忘れな草
三刻ほどが過ぎ、
辺りはすっかり暗くなってきた。
オス達はねぐらに戻り、獲物を出す。
「アーマンはネズミばっかりだな」
デートは言った。
「悪いかよ」
俺は目を逸らす。
「いや逆だ。ここの連中はネズミを獲るのが苦手だ」
「そうなのか?」
「あぁ」
他のオス達も頷く。
「デートは何を獲った?」
「俺は蛇だな。あとトカゲとか、こういうのを狩るのが得意なんだ」
「俺らは猪」
端にいた金狼族の三人は手を上げる。
「じゃあ、獲物を分配しよう」
長老は言った。
短剣で、
獲物たちはバラされていく。
「うひょう。
ひさしぶりだなネズミ肉。
どれくらいぶりだ。
独特の苦さが良いんだよな」
そんな声が聞こえる。
「皆得意な獲物が微妙に違うからな。今回のネズミ肉のように、新しいものが獲れる仲間が増えると、嬉しいんだ」
デートは笑った。
俺はネズミしか狩れないと思っていたが、ここではそれが希少で、そのことが少し誇らしかった。
獲物たちは、それぞれに分けられた。
「では食うぞ」
長老が言った。
「おぉ」
叫び声が上がり、
皆生肉に食いつく。
猪、ネズミ、カエル、鳥、蛇、兎、いろんな肉がある。
それぞれ味が違う。
コリコリしているもの。
苦みがあるもの。
生臭いもの。
淡白なもの。
そして煙と共に甘い香りがしてきた。
「この甘い煙は?」
俺はデートを見た。
「これが忘れな草だ」
デートはうっとりとした表情をしている。
とても幸せそうだ。
俺も心なしか、幸せな気分になってきた。
ふと見ると、長老が髪に花を刺している。
おかしな心持ちになって、
「おい見ろよ。長老が髪に花を刺している」
とデートの方を見た。
デートも花を持ち、
自分の頭に刺そうとしている。
しかしなかなか刺さらない。
何度も落としては拾うのを繰り返している。
「花を刺したいのか?」
俺は尋ねる。
「あぁ。でも刺さらないんだ。いままで刺さったことがない」
デートはうっとりとした表情をしている。
「俺がやってみよう」
俺はデートから花を受け取り、
髪に刺してみた。
すると綺麗に刺さった。
「刺さったよ」
「おぉ。
刺さった、刺さった。
どうだ!
長老みたいになってるか?」
フラフラしながら、俺を見る。
「あぁ刺さっているよ」
俺は笑った。
「俺らも頼む」
猪の三人組が俺に花を渡す。
「あぁやってみる」
俺は三人組の花も刺してやった。
「俺も長老みたいになったか?」
「お前はなっている。お前も。俺は?」
「お前もなってるぞ」
三人組はやけに嬉しそうだ。
それから皆が、
花を刺せと、俺のところに押し寄せた。
長老は、皆に花を刺す俺を見て、
ケタケタと嬉しそうに笑った。
……
ちょうどその頃、
お金持ち国のある会社では、緊急会議が開かれていた。
「金狼族と銀狼族の出生率が下がっています。
このままですと、戦争の縮小に繋がってしまいます」
モレル課長は言った。
「モレル君。理由はわかっておるのかね」
ナメコ次長は尋ねた。
「理由は定かではありませんが、忘れな草が若者の間で流行っているらしく、それが交尾率の低下につながっているのではと」
「忘れな草?あれはうちの国が独占で栽培しているのではなかったのかね」
パフ部長は目を細める。
「なぜかはわかりません。ただ忘れな草が自生しており、それを使う若者がいるというのは事実です」
「しかし、モレル君。それが交尾率の低下に繋がっている根拠はあるのかね?」
ナメコ次長は尋ねた。
「この中に忘れな草を試された方はいらっしゃいますか?」
モレル課長は言った。
「君ね。一応あれは表向き医療用途だけだよ」
パフ部長は笑った。
「失礼しました。忘れな草を使った者の話によると、どうもしたいという気が起きぬらしいのです」
モレル課長は目を伏せた。
「したい?ハッキリと言いたまえ」
ナメコ次長は笑った。
「あの、その……、交尾をです」
「君、恥ずかしがるポイントがわからんのだよ。先ほども、交尾をと言ってたじゃないか」
ナメコ次長は吹きだしている。
「急に恥ずかしくなったのですよ」
「ナメコ次長。それよりも、これ、問題は根深いですよ。ヘタをすると我々の首が飛ぶかもしれない」
パフ部長は言った。
「パフ部長は何か策があるのか?」
ナメコ次長は尋ねた。
「親子丼」
パフ部長は呟いた。
「親子丼?それはなにかの薬剤かなにかですか?」
モレル課長は目を細めた。
会議室の空気が静まり返る。
「いえ。もうお昼なので、今日は親子丼にしようかと」
パフ部長は言った。
再び、
会議室の空気が静まり返る。
ナメコ次長は手を上げる。
続いて、
皆も同じように手を上げる。
「わかりました。今日は出前を取りましょう」
モレル課長は立ち上がり、会議室をあとにした。
半刻ほどして、親子丼が届けられた。
その親子丼を見て、
ナメコ次長が血相を変えて、
怒り出した。
「この親子丼を作った責任者を出せ」
「ナメコ次長。どうされたんですか?」
モレル課長は心配そうに尋ねる。
「どうしたもこうしたもあるものか。見てみろ。タクワンだ」
ナメコ次長は親子丼を指さす。
「ちゃんとタクワン入っているじゃないですか?」
「違う形だ。これは刻みだろ」
「はい。刻みタクワンです。それがなにか?」
「それが何かじゃないだろう。これがコスト圧縮だとなぜ気が付かない」
「どういう意味ですか?」
「いいか。
刻みタクワンだと、タクワンの見た目がわからない。
だからな、質の悪いタクワンを使ってても、客にバレないんだ。
つまりこれはコスト圧縮だ。
俺らは損させられているんだよ」
「そんな、食えば一緒じゃないですか?」
「そうだよ、食えば一緒だ。でもな。これが許せるか」
ナメコ次長は叫ぶ。
「ナメコ次長。会議の時の食事は会社持ちですよ」
パフ部長は言った。
「そうなのか?」
ナメコ次長は冷静さを取り戻す。
「はい。会議費で落とせますから」
モレル課長は頷いた。
「それなら良い。怒ったのは、あれだ。君らが怒らないからだ。会社持ちなら別に構わない。冷める前に食おう」
ナメコ次長は親子丼を食い始めた。




