人狼賭博
誰の既得権益も奪わないのが重要
それを聞いてから三年間考え続けた。
そして久しぶりのおじい様と食事。
「マナーがだいぶマシになってきたな」
おじい様はちらりと俺を見た。
「ありがとうございます」
「マナーはなぜあるか。覚えているか?」
「余計な敵を作らぬためです」
「そうだ。政治家にとって、余計な敵を作らぬことは一つの特技とも言える」
「そうですね」
「政治闘争においてコツをお伺いした時。誰の既得権益も奪わない事を考えるとおっしゃいました」
「そんな事言ったか。その時のワシはさえてるな」
おじい様は笑った。
「俺は三年間。考え続けました。誰の既得権益も奪わない施策を」
「なにか思いついたのか?」
「はい」
「話を聞いても?」
「ぜひ」
「では言ってみろ」
「我が国では、金狼族と銀狼族に武器の支援などを行い、武器売買などにつなげております」
「食料の供給などもな」
「はい。いうなれば、人狼大戦が我が国の収益の要とも言えます」
「要というのは言いすぎだ。たかだか5%程度にしか過ぎない」
「ずいぶん下がったのですね」
「他の産業が強くなってきたからな。いいぞ。続けてくれ」
「はい。この金狼族と銀狼族の争いは、永遠に決着がつかない仕組みになっています。これは正しい認識ですか?」
「まぁ政治のタブーだがな」
「このまま金狼族と銀狼族の争いを続けても、新たな利益は創造できません」
「しかしやめれば利益は失われるし、かの国も生活ができなくなる。結局奪い合いだ」
「もちろん争いをやめるわけではありません。争いを別の収益源にするのです」
「別の収益源?」
「はい。金狼族と銀狼族の争いを賭博にするのです」
「さしずめ人狼賭博」
「その通りです」
「つまり競馬のような感じで、誰が勝利するか決めるのだな?」
「はい」
「面白いな。
しかし……、
いくつか問題がありそうだな」
「どのような?」
「反対派はおるまい」
「そうですか?人権派とかは?」
「この案が通らないと、財政緊縮に動かざるを得ない。そうなると……、と言えば黙るよ」
「そうですか。では問題とは?」
「そうだな。どこかが勝利したとなると、戦争は終わるのではないか、となるのでは?」
「たしかに」
「しかし面白い案だ。誰も損はしない」
「あの……、逆に誰が一番初めに殺されるか。
それを決める賭博というのは?」
「なるほど、それは面白い。
それなら最後まで戦場を見せなくて済むからな」
「単勝、複式、複勝という風に、競馬と同じ仕組みにすれば良いのでは?」
「それは盛り上がるな」
「あとは、この賭博は一般公開はしません」
「なんと。それはなぜ?」
「賭ける者は結果を知るだけ。そして賭け金とは別に視聴料を払ったもののみ、リアルタイムで状況を見れる」
「なるほど。それは良いかもしれんな」
「広報も全国ではなく、賭博好きの集まるセクションのみでします」
「そうか。批判も来にくい」
「どうでしょう。総理」
「お前に総理と言われると、なんだかくすぐったいが悪くない」
「ありがとうございます」
「これお前が政治家になるまで温存しておくか?」
「いえ。総理がご利用されればと」
「ワシがか……、そうだな。やってみよう」
「はい」
「公社を作り、そこのポストを用意する。そこで腕を振るえ」
「はい」
……
人狼賭博公社は、
ほとんど何の抵抗もなく出来上がった。
俺は副理事長として任にあたる。
理事長は与党の幹部の元秘書に決まった。
その理由は、
実務経験の豊富さだった。
つまり俺はアイデア担当、理事長は実務担当だ。
ただ実際に稼働するにあたって、問題が発生した。
「副理事長。困ったことが起きた」
「どうしたのですか?理事長」
「実はな。その兵士を認識する方法がないのだよ」
「兵士を認識する方法?」
「あぁ競馬なら騎手の服の色や馬の馬具の色で識別できる。
しかし人狼は同じ装備を使っている」
「両軍ともですか?」
「あぁそうだ」
「敵味方の判別もできないのでは?」
「それは金色の毛。銀色の毛で識別しているようだ」
「なるほど。困りましたね」
「あぁ一大事だ」
「兵士がつける識別票などがあれば」
「それはそうだが……、誰が初めに殺されたかはわからない」
「そっか」
「安否確認、生命信号を送るような装置はないのですか?」
「あるな。たしかにある。少し調べてみよう」
それから暫く経ちーーーー
「副理事長。あったよ」
「それを着ければ?」
「ただ形が首輪型なのだよ」
「それが何か?」
「人狼族は死ぬと霊体になり、家族の元に戻るだろ」
「そのようですね。
我々は死ねば、家族の元に戻ることはありませんから、ずいぶん奇妙な種族だなと思っていたのです」
「その家族の元に戻ってから、次に亡くなることがあるのだよ」
「次に亡くなる?」
「わかりにくいね。つまり消滅して輪廻に向かうのだ」
「その点は我々と同じですね。我々も生まれ変わりがあると信じられていますから」
「その次の転生先が人族のペットの犬なのだよ。その犬が首輪を着けている」
「理事長はそれが原因で反抗するのではとお思いなのですか?」
「あぁそうだ」
「では識別番号が書かれており、それを元に遺族年金が支払われるとすれば?」
「戦争に行く時に、誰が行ったかわかるだろうと反発が来るかもしれない」
「脱走兵がたまに出るのでと答えれば?」
「それは確かに……、しかし首輪のイメージが」
「人狼族はたしか虱が苦手でしたよね」
「あぁ」
「虱除けの魔法がかかっていると言えば?」
「そんな魔法が?」
「いえありませんが、ハーブか何かの精油をつければ、効果があるでしょう」
「しかし、そんなモノを出せば、民間でも販売してくれとなるのでは?」
「まずは兵士だけ特別待遇でと言えば、文句はないでしょう」
「たしかにな。さすが総理のお孫さんだ」
「ありがとうございます」




