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死神の影と、掠め取られた光

荒野は沈黙を纏っていた。

クレスとの修行を終えたオリビアとロンドは、

青い光の目撃地点とされる「囁きの谷」へと足を進めていた。

谷底には古い岩塩の鉱山跡があり、

その奥から時折、

アムズガルドの朝霧を思わせる淡い青色の光が漏れ出している。


『オリビア、空気が重い。……誰か他の気配がする』


ロンドの羽毛がわずかに逆立つ。

オリビアは身を低くし、岩陰に隠れた。

前方、光が漏れ出す洞窟の入り口には、すでに三つの人影が立っていた。

死神ルカ――そして、彼のパーティの面々だ。


「……バルドの言った通りだ。

確かに、ここには世界樹の残留魔力が溜まっている」


ルカの声が冷徹に響く。

彼の傍らには、

大剣を背負った筋骨隆々の戦士と、

杖ではなく奇妙な水晶球を携えた痩せぎすの術者が控えていた。

彼らの装備は、オリビアの持っている「魔鉄の短剣」とは

比較にならないほど洗練され、呪符や魔導具が至る所に組み込まれている。


「雑魚の相手など、この荒野では手間賃にもならん。サッサと終わらせるぞ」


(……手間賃、にもならない?)


オリビアはその言葉に胸を突かれた。

彼らにとって、世界樹の光は「資源」に過ぎないのだ。

彼女の一族が何世紀もの間、

イグドラルの枝葉の揺らぎを整え、

精霊の調べを調律することで守り続けてきた、

あの神聖な光。

それがここでは、

金貨と引き換えにされるただの物質として扱われている。


オリビアは、ルカたちが光を吸い上げようと

儀式を始めたのを見て、衝動的に飛び出した。


「待って!」


ルカが驚く間もなく、

洞窟の入り口から数頭の「ストーン・ゴーレム」が

地中を割って現れた。

魔物の群れは光に誘われ、ルカたちを包囲しようとしていた。


「チッ、目障りなエルフだ! 貴様、何しに来た!」


ルカの剣が火花を散らし、

ゴーレムを両断する。しかし、次々と現れる敵に、

彼のパーティも防戦一方とならざるを得ない。

オリビアは躊躇した。

ルカは確かに性格が最悪で、自分を小馬鹿にした相手だ。

だが、このままでは彼らは魔物に飲み込まれ、青い光もまた散逸してしまう。


『オリビア、お前の好きなようにしろ。私がお前の翼だ』


ロンドの言葉が、迷いを断ち切った。

オリビアは新しい黒鉄の短剣を抜き、

ゴーレムの関節部――魔力の核へと繋がる歪み(ノイズ)を瞬時に見抜く。


「ルカ、光を吸うのを止めて! その岩の核、そこを突けば崩せる!」


オリビアはルカの背後に滑り込み、

死角から迫るゴーレムを短剣で一撃した。

魔鉄の刃が石の硬度を無視して食い込み、

結晶化した魔力を遮断する。ゴーレムが崩れ落ち、

驚愕するルカの視界が開けた。


「……なぜ助けた。俺を出し抜いて光を奪う気か?」


ルカは短剣を構えたまま、オリビアを睨む。

オリビアは息を荒くしながら、それでも毅然として答えた。


「これは資源なんかじゃない。

私たちの……世界樹の調べなの。

それを壊すくらいなら、あなたたちと戦ってでも守るわ!」


二人の冒険者の間で、火花が散る。

青い光が洞窟の奥で激しく明滅し、荒野の風が二人を煽った。

死神と呼ばれる男と、ただの「守護者」だった少女。

その出会いは、最悪の形での「共闘」を強いることになった。

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