乾いた戦場
「では行くぞ!」
「はい」
俺達は故郷を離れる。
途中で色んな村の連中と合流し、
部隊はどんどん増えていく。
「隊長殿。戦場はどの辺りでしょうか?」
誰かが叫んだ。
「向こうだ」
そう答えた。
俺がまっすぐに進んでいる方角。
まっすぐな一本道をただひたすら進んでいく。
一月ほど野営をくり返し、大きな山脈の前に来た。
「よし。ここが戦場だ」
隊長は言った。
しかし、
そこは大きな山脈が立ちはだかり、
敵の気配も、
戦場の気配もない。
無論、
そんな経験などないのだが、
なんとなくそんな気がしたのだ。
俺だけじゃないのか。
オス達は動揺していた。
「隊長殿。どこが戦場なのですか?」
どこかのオスが声をあげる。
「おい清掃兵!」
隊長が叫ぶ。
十名の大きな鎌を持ったオスが、
オス達の前に立つ。
皆が動揺する。
「かかれ!」
「はっ」
鎌を持ったオス達は、後ろを振り返り、そこにある藪を払っていく。
(わしゃん、わしゃん、わしゃん)
藪は空を飛び、道を作り出していく。
一刻ほど時間がたち、
石畳の道があらわになった。
道は山脈の中に続いていく。
「行くぞ」
石畳を歩いていく。
(かぁかぁかぁ)
烏の鳴き声が聞こえる。
(かぁかぁかぁ)
(かぁかぁかぁ)
(かぁかぁかぁ)
(かぁかぁかぁ)
(かぁかぁかぁ)
烏の数が増えているのか。
進むたびに、
鳴き声が増えていく。
中にはガタガタ震えるオスもいた。
しかし、
ただ前を進んでいく。
後ろがつかえるから、
前に進むしかない。
「デスマーチ」
誰かがそう呟いた。
意味はわからない。
別に気にもならなかった。
(はぅー)
誰かの雄叫びが聞こえる。
(はぅー)
別の誰かが呼応する。
(はぅー)
(はぅー)
(はぅー)
(はぅー)
その雄叫びは、
いつしか烏の鳴き声を圧倒していた。
数刻ほど歩き、
大きな原に出た。
大きな石がゴロゴロとした荒野。
そこには、
人狼の骨だけが散乱していた。
「おかしいな。人狼族の骨はあるのに、服とか武器とかは見当たらない」
誰かが言った。
「皆静粛に……」
隊長が声を張り上げる。
「ここが戦場だ。
お前たちはここで戦ってもらう。
相手はあいつら銀狼族だ」
隊長が指した方向には、
姿形は俺らと変わらない、
ただ毛の色だけが違う人狼達がいた。
銀狼族。
初めて聞いた名だ。
「隊長。銀狼族とは何者ですか?」
「詳しい事はわからん。ただ我々金狼族の敵だ」
我々金狼族?
金狼族という呼び方自体初めて聞いた。
「では俺たち隊長と、清掃兵は次の戦争の為に戻る」
隊長はそう言い去ろうとした。
「ちょっと待ってください。いつまで戦えば良いのですか?」
誰かが叫ぶ。
「そうだ。そうだ。いつまでだ」
同調する声が出る。
「戦争が終わるまでだ」
そう隊長は言い、手を上げ、去った。
意味がわからない。
説明も何もない。
これで戦えと。
俺は思った。
「あの銀狼族っていうのが、敵なんだな。よし懲らしめてやろう」
先ほどまでガタガタ震えてたオスが言った。
「そうだ。銀狼族が悪いんだ」
「そうだ悪いに決まってる」
「よし血祭りにあげて、金狼族が優秀なのを見せつけよう」
「そうだ」
「そうだ」
士気が高まっていく。
(はぅー)
誰かの雄叫びが聞こえる。
(はぅー)
別の誰かが呼応する。
(はぅー)
(はぅー)
(はぅー)
(はぅー)
銀狼族からも雄叫びが聞こえる。
(はぅー)
(はぅー)
(はぅー)
(はぅー)
(はぅー)
銀狼族の一人が、
突然俺たちに襲いかかってきた。
(ぷしゅー)
血が飛び散る。
(はぅー)
「金狼族の仲間がやられた!復讐だ!」
誰かの声がする。
(ごつん)
頭に衝撃が加わり、
景色が遠くなっていく。
あぁ俺はやられたのか……。
……
遠くで、
烏の鳴き声が聞こえる。
(かぁかぁかぁ)
(かぁかぁかぁ)
(かぁかぁかぁ)
意識がぼんやりとしている。
あれ。
俺は死んだのでは。
手を見る。
血まみれだ。
辺りを見渡しても、一面血まみれだ。
隣に寝ている金狼族のオスを揺さぶる。
動かない。
こっちは。
こっちは。
俺は辺りの金狼族に声をかけるが、
皆動かなかった。
俺は近くの小高い丘に登る。
生存者がいないか確認するためだ。
しかし、
まったく生存者はいない。
そして、
来た道もわからなくなった。
戦争は終わったようなのに、
帰る事はできない。
そんな気がした。
めまいがして、
その場に倒れ込み、
そしてまた、
意識を失った。
どのくらい時間が経ったのだろう。
俺は再び目を覚ました。
しかし、
子犬の姿にはなっていない。
それに、
剣が持てる。
腹も空く。
そして強烈な死の臭い。
生きている事を知った。
「生き残ったのか」
俺は呟いた。
狩りに勝ったわけでもない。
ただ気を失っていただけ。
それで俺は生き残った。
英雄。
そんな言葉が出てきた。
しかし、
英雄とは、
多くの者を倒した者ではないのか。
俺は誰も倒していない。
そしてこの戦場を見ている者はいない。
俺が一人帰還したとしたら、
好きな事を言える。
それは英雄ではないのか。
そんな風に思った。
ふと気が付くと、
多くのカラスやネズミ達が、
兵士達を突いている。
そして半数近くは、
肉もまばらになっていた。
「そうなるわな」
そう思った。
そこには服もあり、剣などの装備もあった。
ちょっと待てよ。
やはり服や剣は自動的には消えない。
あの剣や服などは誰かが回収したのか?
俺はそう思った。
だとしたら、
帰り道がわからない事だし、
回収する誰かについて行こう。
それが軍の人間なら、
俺は英雄として帰還することになる。
それなら、戦争を終わらせた者として、評価される?
うん……。
評価されるのか?
俺の仕事はどうなる?
妻の家系も兵士だ。
俺は自分の存在が、
世界にとって邪魔なのではないかと感じ始めた。
しかし、
そんな事を言っても、
結果を見てみなくてはわからない。
俺はネズミを狩り、
しばらくここで野営することにした。
よかった。
俺はネズミの狩りが得意な事を始めて、
誇らしげに思った。




