑った。


皆、追従して笑う。


「それで……、

この刻みタクアンで思いついたんだが、

やつらも刻みタクアンにしたらどうだ?」


「刻みタクアン……、

切り刻むのですか?

よしてください。

我ら人虎族は、人狼族を食いませんよ」

モレル課長は目を背けた。


「ミンチにしたら……」

パフ部長は呟く。


「おいおい。

そうじゃない。

そうじゃないよ。

君たちは文脈から意図を読むという能力が足りないようだ」

ナメコ次長は笑った。


「刻みタクアンから文脈を読み解けと?」

モレル課長は目を細める。


「ヒントをやろう!

刻みタクアンになる前は、見た目が悪いタクアンは、どうだった?」


「商品価値が低かった」

モレル課長は呟く。


「我らの問題はなんだ?」


「出生率」

モレル課長は答える。


「出生率はなぜ低くなった?」


「忘れな草の可能性が……」

モレル課長は答える。


「それもそうかも知れないが、結局あいつらに自由にさせてるからだ」

ナメコ次長は笑った。


「なるほど、つまり交尾に介入すると?」

モレル課長は呟く。


「そういう事だ」


「ちょっと待ってくれ、さすがにそれは問題があるだろう……」

パフ部長は立ち上がる。


「何が問題だ?」

ナメコ次長はニヤニヤと笑う。


「越権行為とか……」

パフ部長の語気は鈍い。


「一番の問題は我らの給料であり査定だ。

君らも住宅ローンがあるだろう。

パフ君、君のところの娘さん、私立に行くってね。

何かあった時に、支払っていけるのかね?」


「それは……」


「ナメコ次長には、なにか妙案があると?」

モレル課長はまっすぐ見る。


「あいつらは、つがいをどう選ぶのかね?」

ナメコ次長は尋ねる。


「我らと同じように、毛並みというか外観を見て、それから尻の匂いを嗅ぐのでは?」

パフ部長は答える。


「毛並みや外観なら、マスクは駄目だな。そうだ。オスメスで隔離しよう」


「隔離ですか。大義名分がいりますよ」

モレル課長はじっと見る。


「それなら簡単だ。共学を廃止し、寮住まいをさせる」

パフ部長は答える。


「大義名分のほうです」

モレル課長は、パフ部長を見る。


「大義名分って?」

パフ部長は不思議そうな顔をする。


「あのな。大義名分というのは、仕組みを入れる時に、もっともらしい理屈をこねる事だ」

ナメコ次長は、椅子にふんぞり返る。


「勉学に集中できないでどうですか?」

パフ部長は答える。


「それが良い。

あのなモレル君。

大学の教授の中から、この説を裏付けることができる者を探したまえ。

社から研究費を出す」

ナメコ次長はテーブルに膝をついた。


「はい。それは構いませんが、その後は?」


「一定年齢になれば、適当なペアを作り、同じ部屋に住ませる。

それで良いだろう」


「それでは反発がありますよ」

モレル課長は言った。


「いや……。

どうだろな?

毎年繁殖時期には、一割程度のオスが喧嘩で亡くなる。

人狼族にも人権派はいる。

喧嘩で亡くなるのは、人権侵害だとでも、言わせればいいのではないか?」

パフ部長は答えた。


「パフ君。それは良いね。

人権派は戦争にも反対するから、ちょっと警戒しないといけないが、恒例とは言え、亡くなるオスもいるのは事実。

自分が弱いと自覚しているオス共からは、賛同を得られるだろうな。

あと母親とな」


「そうですね。母親向けに広報を強めにしましょうか」

モレル課長はメモを取る。


「そうだな。そうしよう」


その後、

人狼族では、共学が廃止され、全寮制に移行することになった。

そして自由交尾制度が廃止され、国家による交尾統制が始まった。


……


百年前ーーーー


お金持ち国のある政治家の元に、後援会の会長が陳情に訪れていた。


「ターキー先生。今日は折り入って相談があります」


「シャギー君。どうした?私と君との仲じゃないか。遠慮なしに言ってくれ」


「実は我が社の経営が傾いておりまして、お力をお貸し頂けないかと」


「シャギー君のところは、たしか男性用の衣料品の会社だったよね」


「そうです。ですが人鶴族の衣料品に押されて……」


「人鶴族か……、あいつらの服の意匠が美しいんだよな。模倣すればいいんじゃないか?」


「それが技術的に追いつかないのですよ」


「そうなのか?」


「そうなのです。やつら、服に自分達の羽の一部を入れるそうで」


「そんな事をするのか。君らも同じように毛を入れたらどうだ?」


「人虎族の毛を入れても、希少価値は上がりませんよ。販売相手は人虎族なのですから」


「まぁそうだわな」


「なんとかなりませんか?」


「そうだ。お前のところの服。意匠はあんまりだが、丈夫なんだよな」


「そうですね。意匠はあんまりですが、丈夫ですって、ターキー先生ひどいですよ」


「ははは。

すまんすまん。

丈夫なら、人狼族に流せばどうだ?」


「輸出ですか……。

しかしあの国はずっと戦争していますし、贅沢品は買えないのでは?」


「一応粗末ながらも服は着ているし、その服の業者も零細企業ばかりだ。数も供給できない。ただそんなに粗利は取れないぞ」


「なるほど。原材料費を安くしたら、いけるかもしれませんね」


「あぁ、そうか。じゃあ輸出は俺に任せておけ。ところで選挙が来年だ。頼めるか?」


「えぇもちろん。利益さえ出れば、先生にちゃんと戻します」


「そうか。そうか。それは良かった」


それから、

しばらくシャギーの会社の衣料品は売れ続けた。


しかし長くは続かなかった。


「ターキー先生。困りました」


「今度はどうした?」


「お陰様で、服は売れたのですが、後が続かないのです?」


「なぜ?」


「丈夫だからです」


「丈夫だと評判がいいだろう?」


「評判はいいのです。ですが丈夫だから、次に買ってもらえないのです」


「つまりずっと着るからか?」


「はい。多少穴が空いても、補修します」


「そうか……、それは予想外だったな」


「どうにか、捨てさせる事はできませんか?」


「捨てさせる?あいつらの国は貧乏だからな」


「そこを何とか」


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