28.それぞれの葛藤
雨が上がり、雷だけが鳴る異常気象となった。
「今から配置を言うっぴ。
ワンダー・コットンは兄が戦死したから、そこまでの脅威ではないっぴ。
だから、経験の浅い順に300騎でコットンをやっつけるっぴ。
残りの676騎でガリオラを倒すっぴ。
コットンの指揮はニットに任せるっぴ。」
ワンダー・コットン500騎とホン・ガリオラ1000騎を倒すための、チーム分けが行われた。
ヘルビンがホン・ガリオラ戦の指揮を行い、ヘルビンの右腕のニットがワンダー・コットン戦の指揮を執ることになった。
もちろん、経験が一番浅いランドビーたちはコットンをやっつけるチームに振り分けられる。
ランドビーとポールトはフルトム隊長の仇を取るという心しかなかった。
「俺はどうすれば……」
チンタマは葛藤を抱えていた。
チンタマは腹の傷が悪化している。止血はヘルッピー団にしてもらったもののこれ以上動ける様子ではない。
ランドビーとポールトは復讐心に駆られ、チンタマのことを忘れていた。
「チンタマ、ついてこれるか?」
ランドビーは無茶なことを言う。
コットンに気を取られ、正常な判断ができていない。
ランドビーは心ここにあらず状態で無責任である。
「チンタマに無理をさせるのはやめた方がいい。その怪我が悪化すると、今後に関わってくるぞ」
ポールトは冷静にチンタマの状況を見極める。
「……」
チンタマは言葉を失ってしまった。
別にランドビーとポールトに憎しみがあるわけではないし、友達だと思っている。
だけど、友達だからこそ……何か頼ってほしかった。何かの力になりたかった。
強くないし、役に立てることがないから、頼ってくれないのは百も承知で、何か役に立ちたかった。
チンタマは"また"挫折してしまった。
小さい頃も弱さから挫折してしまった。
友達なのに、疎外感を感じてしまった。
命を預けるチームなのに……
——自分が弱いから、仕方がない……ランドビーとポールトは一切悪くない。悪いのは自分だ。
「怪我人で動けないものは私の周りで盾となるっぴ。」
ヘルビンは動けないであろう隊員を数人みて、そう伝えた。
チンタマにとっては何か役に立てるというだけで、ヘルビンの言葉が嬉しい言葉だった。
他に動けないであろう隊員はヘルビンの周りに集まった。
——ランドビーとポールトにできるだけ迷惑をかけないように……
チンタマは無言でランドビーたちの元を離れた。
「とりあえず、やられることなくコットンのところまで辿りつくぞポールト」
「もちろんだ。周りの敵は他のヘルッピー団に任せて、コットンに集中するぞ」
「なら、できるだけ後方の位置取ろうぜ」
「それか、中段の位置で途中から抜けて、コットンのところまで行くのはどうだ?」
「うーーん……」
ランドビーとポールトはコットンを倒す方法の話し合いに夢中である。
「あれ?チンタマどこ行った?」
ポールトがチンタマがいないことに気づく。
「あ、あそこだ」
ランドビーが辺りを見渡すと、チンタマが松明を持って、ヘルビンの方へとトボトボ歩いていくのを見つけ、指でチンタマを指す。
——あ
ランドビーはひとりぼっちで歩くチンタマの姿をルイの姿と重ねた。
——ルイもあんな感じで、寂しそうに1人で歩いて行った。
それは分かってたけど、俺も腹が立ってしまった。
でも、今は違う。俺はもう後悔したくない。
「……チンタマ!!俺らチームだろおぉが!!1人でどっか行くなよ!!」
ランドビーが声の限り叫ぶ。
また、やってしまった。
フルトム隊長の仇を取ることじゃなくて、もう後悔したくないんだ。
「俺ら友達だろ!!」
ポールトもランドビーに負けじと声を張る。
チンタマは振り返り、言葉を発さずに伝える。
お腹が痛いのを我慢して、馬から下りて、腰を回して、股間を回す。
「あいつ、チンタマダンスしたのか……」
「たぶん……」
松明を持ってたとしても、暗闇の中で見えにくかったが、チンタマはおそらくチンタマダンスをした。
ランドビーとポールトはチンタマの意外な返答にどう答えたらいいかわからなかった。
ランドビーはチンタマがチンタマダンスを初めて披露した時に言っていた言葉を思い出した。
『苦しい時こそ、辛いときこそ、頭を回すのではなく、股間を回せ』
——チンタマが言いたかったことは頭を使うなってことか……
目の前の敵に集中しろってことか……
信じようチンタマを
「戦争が終わったら、必ずみんなで朝ごはん食おうぜ!!」
ランドビーはもう一度声を張り上げた。
ランドビーは頭を回す必要はないと思った。
心のままに生きれば良いと思った。
しかし、ポールトは逆に頭をフル回転させた。
——大切な人の盾になるとは……
トールさんの盾になることができていないし、遡れば、フルトム隊長の盾にもなれなかった。
色々、言い訳が出てくるけど、今もこうやってチンタマの盾になることができていない。
かといって、チンタマの盾になれるほど余裕があるかと言えば、そうではない。
さっきはカオスの戦場で、なんとか誤魔化して、チンタマを護衛することができたけど、コットンとの戦闘では、おそらくスピードが求められる。
あの怪我でチンタマが付いてこられるとは思えない。
じゃあ、ヘルビン様に任せた方がチンタマは安全かもしれない。
俺の目標は叶えることが不可能なのか……
「おい、何ボーっとしてんだ。ポールト行くぞ」
ランドビーが後ろを振り返って言った。
ヘルビンの右腕ニットがもうすでに馬を進めている。
300騎近いヘルッピー団も後に続いている。
「おう」
俺の目標は、不可能な目標なのかもしれない
ヘルビンとニットがそれぞれ馬をゆっくり進ませる。
不意打ちではなく、正々堂々と戦う気である。
「なんか来てくれるらしいよ~~"あいつら"」
ワンダー・コットンは高音ボイスでガリオラに伝える。
「"あいつら"って、何がしたいか分からんが、"協力"してくれるっていうなら大歓迎だ」
「それまで辛抱だね~~」
「絶対耐えろよ」
「もち~~」
「というか敬語使って~~私の方が数字上なんだから~~」
「暗闇のフルトムを倒しただけで、俺を抜いていくなんてたまったもんじゃねーぞ」
「それにお前の兄がしんで弱体化して……」
——シュッ
「殺すよ」
ガリオラのトゲトゲの突っ張った髪はコットンが超至近距離から放った三本の矢によって、少し刈り取られた。
「すまんすまん」
コットンとガリオラは話し合いと少しの喧嘩を済ませ、距離を取って、徐々に近づいてくるヘルビンとニットを待ち構えた。
雷だけが鳴る異常気象とともに決戦が始まる
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