吸血
308が買い締める事で、
NynKusの曲や首輪は市場に出回らなくなった。
しかし、
市場に出回らなくなった事で、
NynKusの曲や首輪の価値は高くなってしまった。
そして308が買い取る料金も次第に大きくなった。
これが、後にNynKusバブルと呼ばれる経済事件の始まりだった。
NynKusバブルは、金狼族の国、人猫族の国、人族の国において、当時ブームが過ぎた
NynKusの関連グッズの価格が異常に高騰し、突然に下落した期間を指す。
NynKusバブルのピーク時には、NynKusのレコード1枚が、熟練した狩人の年収の5倍以上の価格で取引されるレコードも複数存在した。
ある時には、メジャーデビューしなかったNynKusバンドのレコード1枚と、村一つの土地との交換が申し出られたという記録がある。
……
「ラフィン理事長。困ったことが起きました」
秘書は言った。
「NynKusバブルだな」
「はい」
「何か打つ手はないか?」
「今の所は……」
「そうか、買い続けろ」
「はい」
ラフィンは今年68歳になる。
政界には進まず、
事業を引き継いでここまでやってきた。
人狼賭博に一生を賭けてきた。
ここで逃げだす訳にはいかない。
ラフィンは秘書を伴い、
街を散歩する。
気晴らしに街のカフェでお茶をする。
「ラフィン様。あれはお孫さんではございませんか?」
秘書が指す方角には、孫娘がいた。
「声をかけようか」
そうラフィンが立ち上がった瞬間。
「お待たせ!」
孫娘の目の前に男が現れた。
ボロボロの服に首輪姿。
Tシャツには、
「NyAnKus iS NOt DeaD」
と書かれてあった。
ラフィンは静かにため息を吐き、
孫娘に近づいていく。
「おほん」
孫娘は振り返る。
「あら。お爺様。お久しぶりです。お元気でしたか?」
「あぁ元気だよ。お前も元気そうで」
「はい。お陰様で」
「学校の時間ではないのか?」
「今日は休校日ですわ」
「そうか。ところで、そちらの方は?」
「お爺様。お忘れになられましたか?婚約者のオイスターよ」
「あぁオイスター君か。雰囲気がずいぶん変わって」
「お久しぶりです。実はこれは投資で」
「投資?」
「お爺様。ご存じない?NyAnKus投資」
「NyAnKus投資?聞いたことがないね」
「学校でブームなのですよ」
「学校でブーム」
「はい。元々生徒会長のオイスターが、趣味で始めたものなのですけど、時代の風に乗って」
「そうなのかね。
しかしそういうモノは時代と共に廃れるもの。
適当な時期に売り払ったほうが」
「私の父もそう言っていましたが、今は父ものめりこんで、ずいぶん投資しています」
オイスターは言った。
「そうなのかね」
「はい。私も父から相続する財産を全て、NyAnKus投資につぎ込んでいます」
「それは、それは中々大胆だね」
「お爺様。オイスターはお爺様の御本に影響されて、NyAnKus投資に集中しているのよ」
「本?」
「お忘れになられたの?我が人生一本足」
「ラフィン様。20年ほど前に、ゴーストライターに書かせた本です。集中投資が人生のコツと書かれており、投資の指南書として、秘かなブームなのですよ」
秘書はラフィンに耳打ちをした。
「もちろん覚えているさ。
しかしね。
投資は時と場合による。
早めに切り上げて、別の投資先を見つけるのも一つだ」
「はい。肝に銘じます」
オイスターは笑った。
「ところで、その投資家は学校全体かね」
「はい。私の知る限り上流家庭の子息たちは、皆投資していますわ。上流家庭で買い支えてますから、暴落の心配もありません」
「そうか、邪魔したね。では私は社に戻ることにするか」
「はい。お爺様」
ラフィンは孫と別れた。
「NyAnKus投資がどの程度上流家庭に浸透しているか。調べてくれ」
「畏まりました」
そして、
三日後……。
あるシングルレコードが発売された。
『金持ちの娯楽でやりあう同族達』
ジャケットには人狼賭博の模様が描かれた。
バンド名はネズミ狩人。
シングルレコードは全世界で発売され、
人狼賭博の現状が明らかになる。
そして、
国会での追及があり308の存在が発覚し、
バブルは崩壊した。
残ったのは、
人猫族の怒りの叫びだけだった。
……
『ネズミカフェ アーマン is Not DeaD』
はNyAnKusバブルで大儲けをした。
そしてその利益を使い、
NyAnKusバブル崩壊の損切りで安値になった人虎族が経営する優良企業の株式を買い集めた。
社名をアーマンHoldingsに替え、
M&Aを専門に行うことになった。
アーマンHoldingsのアーマンは、外資系のハゲタカファンドと恐れられた。
「ねぇお母さん。お爺ちゃんはまだ帰ってこないの?」
アーマンは尋ねた。
「そうね。まだ帰ってこないわね」
「俺お爺ちゃんにお礼が言いたいんだ」
「なんて?」
「お爺ちゃんのお陰で、ネズミ肉の店アーマンが出来た。
そして俺のネズミカフェ アーマン is Not DeaD になって、アーマンHoldingsになった。
これお爺ちゃんのお陰だよ」
「そうよね。でもお前も頑張ったじゃない」
「たしかに頑張ったけど、兵士を辞めれたのは大きかった」
「そうよね。あれがうちの転換点だったものね」
「うん」
……
「なぁアーマン。最近首輪見ないな」
デートは言った。
「そうだな。もうやめたのかな」
「あれ一時期高く売れたよな」
「うん。そうだな」
「あれ長老が捨てろと言ってたろ」
「あぁ言ってたな」
「なんで隠れて売った?」
「なんでって、別にどうでも良いじゃないか?」
「教えろよ。もうあの頃のメンバーは俺らしかいないんだ」
「嫌だよ」
「なんだよケチ」
「わかったよ。しょうもない事だよ。笑うなよ」
「あぁ笑わねぇよ」
「あれな。ダニ除けになるんだわ。だから売れると思った」
「えっそうなの?めちゃいいじゃん」
「いやいや。お前らダニなんか気にするのは、男じゃねぇみたいな感じだっただろ」
「たしかにね。あの頃はな。肌とか気にするのはダサい感じだったものな」
「俺、結構美容意識が強いからな」
「そうだよな。たしかに」
「そういう事だよ」
「そういう事か……、ダニが血を吸うんじゃねぇってな」
「そうだよ」
END
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品は完結していますが、
反響があれば続編を書く可能性があります。
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