33.指を咥えて待つことしかできない
「あれ……ヘルビン様は……どこっぽ?」
ヘルビン対ガリオラの戦場についたニットたちは影となっているところでひっそりと戦場を観察した。
ニットは真っ先にヘルビンを探した。
ヘルビンさえいれば、どんな状況でもひっくり返すことができると信じている。
「というか、ヘルッピー団がもういない……っぽ」
「白と黒のボーダーを着たやつら……世界脱獄集団に違いない。」
ポールトは興奮気味に言った。
「ルイはここにいるのか……」
ランドビーはルイがここにいると信じていたが、A隊と世界脱獄集団が戦場を占拠している状況を目の当たりにして、ここにはいないかもしれないと思った。
——ルイは戦争を一番嫌うやつだ。だって……お父さんとお母さんは戦争によって殺されたから。
じゃあ、ここにいないじゃないか。俺は馬鹿なのか。
ランドビーは世界脱獄集団がすぐに見つかったことが嬉しくて、現実が見えていなかった。
「ヘルビン様とヘルッピー団はどこに行ったんだ?」
「A隊ナンバー3のシエがいる戦場は?」
「まさか……ヘルビン様が」
「黙れ、そんなわけないだろう」
「静かにしろ」
次々とヘルッピー団の隊員たちが不安を吐き出すように口を開く。
「私がシエの戦場を見に行ってきます。」
マリアはシエのカオスな戦場を抜け出すために、チームメンバーに投げてもらった恩
がある。
マリアは少し絶望していた。
なぜなら、戦場の方向的に、先にシエの戦場が世界脱獄集団に荒らされたと推測できるからだ。
「ここに長居するのも見つかる可能性があるから全員でシエの戦場に行くっぽ。」
ニットはA隊と世界脱獄集団に見つからないように大回りをして、シエの戦場に向かう。
「ルイが……ここにいるかもしれ……」
ランドビーは話すのを途中でやめて、おとなしくシエの戦場に向かう。
ポールトもルイがここにいるとは到底思えなかった。
仮にここにいたとしても、どうやって助け出すのか。
世界脱獄集団はおよそ5000騎いて、ポールトたちは90騎程度。
この人数差はひっくり返しようがない。
「世界脱獄集団って何がしたいんだよ。」
ランドビーはマリアの制服を強く握り、怒りを露にする。
「B国に恨みでもあるんじゃねーか。クソみたいな集団だ。」
ポールトもイライラした感情を抑えられず、乗っている馬を殴りそうになる。
冷たい夜風ですら、敵のように感じる。
「……チンタマは……無事だよな。な、ランドビー」
ポールトはチンタマがいなくなってしまったんじゃないかと不安になる。
「まさか、ヘルビン様がやられるわけないだろ。てことは、チンタマも無事に決まってるさ。チンタマと約束したし……戦争が終わったら、みんなで朝ごはんを食おうって。」
「そうだよな……トールさんは……」
「無事だ。カルロス隊長とロールおばさんと共に帰ってくるに決まってる。
ポールト俺たちはフルトム隊長に守ってもらった命だぞ。
こんな戦争で死ぬわけない。」
「そうよ。お父さんは天国で見守ってくれてるの。必ず、お父さんが守ってくれるよ。」
マリアは星空を見上げて、目を輝かせて言った。
「そうだよな……フルトム隊長が見守ってくれてる」
ポールトはそう思うと、少し心が落ち着いた。
その後、すぐにシエの戦場が見えてきたが、争っているような声は聞こえてこない。
ニットたちは、また影のところで身を潜めて、戦場を観察した。
そして、ニットは首を振る。
「もういないっぽ。」
シエの戦場もA隊と世界脱獄集団によって、占拠されていた。
さらに、大きな森の方角から、B隊がやってこないか見張っている様子である。
ニットはこれからどうするか、頭を使おうと思ったが、すぐにやめて、直感で選択することにした。
「我らは今からB国に向かうっぽ。
ヘルビン様はもうB国に戻ってらっしゃるはずっぽ。
ヘルビン様は「必ず全員で生きて帰る」とおっしゃっていたっぽ。
コットンは仕留められなかったが、十分な戦果は持って帰られるっぽ。」
そう言って、ニットたちがB国に帰ろうと思った瞬間……
大きな森の方角から300騎ほどが地を揺らして、走ってくる。
——誰っぽ?
その300騎はA国と世界脱獄集団の5000騎を超える強固な見張りをかいくぐって、B国の方へ逃げていく。
A隊と世界脱獄集団もその300騎を追いかけるが、全然追いつかない。
遠くて、はっきりとは分からないが、逃げている300騎がB隊であることは間違いなさそうである。
「ヘルッピー団行くっぽ!!」
ニットはあの300騎に注目が集まっている状況をチャンスだと考え、あの300騎と距離を取り、ひっそりと馬を走らせる。
「ルイを見つけたい」
ランドビーは本音を漏らす。
「俺もルイを見つけたい……けど、この状況じゃ」
ポールトは悔しい気持ちを抑え、馬に身を任せ、ニットたちとともに逃げる。
「ここにルイがいなかったとしても、このまま逃げたくない」
「俺だって嫌だ。でも、どうしろって言うんだよ。ランドビー教えてくれよ。」
「…………分からない」
「…………」
ランドビーとポールトは世界脱獄集団が目の前にいる絶好機であるにも関わらず、指を咥えて待つことしかできない。
そして、黙り込んでしまった。
「気持ちは分かるけど、今は逃げることに集中しよ。
生きてれば、いつか必ず、ルイ君を取り戻すことができるよ。」
マリアは2人の気持ちを尊重しつつ、馬の手綱を握って、前だけを見ている。
ここからB国まで馬で2時間程度であり、逃げているあいだ、いつ敵が襲いかかってくるか分からないため、集中力を切らすわけにはいかない。
「…………」
「…………」
ランドビーとポールトはどうすることもできない状況で何も言えなかった。
——実力があったら、何かできるのかな……
お父さんがここにいたら、ルイがここにいたら、フルトム隊長がここにいたら
ホープおばあちゃんなら、笑って許してくれるかな
ランドビーは馬の上で地面を眺めながら、頭を使うことしかできない。
ランドビーとポールトが黙りこんでいたところに大きな声が鳴り響いた。
「——敵襲——敵襲——後方からA隊と脱獄集団が追ってきます!!敵の数およそ1000!!」
「飛ばすから、2人ともしっかり捕まって」
マリアはそう言って、ヘルッピー団の先頭を目指して、馬をもの凄い速度で走らせた。
真っ暗な空からお日様の片鱗が姿を見せようとしていた
エピソード33.指を咥えて待つことしかできないを最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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