7.死闘
B隊東本部の扉が破られ、騎馬が食堂に流れ込んでくる
食堂のテーブルをもろともせず、突っ込んでくる
——情報もなく、突っ込んでくるな
隊長は体を低姿勢にして、先頭の10騎の足を剣一本で引き裂いた
「あぁーーーーーー」
敵の馬は倒れ、馬上の敵も馬から落ちて、体を強打する。後ろの騎馬も落馬する。
その間に隊長は食堂の明かりを全て消し、二階に上がり、矢を手に取った。
「やるじゃないですか。どなたか知らないですが。明かりを消しても意味ないですよ。早く出てきてくださーい」
ハスキーな声が場内に響き渡る
「おにいちゃん、素直に出てくるわけないじゃん。相当のやり手だよ~~誰か松明付けて~~」
女の子の高い声とともに松明が付けられる。
——シュッ
隊長は矢を松明に投げ、火を消した。そんな簡単に明かりをつけさせるわけにはいかない。
「……素晴らしい!!」
拍手しながら、ハスキーな声が聞こえてくる。
——今すべきことは時間稼ぎだ。これでいい。
「じゃっ、階段上ろうか~~みんな一斉に松明付けて~~階段探して~~」
女が指示をし、場内が明るくなる。食堂に敵が埋め尽くされている。
松明を持って2階に上ってくる敵は止めようがない。
2階は通路になっており、逃げこめるとしたら、隊長室、仮眠室、トイレなど各部屋しかない。
逃げ込んだとしても、その後逃げ場がなくなり、瞬殺だ。
なら、この赤い絨毯の細い通路で逃げながら、戦うしかない。
付け入る隙があるとしたら、相手が油断していることだ。
「分かった。降参だ。あなたたちの目的はなんだ。」
教えてくれるわけがない。しかし、これでいい。
「うーん。そうですね。国王の目的は分かりませんが、俺の目的は有名な首を取ることですかね。」
紫の髪に顔に大きな傷を負った真っ白な肌の10代後半のハスキーボイス男。A隊は基本赤の制服だが、男は特別に紫の制服を着ている。
「お兄ちゃん、簡単に教えちゃダメでしょ。私は教えないよ~~」
ハスキーボイス男と顔が似ており、真っ白な肌に紫とピンク色が混ざった髪の色をしたツインテールの10代後半の高音ボイス女。女も紫の制服を着ている。
「あなたたちは兄弟か何か?」
隊長はどうでもいい質問をする。
「いや、俺たちは双子だ。俺たちは凄くて、A隊のナンバー8がこの俺で、こっちの妹がナンバー11だぜ。」
ハスキーボイス男は自慢話に花を咲かせている。我々B国の東に隣接している国がアップルパイ国、通称A国。そのA国を支えているのがアップル隊、通称A隊。
——3年前の大戦以降は友好関係を築けていたはずだが……
「お腹すいてきたし~~早く片付けよ~~」
高音ボイス女は自慢話には興味がなさそうだ。
「そうだなーー。俺ら疲れてきたし、後は頼むわ。テキトーにやっちゃって。このおじさん結構有名かもしれんから、気を付けてね。」
ハスキーボイス男が率いている隊員に任せ、背を向け、階段を下りようとする。
「じゃあね~~」
高音ボイス女も隊長に手を振り、階段を下りようとする。
「フルトム・ルーベルト——暗闇のフルトム」
名前を聞いて、双子の兄妹は階段を下りる足を止めた
「それでも、他の隊員に任せるのか?この片腕の老いぼれに誇り高きA隊が恐れているとは言わないだろうな。」
2000人の束になって来られたら、確実に死ぬ。まず、リーダー対決に持ち込むべきだ。その後、束で来るだろう。しかし、リーダーさえやってしまえば、統率が取れなくなり、逃げ切れるはずだ。統率が取れなくなった隊は弱い。
「当たり前ですよ。A隊ナンバー8ワンダー・スケットが世界を荒らしたB隊元ナンバー3のあなたを駆除してあげますよ」
やはり、ワンダー兄妹か。最近、出てきた新鋭の若手。急成長していると聞いたことはあるが詳しくは……
「お兄ちゃん、挑発に乗らなくていいよ。他の隊員に任せようよ~~」
「A隊ナンバー1になる男が逃げるはずがないだろう。」
「はいはい。じゃあ、私も戦いますよ~~A隊ナンバー11ワンダー・コットン おじさん退治手伝いま~~す」
「2対1とはな。警戒してもらって光栄だな。」
「俺たちは2人でナンバーワンになるからな」
——キーン
剣と剣の交わる音が響く。
兄スケットは一瞬で間合いを詰め、二刀流を活かして、フルトム隊長を攻め立てる。
一方で隊長は剣一本でスケットの攻撃をいなす。
「お兄~~ちゃ~~ん」
妹コットンが呼んだ途端、兄スケットが高く飛び、兄の後ろに隠れていた妹コットンが真正面から矢を3本放ってくる。
——避けきれない
ブス。
隊長は2本の矢を避けることはできたが、1本の矢が左わき腹に突き刺さった。
瞬く間に、上空から兄スケットの猛攻が続く。
なんとか捌ききったが、また矢が飛んでくる。
間一髪で交わしきる。
——っ……まだ来るか
兄スケットは止まることを知らない。
捌ききれなかった剣が右腹部をかすった。
「流石元ナンバー3ですね。急所は絶対守ってくるのですね。それにこの猛攻を受けて、耐えた人はいなかったですよ。」
兄スケットは剣をしまい、拍手し、隊長を称える。
「お兄ちゃん、もう次で倒しちゃおうよ~~」
「ああ。でも倒す前に一つ聞いておきたいことがある。暗闇のフルトム、世界中を暗殺者として蹂躙したのは楽しかったですか?」
A国の剣豪が暗闇のフルトムによって殺されたというのは有名な話であり、兄スケットはフルトムに対して、多少の嫌悪感を抱いている。
「楽しいわけがないだろう。人を何人殺したって戦争は終わらない。だから、私はあの大戦以降、B1隊ではなく、B4隊に移り、戦争に関わらずに生きていこうと思ったのだ。」
フルトムは戦争が終わらないという現実から目を背けたのである。
「身勝手だね~~多くの人を殺しておいて、衰えたから戦争から逃げたんでしょ~~」
妹コットンの発言は正論だ。人を殺しておいて、自分だけ一線から退く。身勝手である。B国のためという建前、正義があったとしても人を殺すという行為はあまりにも残酷だ。
その残酷さに精神が耐えられなくなった。多くの人を殺しておいて。
「ああ。返す言葉はない。」
ランド、プルノにとんでもない願いを託してしまった……この世界から戦争がなくなってほしいという実現不可能な願いを
もう戻れない。最期にとんでもない罪を犯してしまった。9歳という年齢に私の理想を押し付けた……
「もうお兄ちゃん話すことないでしょ。」
妹コットンは口調が強くなる。お腹も空いたし、こんなおじさん次で終わりだし。
「ああ。戦争は終わらない。」
——シュン
妹コットンから3本の矢が飛んでくる。
——このままだとジリ貧だ。
フルトムは3本の矢を交わし、兄スケットに攻撃を仕掛ける。
もちろん、スケットは対応し、カウンターを仕掛ける
カウンターにカウンターを合わせるも、回避され、間髪入れずに3本の矢が飛んでくる
——っ避けられない
ブスブス
右腕でガードし、右腕に2本の矢が貫通する。貴重な片腕が機能停止になれば、死。
この兄弟は本当にナンバー1になる逸材だ。この阿吽の呼吸は今までに体験したことがない。
このまま成長すれば、とんでもない化け物になるだろう……
たとえこの兄弟を倒したとしても、私が大勢を殺した罪、9歳という子供に私の夢を託した罪、最愛の妻、娘を残してあの世へ行く罪は消えない……
しかし、最期に逃げることは許されない。
そう。B隊として。B4隊の隊長として。
「——こんな俺を許してくれ」
最期の力を振り絞り、兄スケットを狙うと見せかけて、妹のコットンに最大出力で接近する
兄スケットは油断していた。こんな速さを出せると思ってもいなかったため、反応が遅れた
「コットン!!」
妹コットンも反応ができず、首を切られ……なかった
コットンは近距離に弱いため、緊急用として、ボタンで弓が発射できる仕組みを開発した
間一髪。想定外だった。
——ポタポタポタポタ
フルトムの心臓を貫いた
兄は目を血走らせて、コットンを救いに突進してくる。
剣2本を使って、背中を向けて、ひざまずくフルトムの首を切りにかかる
想定外。
真剣勝負であればあるほど、想定外の動きは致命傷になる。
兄スケットはフルトムにとどめを刺せばよい。ただそれだけだった。
フルトムは死に直結し、感覚が研ぎ澄まされ、振り向き様に兄スケットの心臓を貫いた
油断で遅れを取り、想定外で兄ワンダー・スケットは命を落とした
——微かに妹コットンの泣き声が聞こえる
兄はおそらく死んだだろう
俺は人を殺して、最期を迎える
お似合いだな。地獄行きだ。どんな言い訳を並べてもそれは変わらない。
人に初めて話した夢。俺の叶えられない夢。
彼なら俺の夢を叶えてくれるかもしれない。
最期にそんな夢を見せてくれた。ありがとう。
城の外は雪が降り始めていた
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