6.フルトムの夢
今から食事が始まるので、隊員たちはみなワクワクしている。隊員たちにとって、食事が1番の楽しみだ。
「みんな2人のことを知らないと思うが、ランドとプルノが今日でB4隊を卒業する。今日の岩ヤギは二人が狩ってきた。2人に一言ずつもらう。では、まずポールト。」
100人以上の隊員が集まる食堂でフルトム隊長が立ち上がり、ランドビーとポールトを紹介する。岩ヤギとパン、野菜とスープが目の前に並び、いい匂いが漂っている。
「えーーみんなのこと全然知らないけど、B4隊を卒業出来て、嬉しいです。みんなも頑張ってください」
ポールトは立ち上がり、モジモジしながら、無難なことを言った。
「では、つぎ……」
「——俺の岩ヤギだぞ。覚悟ぢろ。」
隊長がランドビーを紹介する前にランドビーは急に立ち上がり、噛みながらコメントをした。空気がシーンとしている。
「……命に感謝して、いただきます。」
隊長は訳の分からないコメントをスルーし、手を合わせた。
「いただきます!!」
B4隊員たちは声を揃えたが、二人は知らなかったので、遅れて
「いただきます!!」
すると周りから笑い声が聞こえてくる。
「笑うな!!」
キレたランドビーをまた、周囲は笑った。
しかし、それは馬鹿にするような笑い声ではなく、卒業するが、迎え入れられるような笑い声だった。
そして、みんなは一斉に食べ始めた。
ランドビーは家族以外に食料を振る舞うのも悪くないと思った。
「みんな、お腹いっぱい食べてねー!!では、お先に―― !!」
食堂のおばちゃんたちは近所の家に帰る。隊員たちに自立を促すため、食器洗いなどは各自で行うことになっている。
「ありがとうございました――――!!」
隊員たちは大きな声でお礼を言う。
「ところで、岩ヤギ狩りだいぶ早かったが、どのような手を使ったのだ?特に運ぶことが大変だと思うが」
フルトム隊長がパンを食べながら、尋ねた。
「村のじいさんが凄くてな、馬車というものを貸してくれたんだ」
ランドビーは得意げに話す。
「それはすごいな」
「しかも、岩ヤギ100匹で貸してくれるところをなんと岩ヤギ50匹で貸してくれたんですよ!」
ポールトも得意げに話す。
「……お前たち馬鹿だな……くくくく……お腹痛い、お腹痛い」
すると、見たことないぐらい隊長が大笑いした。
周りにいた隊員たちも大笑いしている。
たまらずランドビーが言い返す。
「お前ら馬車の凄さ知らないだろ。馬車は岩ヤギいっぱい乗せて走れるんだぞ!」
ランドビーはキレた。こんなにバカにされたことは今まで経験したことがない。
「あの村のじいさんに頼めば、鳥一匹ぐらいで貸してくれるよ」
近くで食べていた自分より年下に見える隊員から真顔で言われた。
さらに、周りから大笑いされた。
「でも、逆に言うと、岩ヤギ100匹狩ったってことだよね?小さいのにすごいな」
しかし、自分より年上に見える訓練生から褒められて、素直に照れるランドビー。こういう和気あいあいとした雰囲気が初めてで戸惑う気持ちもあったが、お腹いっぱいなこともあり、幸せだと思った。
ポールトはランドビー、ルイの盾になるという目標に加えて、この国を守りたいと思った。
大勢の笑い声が聞こえるのが新鮮だった。
「みんな、そろそろご馳走様をするから、食べ終わりなさい」
隊長はこの幸せな時間を惜しみつつ、明日の訓練のことも考えて、きりあげようとする。
「はーーい!」
そんな和やかな雰囲気のなか———
「———敵襲———敵襲———東から敵襲———敵の数およそ2000。もう一度言う敵の数およそ2000。隊長指示を。」
「よく聞け隊員たちよ、隊長命令だ。一目散に西に逃げろ。逃げることだけ考えなさい。」
隊長は席から立ちあがり、声を震わし、命令した。
「はい」
隊員たちは隊長を信じているからこそ、返事をし、一目散に逃げていく。
「ランド、プルノB4隊員を護衛しろ。お前たちはもうB3隊だ。行け。」
「はい。責任をもって、護衛します。」
ポールトは反射的に返事をする。
「ちょっと待て」
ランドビーは目を伏せている。
「護衛兵トール、敵は何騎だ?」
「およそ300騎、歩兵が1500程度です。」
「護衛兵トールはランド、プルノとともにB4隊員、国民を護衛しろ。」
「は」
護衛兵は返事をし、西に逃げる隊員を追いかける。
「ちょっと待て」
ランドビーは声を荒げた。
「隊長命令だ。B4隊員を護衛しなさい。」
「おっさんは。どうするんだ。ここで死ぬつもりか。」
ランドビーは隊長がここで時間稼ぎをするつもりだと悟った。
門の前に到着した敵が門を壊す音がドンドンドンと聞こえる。
「隊長命令だ——行きなさい」
隊長はランドビーを見つめて、静かに伝えた。
「俺はもうB3兵だ。B4の隊長の命令を聞かない。俺の質問に答えろ。」
ランドビーはさらに大きな声で命令に背く。
「俺も隊長が死ぬつもりならば、一緒に戦います。俺の目標はランドビーとルイの盾となること、さらに、大切な人の盾になることです。」
ポールトも引き下がるわけにはいかないと思った。
「そうだな……二人は自分の考えを曲げなかった。……教え子として、誇りに思う。私はここで死ぬつもりはない。だが、私はB隊だ。国民を守る義務がある。フルトム・ルーベルトとして、ランド・ブレークファースト、プルノ・ポールトにお願いがある。俺の命よりも大切なB4隊員を護衛してくれ。そして、ランド、プルノも必ず生き残れ。それがお願いだ。」
二人は黙った。
「そのお願いを聞いてくれないか?頼む」
隊長は微笑み、二人は悔しさを噛み締める。
「…………おっさんの願いを聞いてない、おっさんの願いを教えてくれ」
隊長が微笑みながらも真剣な目だった。でも、ランドビーは隊長としての願いに聞こえた。
「…………私の夢はこの世界から戦争がなくなることだ。今は無理かもしれないが、ランド、プルノなら叶えられる。私の代わりに叶えてくれないか?」
隊長は微笑み、しゃがんで2人の頭を撫でた。
「…………わかった」
「…………わかりました」
隊長の温かい胸の中で悔しさ、悲しみがこみ上げてくる。
「———俺には妻と娘がいる。妻には「永遠に愛してる」と伝えてほしい。娘には、「これからどんなことがあっても、お父さんはマリアの味方だ。」と伝えてほしい。」
隊長は微かに目に涙を浮かべ、目を瞑った。
「フルトム隊長……隊長の願い必ずかなえる。」
ランドビーは喉が枯れ、気力はないが、声を振り絞った。
「フルトム隊長……必ず伝えます。」
ポールトは声が震え、体も震えながら、約束した。
「ランド、プルノは自慢の教え子だ。必ずできる。」
隊長は俺たちを強く抱きしめた。
「さあ、振り返らず、行け」
ランドビーは自分のことを強いと思っていた。フルトム隊長よりも強いと思っていた。しかし、現実は守ってもらうことしかできない。2000という敵の数には敵わないと直感で分かる。死ぬ覚悟とは、こういうことなんだろう。
フルトム隊長は敵の方向に突っ込んでいく。まただ。目の前で人がいなくなる。ルイの時と変わっていない……
「ああぁ—————フルトム隊長—————」
ランドビーは泣きながら、悔しさを噛みしめながら、振り返らず、西に走る。
「フルトム隊長—————————」
ポールトも泣きながら、振り返るのを我慢して、突っ走る。
珍しく安定していた天気も形相を変え始めた。
エピソード6.フルトムの夢を読んでいただき、ありがとうございます!
評価、感想、ブクマ、なんでもいいので、もらえると非常に嬉しいです!
明日も投稿するので、よろしくお願いします!




