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多量消費する世界

石造りの粗末な家屋の中で、人狼の赤子の鳴き声が響く。


「あなた。産まれたわ。五頭よ」

妻はそう言った。


「そうか。内訳は?」

俺は尋ねる。


「オスが三頭、メスが二頭よ」


「そうか。息子と娘の顔を見せてくれ」


「はい」


俺はこの手に赤子達を抱いた。


「はじめまして。

俺がお前らの父親だ。

そしてさらばだ。

子たちよ」

俺は別れを告げる。


「出るのは明日なのでしょ」


「あぁ。子供達を頼んだぞ」


「もちろんよ。あなたとも、これでお別れね」


「そうだな。俺としては、もう少しお前といたかったが」


「なに言ってるのよ。あなたは兵士なんだから、仕事に行かなくちゃ」


「わかってはいるんだが、もう生きては戻れないんだ」


「そんな当たり前の事言って、どうしちゃったの?

腐った肉でも食ったんじゃない」


「お前に黙って食うかよ」


「そうよね。あなたオスのくせに、変に律儀だものね」


「そうか?」


「そうよ。あなた、覚えてる? あなたのプロポーズの言葉」


「忘れたよ」


「俺はメスにちゃんと分け前を与えるオスだよ」


「恰好つけすぎだな」


「私笑っちゃった。他のオスより弱いのに。でもあなたに決めたの」


「ありがとうな。こんな弱っちい俺なんかの子供を産んでくれて」


「うんうん。

良いの。

私の父さんも弱かったし。

それに子供はあなたが育てるわけじゃないわ。

国が育ててくれる」


「そうだな。だから安心して戦場に行ける」


「あなた。お腹空いてない」


「少し空いたな」


「庭の穴にネズミが埋めてあるわ」


「お前も食べるか?」


「私はさっき胎盤を食ったから、お腹いっぱい」


「そうか、でも体力使っただろ」


「大丈夫よ。出産前にずいぶん太ったもの。あなたがネズミを、ずいぶんつかまえてくれたじゃない」


「すまないな。猪みたいな大物じゃなくって」


「なに言ってるのよ。猪なんか狙ったら、怪我しちゃうわ。怪我したら戦争にいけないじゃない」


「そうだな」


「そうよ。あなたが兵士じゃなければ、別だけどね」


「俺の家は、親父も爺ちゃんも、ひい爺ちゃんも兵士だったからな」


「私のところもよ。戦争がなければ、私達は仕事がないわ」


「そうだな」


子供達はスヤスヤと眠っている。


俺も横になることにした。

横になっていると、

親父が足元で、

うろうろしている。


「どうした親父」


「お前、明日から戦場だろ」

親父は舌を出しながら、じっと俺を見る。


「そうだよ。そういえば戦場ってどんな所だ?」

俺はしゃがみ込み、

親父と視線をあわせる。


「覚えていないんだよ」


「爺ちゃんも、ひい爺ちゃんも、覚えてないんだよね」


「ワシらだけじゃない。戦争に行った連中はみんなだ」


「そっか。気にならないのか?」


「昔は多少気になったが、わからないものは仕方あるまい」


「なぁ……俺も、戦争で死んだら、親父みたいになるのかな」


「なんだ不服か?腹は減らないし、狩りもしなくて良い。楽だぞ」


「逆に言うと、飯も食えないし、狩りもできないんだぞ。

本能的に狩りたくならないのか?」


「狩りたくならないか?そういえば、そういう気持ちはなくなったな」


「どういう感じなんだ。ほらメスとか見て、交尾したいという気持ちはなくなるのか?」


「そうだな。

まったくないな。

戦争に行く前、ほらお前を産む前は、あちこち興味があったが、今は全然ないな。

それに交尾なんて、物に触れることができないのに、交尾のしようがないだろ」


「ニオイとかも感じないの?」


「あぁニオイも感じないな。

そんなの。

あと何日かしたら、お前もこうなってるんだから」


「そうだけどさ。気になるんだよ。そういえば爺ちゃんと、ひい爺ちゃんは?」


「隣村の別の孫のところに遊びに行ってるよ。あいつらも明日出兵だからな」


「時期が被っちゃったのか。一応親戚になるんだろうけど、顔も見たことないな」


「そりゃそうだ。俺だって知らない親戚なんか山ほどいるわ」


「まぁ父さんがいるから、妻も寂しくないだろう。父さん、妻を頼むよ」


「だからな。

お前、頼むよって、死んだらこっち来るんだろ。

どっか他に交尾したメスでもいるのか?」


「いないって。でも俺も父さんみたいに子犬みたいな形になって、戻ってくるのかな?」


「そうだよ。

あぁ父さんが、戦争で亡くなって家に戻ってきた時の、お前の母さんの顔、いまでも忘れない」


「どんな顔だった」


「目を細めてな。

子犬を見るような目だった。

まぁ実際子犬なんだけどな。

おかえりなさいって、

でもな。抱きしめられなくてな。

少し寂しそうな顔をしていた。

父さん、母さんのお尻のニオイを嗅ぎたくてな。

嗅いだんだけど、匂いがしなくてな。

それで、あぁ死んだんだなって思った」


「そうか。じゃあ、もう寝る」


「じゃあ俺は森を散歩してくるわ」

と父さんは外に出て行った。


狩りもしないのに、

何が楽しいんだろう。

俺はそう思いながら藁のベッドの上で寝た。


明日からは、

こんな良いベッドでは寝る事はできないのだろう。

なぜだかそう思った。


(ぷぷぷぷーぷぷーぷぷぷー)

兵隊ラッパがけたたましく鳴る。


広場に三十人ほどの同世代のオス達が集っていた。

俺もその中に加わる。


隊長は数を数えている。

「ひーふーみーよー。よし揃ったようだな」


「お前ら。交尾は済ませたか!」

隊長が言葉をかける。


「はい」

皆は姿勢を正し、元気に答える。


「子供の顔は見たか!」


「はい」


隊長からオス達に、

軍服と武器が手渡される。

オス達は、

着ていた服を脱ぎ、

軍服を身につける。


「服は回収する。貴重品などはないな」


「ありません」


「身に着けている物に私物はないな。私物があっても遺族には届けられないぞ」


「ありません」


「あの……」

どこかのオスが手をあげる。


「なんだ?」


「俺の着ていた服を子にやる事はできませんか?」


隊長は、

少し考える。


「お前らの着ていた服はな。

全部燃やされる。

これは伝統だ。

お前らも親父から服を貰ってないだろう」


「しかし。これまだキレイだし」

そのオスは食い下がる。


「あぁそうだな。キレイだな。

それがどうした。

伝統を崩し、文化を崩すことより、その服が大事か?」

隊長の目は淡々としていた。


「申し訳ございません」

オスは頭を下げた。


もし「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、

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本作はすべて完結済みで、安心して最後まで読めます。


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