人猫族 NyAnKus iS NOt DeaD
人狼賭博公社発足から70年が経過したころーーーー
人猫族の音楽シーンでは、大きな動きがあった。
それは猫耳族と言われる人猫族の一派が、
人猫族のアイデンティティを商業主義化したことへの反発だった。
そして生まれたのが『NynKus』
単純なリフを繰り返す暴力的、
破壊的な音楽は、
保守的だった人猫族の大人達を戦慄させた。
もともと人猫族は狩りを生業にしていたが、
他国で開発されたネズミの罠が広がった事により、
ネズミの数が激減。
その穴を埋めようと20年ほど前に、
人族をターゲットとしたビジネスが始まった。
それが猫耳族。
人族の多く集まる繁華街などで、
喫茶店などを開き、
そこで猫耳族のオスやメスを働かせる。
猫耳族は複雑な人族の性的嗜好にはまり、
瞬く間に広がった。
「なにがご主人様だニャアだ。お前ら普段語尾にニャアつけねぇだろ」
「売上追っかけてんじゃねぇぞ。ネズミを追っかけろ」
「かつおぶしはそのまま食え。みみっちく削るんじゃねぇ」
「タマネギなんかはクソくらえ」
「チョコレートなんかの夢もみない」
「ネコまんまの味付けは濃すぎるんだよ」
「ねこなで声なんて、もう出せねぇ」
「またたび食って、ハイになろうぜ!」
「もう猫じゃらしなんか飽きたんだよ」
NynKusの曲には、
そんな言葉が溢れた。
「いいか。
毛並みはふんわりさせるんじゃない。
わざと濡らして、いかつさを出すんだ」
NynKusのバンド達はファンにそう言った。
NynKusのファン層は、
ネズミ捕りのヘタな若者が多かった。
収入も安定せず、
ファッションにかける金もなかった。
そこで生まれたのがDIY嗜好。
捨てられた古着に、
別の服から取ってきた布をあて、
下手くそに縫う。
安全ピンで穴を取り繕う。
そして、
どこからともなく流れてきた、
人狼賭博公社の首輪が、
NynKusファッションの象徴として活用された。
「俺らは犬のように世間に囚われている」
NynKusはそう叫んだ。
そして数年後ーーーー
人族のコンサートホールでは、
NynKusのギグが盛んに開催されていた。
NynKus達がいくら叫んでも、
人族は、
「萌える」
「ツンなところが最高」
「もっと貶して」
そう言った。
そして、
NynKus達も商業主義化してしまった。
五年も経つと、
NyAnKusは人猫族の間ではポップスに近い扱いになった。
「NyAnKus iS NOt DeaD」
そう叫んだ者達がいた。
そして、
そのTシャツさえも、
人族の間でブームになった。
たしかに、
NyAnKusは死んではいない。
商業主義の中で生き延びた。
だから間違いではない。
しかし、
「NyAnKus iS NOt DeaD」
のTシャツを着る人猫族の若者はいなくなった。
代わりに
そのTシャツを着る人猫族の老人の姿が目についた。
「これ孫のおさがりでな。ほれカッコいいだろう。反体制だ」
そう言って、老人はしわくちゃの顔で笑った。
……
NynKusが発祥してから、20年が過ぎた。
人族の中古市場からNynKusの曲を見つけ、
あるカフェのオーナーが店の音楽としてかけ出した。
金狼族のネズミ肉の店アーマンから派生した。
『ネズミカフェ アーマン is Not DeaD』だ。
「アーマンさん。
なんすか?
この曲、めっちゃニャアニャア叫んでますね」
「あぁ良いだろう。この魂の叫びがいいんだよな」
「これジャケットっすか。なんすか、この首輪?」
「なんか良くわからないが、NynKusのトレードマークなんだって」
「へぇ。なんかカッコいいっすね。どこで買えるんだろう?」
「そうだな。人族が人猫族の国にいけば、買えるんじゃないかな」
「この首輪と、NynKusの曲。店で売ってみたらどうですか?俺欲しいっすよ」
「そう。お前の友達とかも買いそう?」
「たぶん、こういうノリ格好いいなって思う奴多いと思いますよ」
アーマンは、
それを聞きNynKusの曲や首輪を探しまくり店に並べた。
店は金狼族の縄張り全土にあったので、
若者を中心に売れまくり、NynKusはブームになった。
ブームを知った人猫族は、
在庫のNynKusの曲や首輪をアーマンの所に持ち込んだ。
そして更にブームに拍車をかけた。
『ネズミカフェ アーマン is Not DeaD』
は文化の発信拠点と言われるまでに成長した。
……
ブームから一年ほど経った頃ーーーー
「ラフィン理事長。少し問題が発生しました」
秘書は言った。
「なんだ?」
「実は人狼賭博公社の首輪が、金狼族の若者のファッションとして使われているようなのです」
「なに。どういう事だ」
秘書は事情を説明した。
「つまり……、ネズミカフェ アーマンという店が、それを広げておるんだな」
「はい」
「じゃあ、捻りつぶせ」
「可能ではありますが、さすがに無理が出ます」
「それもそうだな」
「しかし、マズいですね」
「あぁ。あの首輪が賭博の認識票だと知られれば、さすがに」
「どうしましょう」
「そうだな。店にあるものを片っ端から買え」
「あの音楽もですか?」
「そうだろう。その首輪が載っているのだから」
「しかし、結構コストがかかりますよ」
「あのな。
発足当時だったらまだしも、人狼賭博公社の売上はGDP比3%。止めれるわけがないだろう」
「わかりました。しかしどういう名目で?」
「広告宣伝費という事で処理しろ」
「少し無理があります」
「では広告会社という事で、その首輪などを買い占める会社を作れ。
そしてそこに広告の相談をしているコンサルタント料として支払え」
「なるほど、わかりました」
「信頼できるものを頭にしろ」
「もちろん」
……
広告会社の名前は308と名づけられた。
308はアーマンの店を定期的に周り、
品物があれば、スグに買い占めた。
そして、
人猫族の国や人族の国にも職員を派遣し、
品物を買い集めさせた。




