13.大戦
制服を強く掴まれても、2人はどうすることもできず、ただただ泣き叫ぶフルトム隊長の奥さんの悲痛な声を聞くことしかできなかった。
奥さんがおぼつかない足で外に出ていこうとした。
「待ってください。待ってください。」
ポールトは待ってほしいと言ったが、その後に続く言葉が出てこなかった。
隊長の奥さんは外に出て行った。
思わず、二人は奥さんについて行った。
「——ついてこないで」
奥さんは叫んだ。
それでも2人はついて行った。
外は雨が降り始め、遠くで雷が鳴っている。
やはり二人はかける言葉が見つからず、ただついていった。
「どうして、どうして私の夫が…」
奥さんは雨に打たれながら、雷が轟く中、静かな声でボソボソと言っている。
「まずは家に戻りましょう」
ポールトが家に戻ろうと伝える。
それでも奥さんは戻ろうとしない。
「奥さん、家に戻った方がいいよ。雨に打たれて風邪ひいちゃうし、フルトム隊長もそんなこと望んでないと思う」
ランドビーはフルトム隊長の名を出し、なんとか家に戻ってほしいと伝える。
「あなたたちに夫の何がわかるの」
ぬかるんだ地面に膝をつき、顔を手で覆いながら、言った。
二人は黙ってしまった。
当たり前だが、自分たちよりも奥さんの方が長い時間いて、フルトム隊長のことなんてまだ何も分かっていない。
「——お母さん」
背後から声をかけたのは、フルトム隊長の娘だと思われるB隊の制服を着た20代前半の女性だった。銀髪のショートカット、褐色肌で身長はかなり高い。
娘のマリアは膝をついている奥さんを強く抱きしめた。
「お父さんは最後まで国民のために戦ってくれたんだよ。とにかく、家に入ろう」
雨が滝のように落ちてくる。
娘のマリアはお母さんを背負い、家の中に入っていった。
奥さんは娘の言うことだけは信じることができた。
家に戻ると、妻は疲れ果て、正気を失ったような顔をしていた。
娘は母親の顔を見て、静かに涙を流している。
二人は遺言を伝えて帰ろうと思った。
自分たちが居ていい場所ではないと感じた。
「フルトム隊長から遺言をもらいました。
妻には『永遠に愛してる』と伝えてほしいと言われました。
娘には『どんなことがあっても、お父さんはマリアの味方だ』と伝えて欲しいと言われました。
フルトム隊長は最後、俺たちを守ってくれました。本当にごめんなさい。」
ポールは遺言を伝え、頭を下げた。
「本当にごめんなさい。」
ランドビーも続けて、頭を下げた。
二人は泣く資格はないと思っていても、どうしても涙が溢れてしまった。
ランドビーとポールトは抱き合って泣いている2人に頭を下げて、家を出た。
雷が轟き、大雨のなか、中央本部に向かった。
しかし、その足取りは重く、空気も重かった。
ランドビーは後悔の念に駆られる。
——また同じことを繰り返した。
フルトム隊長をひとりぼっちにさせた。
自分の力が足りなかった。本当はもっと強かったら……
ルイをひとりぼっちにさせた。
自分がルイに意地悪をした。本当はそんなことしたくなかったのに……
——俺のお父さんもひとりぼっちにさせた。
3年前の大戦で俺たちの住むオレンジ市はA国、C国、D国、E国の合併隊に襲われた。
B国全体が襲われたらしい。
—— 3年前
夕暮れ時のオレンジ色の太陽に積乱雲が顔を見せ始めていた。
『ただいまーー!!ママ』
『おかえり、ブレークファースト』
『今日もルイと遊んできた!!虫たくさん取れた!!』
『すごいわねブレークファースト。将来、パパみたいにすごい狩猟士になれるわ。』
『パパみたいにかっこいい狩猟士になりたい!!』
『じゃあ、今日一週間ぶりにパパ帰ってくるから少しずつ教えてもらおっか!!』
『パパ早く帰ってこないかなーー!!』
オレンジの太陽が消えて、積乱雲が主張し始めた。
……真夜中になって、大雨が降っている。
『もう寝ようかブレークファースト。ニーナの横で寝てきなさい。また明日、パパに教えてもらったらいいわ。』
妹のニーナはランドビーと一緒にパパの帰りを待っていたが、すぐに疲れて寝てしまった。
『分かったよ。ママ』
少し悲しそうな顔をして、ランドビーは眠りにつく。
明日、パパが帰ってくることを楽しみに待ちながら。
———— ブレークファースト!!ブレークファースト!!
ママが叫んでる?
———— ブレークファースト!!ブレークファースト!!
どうしたの?ママ
ランドビーは眠い目を擦りながら、起き上がると、切羽詰まった顔をしたママがニーナを抱っこして、何か準備をしている。
さらに、不気味な警報の鐘の音が聞こえる。
『——ブレークファースト。敵がもうすぐ来るから今すぐ出るわよ。』
何を言ってるのか、理解できなかった。
よく分からないままパジャマのまま外へ出る。
外へ出ると、遠くの丘に大軍の敵が地を揺らして、こっちに向かっている。
……パパは?
ママに連れられて、敵と逆方向へ走る。
近所の村の人も続々と走って逃げている。
『みなさん、とにかく中央に向かって、逃げてください。』
近所のヤードおじさんが大声を出して、避難指示を出している。
ビコおばさんも隣で避難指示を手伝っている。
……パパは?どこ?
……ルイもどこにいるの?
『とにかく逃げるのよ』
ママは差し迫った声で必死に走る。
『パパは?』
『パパは大丈夫よ。』
『ルイは?』
『ルイも大丈夫よ。』
ママが大丈夫って言うなら大丈夫か。
嵐の中、そのまま逃げ続けた。
13.大戦を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。ブクマ、感想、評価などまってます!!
次の話で第一章が完結します!!
次の話も読んでいただけると幸いです。




